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Horror Dinner 〜××高校の放課後怪奇譚〜  作者: 山下愁
第8怪:オシラ様

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第4話【沼にいるモノ】

 そこには本当に沼があった。


 深緑色の沼だ。

 よく見れば藻が浮いていて汚い沼と化している。本来は綺麗な池か何かだったのだろうが、水面を埋め尽くす勢いで広がる藻のせいで見るも無惨に汚れてしまっている。


 落下防止の為の柵なども用意されておらず、鬼灯は沼の前で立ち尽くしていた。



「ここって……」



 一体どこなのか、本当にここの沼にオシラ様という邪神がいるのか。


 呆然と沼を眺める鬼灯の隣に、ユーイルがひょっこりと顔を出してくる。

 彼の赤い瞳はキラキラと輝き、まるで少年のような「おお!!」と弾んだ声を上げる。この悪霊はオシラ様を目的として来ているので、沼の出現に喜んでいる模様だった。



「ここがオシラ様のいる沼か。何とも汚い沼だなぁ!!」


「ちょっと、相手の怒りを買ったらどうするの?」


「邪神が悪霊の戯言で怒るのであれば、是非見てみたいものだなぁ」



 わははは、と舐め腐った態度で笑うユーイル。


 もう知らない、巻き込まれたら溜まったものではない。

 どうせオシラ様を食べるのはユーイルなのだから、鬼灯は安全地帯で見学していればいい。オシラ様を引き寄せれば鬼灯の任務は完了である。



(そう言えば……)



 この沼の近くにスマートフォンが落ちていた。


 あれは何かの動画を撮絵中に落としたものらしく、持ち主は森の入り口に停まっていたワゴン車の男のものと見ていいだろう。

 ただ、どんな動画を撮影していたのか気になった。まさか本当にオシラ様を見物に来たのだろうか。



「…………」



 スマートフォンは閉じてしまったので、撮影した動画を見ることは出来ない。


 ポケットから取り出したスマートフォンは、手帳型のケースに入った赤色の最新式のものだった。手帳型のケースから判断して、女性のものと見ていいのだろうか。

 世の中の趣味は分からないので、あのワゴン車で気絶中の男性が可愛い物好きである可能性も大いにあり得る。特殊な性癖を持っていてもおかしくない。



「ほうほう、これは何とも雰囲気があるなぁ。しかしオレが生きていた頃と何ら変わりがないとは面白みがない。味も単調なものになっていそうだなぁ」



 悪霊だから天と地を行き来することなど些事なのか、ユーイルはふわふわと空を飛びながら深緑色の沼を観察していた。いつでもオシラ様を食べられるようにか、その手には銀色のナイフが握られている。


 何だかここは危ない予感がする。

 幽霊を食事とするユーイルですら手に負えない何かが、この沼で待ち受けている気がするのだ。


 鬼灯は沼の上に浮かぶユーイルを見上げ、



「ねえ、ユーイル。もう帰ろう? 夜に来るんじゃなくて、昼間に来たら」



 鬼灯の言葉は、途中で止まることとなった。



 ぱきぱき、ぱき。



 枝を踏む音。


 この鬱蒼とした森には鬼灯たちしかいないはず。

 いや、鬼灯の同行者はどちらも幽霊なので足音が立たない。実質、足音が立つような人間は鬼灯だけなのだ。


 ――誰かがこの森の中に入ってきたのか?



 ぱきぱきぱき。


 がさ、がさ。


 ぱきぱきぱき。



 枯葉を蹴飛ばす音と、枝を踏む音が交互に鬼灯の鼓膜を刺激する。


 変な汗が背中を伝い落ちた。

 何かが確実に近づいてきている。これを対処する術を、鬼灯は持たない。



「ちょ、ねえ、ユーイルってば」


「静かに、鬼灯よ」



 いつのまに沼を観察する作業を止めたらしいユーイルが、暗闇を睨みつけたまま銀色のナイフを逆手に握る。



「美味そうな匂いがする」



 そしてついに、鬼灯の視界にそれが入り込んできた。



 ぬぅー……。



 暗闇の中から伸びる、白く華奢な腕。


 木の影から伸びてきたそれは、皮が剥がれ落ちそうな木の幹に指先を立てて軽く引っ掻く。

 見えるのは腕だけなので、まだ誰か分からない。ただ、その腕はやけに湿っぽかった。まるで腕だけを水の中に突っ込んだかのようにずぶ濡れだったのだ。



 かり、かり。



 指先が木の幹を引っ掻く。



「姿ぐらい見せたらどうだ」



 ユーイルが、暗闇から伸びた腕に呼びかけた。


 姿を見せれば食らうつもりでいるのか、彼の赤い瞳は真剣な光が宿っている。銀色のナイフを逆手で握りしめ、今にも腕に飛びかかりそうな勢いだ。

 呼びかけて相手が素直に出てくるだろうか。オシラ様もそこまで馬鹿ではないはずだ。銀色のナイフを握った銀髪赤眼の男子高校生など、警戒して然るべきだろうに。



 ひた、ひた。


 ひた、ひた。



 濡れた腕が、再び暗闇から伸びてくる。


 それも一本や二本だけでない、三本も四本も無数に伸びてきて木にしがみつく。

 一体何人が木の影に隠れているのだろう、と現実逃避してしまいたくなるほど腕が木にしがみついていた。指先で木の幹を引っ掻き、鬼灯とユーイルに手招きするかの如く腕が上下に揺らされる。



 かり、かり。


 かり、かり。


 かりかり、かり。


 かり、かりかり。



 こっちへおいで、と誘うようだ。


 あるいは、恨めしげに鬼灯とユーイルを暗がりから見つめているのだろうか。


 どのみち気味が悪いことには変わらない。

 あれがオシラ様であるのならば、ユーイルに食べてもらわなければ。



「あ、あわ、あれがオシラ様……!?」


「はて、おかしいものだな」



 銀色のナイフを片手に首を傾げるユーイルは、



「オシラ様は沼に出る邪神で、沼の外に出るとは聞いたことがないのだが」



 その時だ。



 ぱしゃん。



 背後で、水を打つ音を聞いた。

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