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Horror Dinner 〜××高校の放課後怪奇譚〜  作者: 山下愁
第9怪:幽霊交番

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第2話【交番】

「あれ」



 夜遅くのことだ。


 鬼灯が歩いていると、道端に交番があった。

 月無町つきなしちょうにも交番がある。この幽霊だらけの月無町にも、一応は警察の存在がいるのだ。まあ人身の事件よりも幽霊の事件が圧倒的に多いのだが。


 その交番だが、明かりはついているものの誰もいないのだ。



「明かりが付けっ放し?」


「いいや、違うな」



 そこら辺で捕まえてきた変な形状の幽霊を口の中に詰め込みつつ、銀髪赤眼の男子生徒――ユーイル・エネンは否定する。



「オマエは聞いたことがないか? 月無町つきなしちょうの交番は『幽霊交番』と名高いのだ」


「幽霊交番?」


「夜勤の警察官を脅かしにくるんだと。それが果たして何なのか不明だがな」



 ニヤリとユーイルは笑うと、



「鬼灯よ、興味ないか」


「興味ない」


「なぬッ!?」



 鬼灯がさっさと交番の前から立ち去ろうとするが、ユーイルが鬼灯の腕を掴んで引き止めてきた。


 月無町つきなしちょう交番を『幽霊交番』と呼称するのだから、きっと昔からこの話はあるのだろう。

 生前は幽霊や妖怪などの類に大変興味を持っているようだったが、鬼灯のように霊感がなかったので幽霊や妖怪を見る機会がなかった。だが現在は幽霊を食らう幽霊となったので、食事ついでに噂の真相を確かめたいのだろう。


 そして、鬼灯の幽霊を引き寄せる体質を利用する気満々だ。出来るなら巻き込まれたくない。



「早く帰るよ、永遠子とわこが帰りを待ってるんだから」


「嫌だ嫌だ、幽霊交番の噂をたーしーかーめーたーいー」


「貴方は一体何歳児なのよ。今時の子供だってそこまで駄々は捏ねないわよ」



 深々とため息を吐いた鬼灯は、



「仕方がないわね、少しだけよ。警察官の人に話を聞いてみるだけにしよう」


「やったー」



 子供のように飛び跳ねて喜びを露わにするユーイルを無視して、鬼灯は無人の交番に歩み寄った。


 建物の中を覗き込んでみるが、人の気配がない以外はどこにでもある普通の交番である。事務机には開きっぱなしになった日誌があり、ボールペンが物寂しげに転がっている。

 煌々と蛍光灯がリノリウムの床に明かりを落とし、それでも来訪する人間はいない。警察官も鬼灯の訪れを感じて奥から出てくる訳でもない。



「すいませーん」



 鬼灯は交番の奥に向かって呼びかけてみる。



「あの、おまわりさーん。いませんかー?」


「鬼灯よ、何をしている」


「何って、一応呼んでおかないとダメでしょ。警察の人に怒られるよ」



 ユーイルに訝しげな視線を向けられたので、鬼灯はそう返した。


 すると、奥から何かが揺れる音がした。

 物音のようだが、警察官はまさか交番の奥に引っ込んでいるのだろうか。有事の際に対応できるか心配である。



 ギィ。



 交番の奥に取り付けられた扉が少しだけ開いて、交番内を覗き込んでくる。


 若い警察官だ。鬼灯よりも少し上に感じる程度だが、実際の年齢は不明である。

 昼間に見かけたことはないので、おそらく夜勤で来ている警察官なのだろう。夜は幽霊が活発に動くのに、夜勤で交番を守らなければならないのは些かきついだろうに。


 警察官の血走った眼球が、交番を訪れた鬼灯に向けられる。



「……君は」



 掠れた声を紡ぐ警察官は、意味不明な質問を投げかけてきた。



「生きているのかい?」


「はい?」



 思わず鬼灯も聞き返していた。


 突拍子のない質問である。意図もよく分からない。

 ただ、若い警察官が「生きているか?」と聞いたのだ。鬼灯が死んでいると思ったのだろうか。



「生きていますが……」


「な、名前は? こんな時間に出歩くと危険だ」


幽ヶ谷鬼灯(かすがだにほおずき)と言います。あと私は大丈夫です、連れがいますので」



 鬼灯はそこまで答えて「あ」と気づいた。


 そういえば、連れのユーイルは幽霊である。鬼灯はクッキリと見えているからすっかり忘れていた。

 肝心のユーイルは天井付近をクロールで泳いでおり、退屈そうに「幽霊が出てこないだろうか」などと言っていた。見えていないからって好き放題である。


 すると、若い警察官は天井を見上げ、



「それは、あれかい?」



 天井付近を泳ぐユーイルを指差して言った。



「え、見えているんですか?」


「クロールで泳いでいるね……はは、幻覚かな」



 若い警察官が苦笑いをすると、自分のことが見えていると判断したユーイルがクロールを止めて警察官に詰め寄った。



「何だ、オレのことが見えているのか」


「ひいいッ」



 警察官は慌ててユーイルから距離を取り、その反動で足を縺れさせてすっ転んでしまった。



「ユーイル、驚かせないであげて」


「何だ、面白いのに」



 ユーイルが頬を膨らませて不機嫌を表現するが、鬼灯は無視してすっ転んだ警察官の身を心配した。



「大丈夫ですか?」


「あ、ああ、平気さ……これぐらい……」



 若い警察官は沈んだ表情で立ち上がると、



「き、君たちに頼むのもあれなんだけど」



 とても言いにくそうに、若い警察官は鬼灯と幽霊のユーイルに頼んできた。



「少し、話をしていかないかい? お茶でも出すからさ」


「はあ……何かあったんですか?」


「い、いや、その。や、夜勤は暇でね、あははは」



 笑う警察官だが、何故かその表情は強張っている。

 よからぬことをしようと企んでいる訳でもなさそうだ。ただ、何か深い事情を抱えているような。


 若い警察官の何かを悟ったユーイルが、



「それは、この幽霊交番にまつわる話か?」



 若い警察官の表情が固まった。


 どうやら当たりらしい。

 この交番は、幽霊が出るのか。


 ニヤリと笑った銀髪赤眼の男子生徒は、



「聞かせてもらおう、オマエに何があったのか」



 食事の気配を察知したらしいユーイルは、舌舐めずりをして若い警察官からの話を迫った。

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