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Horror Dinner 〜××高校の放課後怪奇譚〜  作者: 山下愁
第8怪:オシラ様

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第5話【邪神様】

 ぱしゃん。


 ぱしゃん、ぱしゃん。


 ぱしゃん。



 水を打つ音が絶えず聞こえてくる。


 それはまるで、子供が水辺で遊ぶような雰囲気がある。

 もっとも、背後にあるのは藻が浮かんだ汚い沼だ。そこで遊ぶ子供なんていないだろう。


 鬼灯はゆっくりと背後へ振り返る。振り返らなければならない、という使命感のようなものがあった。



「ひッ」



 上擦った悲鳴が口から漏れる。


 藻が浮かぶ深緑色の沼の中心に、真っ白な腕が伸びていた。

 水をすくい上げては放り、それが音を立てていたのだ。



「ふむ、これはまずいな」



 銀色のナイフを逆手で握りしめるユーイルは、沼から伸びる手と木の影から伸びる手に視線をやって言う。



「囲まれているか」



 その言葉を皮切りに、何かが視界の端で蠢いた。



 ぬうー……。



 真っ白な布を被った誰かが、まず沼の中心からゆっくりと這い出てきた。


 藻が浮かぶ深緑色の沼から、音もなく出現する。

 真っ白な髪型頭まですっぽりと覆い隠した布の下から垂れ落ち、顔は俯いているせいでよく見えない。水面から三センチほど浮かんでいる女性とも男性とも呼べないそれは、枯れ枝のように細い腕を伸ばしてきた。



「…………ッ」



 息を呑む。


 その手の動きは、まるで「こっちへおいで」と言っているかのような手招きだった。

 ああ、これでは沼の中に引き摺り込まれてしまう!



「まず厄介なのはこちら側か」



 銀色の何かが、鬼灯の横を通り抜けた。


 深緑色の沼の上を飛び、銀色のナイフを振り翳す。

 鬼灯を相手に手招きをしていた真っ白い誰かの首筋にナイフを突き立てたユーイルは、力任せにその真っ白い誰かの首を落としていた。



 とぷん。



 落ちた拍子に沼の表面が大きく波打つ。


 首は意外と重いのか、浮かんでくることはなかった。

 ユーイルからすれば食べようと思っていた食事が水の中に落ちてしまったので不満げに唇を尖らせていたが、さらなる問題はある。



「うむ?」



 首が落ちたにも関わらず、ユーイルの腕に枯れ枝のような白い誰かの腕が絡みつく。まるで逃がさないとでも言うかのように。



「ほう、自分から食われに来るとは殊勝な姿勢ではないか」



 銀色のナイフを握り直したユーイルは、その切先を相手の枯れ枝のような腕に突き刺した。


 噴き出る黒いもや、枯れ枝のような腕が暴れる。

 ユーイルはすかさず黒い靄を噴き出す腕を掴むと、銀色のナイフで白い誰かから腕を切り取った。黒い靄の量がさらに増える。


 枯れ枝のような腕を指先からゴリゴリと食べながら戻ってきたユーイルは、鬼灯の手を取る。



「逃げるぞ、鬼灯よ。さすが邪神だ、こちらの分が悪い」


「わ、分かったわ」



 ユーイルに腕を引かれ、鬼灯は月無ノ森のさらに奥へと逃げることにする。


 足を縺れさせないように気をつけながら、足場の悪い獣道をただ走る。

 背後から何かが追いかけてくることは理解できた。足音がすぐそこまで迫っているのだ。



 かりかり、かり。


 がさがさがさ。


 かり、かりかり。


 がさがさがさ。



 時折、木を引っ掻くような音が聞こえてくる。


 木の影から伸びていた無数の腕が、逃げるユーイルと鬼灯のことを追いかけているのだろう。恐ろしい気配が背中の方から感じ取った。

 捕まれば終わりだ、相手は邪神だから何をされるか分かったものではない。鬼灯はユーイルに置いて行かれないように、強く彼の手を握った。



「んむ?」



 ユーイルが走る速度を緩めた。


 いつのまにか音が聞こえなくなったのだ。気配も感じなくなった。

 見れば、何かに阻まれているように枯れ枝の如く痩せ細った腕は止まっていた。透明な壁を叩く素振りまでしている。



「あ」



 鬼灯はその透明な壁の正体に気づいた。


 石造りの鳥居である。

 苔が生えて、周囲にある木々の群れに紛れていて気が付かなかった。神社か何かだろうか。


 あの鳥居が鬼灯たちのことを守ってくれているのであれば、ここに祀られた神様は味方なのかもしれない。そんな淡い期待を抱くが、



「いいや、違うな」



 ユーイルは銀色のナイフを握りしめ、



「やい、クソガキ。いないのか」


「いるわよ。クソガキじゃないって言ってるでしょ」


「おお、ちゃんと迷わずついて来れたか。偉い偉い」


「馬鹿にして!!」



 鬼灯の腰にしがみついていたらしい永遠子が、ぴょんと地面に降りる。それからユーイルの腰に頭突きをかましていた。


 薄暗い森の中に、ユーイルの「ぐへあッ!?」という間抜けな悲鳴が響く。

 永遠子が彼の腰に頭突きをし、銀髪赤眼の男子生徒の体勢が崩れたところで、鬼灯は何故ユーイルが「違う」と言ったのか理解できた。


 いるのだ、そこに。


 白い影が。



「キ、キキ……」



 薄暗い森の中にひっそりと佇む白い影。


 今にも倒壊しそうな社を見上げ、それから鬼灯たちの存在に気付いて振り返る。

 頭まですっぽりと覆った真っ白な布、艶のない白い髪。項垂れた頭がゆっくりと持ち上げられ、その向こうにある顔が露わになる。



「ぁ……」



 鬼灯は思わず声を漏らしていた。


 なかったのだ。

 首から、上が。



「……オシラ様、なの? これが?」



 月無つきなしノ森に居座る邪神、深緑色の沼に住まう怪物。

 そこから外れた場所、誰にも触れられた形跡のない忘れ去られた神社に佇むこの白い誰かがオシラ様なのか?


 カクンと首を傾げた白い誰かは、



「キ、た」



 掠れた声で、意味不明な単語を告げた。

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