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Horror Dinner 〜××高校の放課後怪奇譚〜  作者: 山下愁
第7怪:校内かくれんぼ

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第1話【かくした】

「ひとーつ……」



 誰もいない夕暮れの校舎で、数字を数える声がする。


 それはカウントダウン。

 数をゆっくりと数えていき、やがて一〇を宣言して行動を開始するあれ。



「ふたーつ……」



 とある女子生徒は、掃除用具入れに身を潜めていた。


 今はもう使われていないロッカーの中。

 埃っぽい臭いが充満し、今すぐこんなところから出たくなる。だけど出来ない。それは不可能なのだ。


 だって、彼女は追われているから。



「みーっつ……」



 数が徐々に減っていく。



「よーっつ……」



 少しずつ、ゆっくりと。



「いつーつ……」



 数が半分になった。


 ロッカーに身を潜める女子生徒の心臓が高鳴る。

 ガタガタと震えました身体を抱きしめ、口元を押さえて声が出ないように心がける。


 怖い、怖すぎて堪らない。

 それでも逃げ切らなければならない。



「むーっつ……」



 カウントダウンの声は、どこから聞こえてくるのだろうか。



「ななーつ……」



 何故か徐々に近くなっているような気がする。



「やーっつ……」



 とうとう女子生徒が身を隠す教室までやってきた。



「ここのーつ……」



 掃除用具入れに近づいてくる。



「とーお……」



 女子生徒が隠れる掃除用具入れの前で、カウントダウンはついなた終わった。


 隙間から見える。

 赤く染まる教室に、誰かが立っている。小さな子供のようだ。おかっぱ頭で、じっと少女が身を隠す掃除用具入れを見上げている。


 おかっぱ頭の子供は、掃除用具入れを見上げながら言う。



「もういいかーい?」



 女子生徒は口を閉ざす。


 ここで開けば終わる。何もかもが終わる。

 安易にこの噂を確かめなければよかった。これは間違いなく本物の怪異だ。



 キィー……。



 扉が軋んだ音を立てて、外側から開かれる。



「みぃーつけた」



 掃除用具入れを開けて、少女を見上げていた子供は、左右の口が耳元まで裂けていた。

 おかっぱ頭の可愛い子供ではない。血走った眼球で女子生徒を見上げ、それはそれは不気味な笑みを彼女に向ける。さめの歯を想起させる歯列は尖り、ギザギザとしていて、隙間に肉片のようなものが見えた。


 果たしてそれは、誰の肉か。



「――――きゃああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」



 女子生徒の甲高い悲鳴が、夕暮れに沈む校舎に響き渡る。



 ☆



月無町つきなしちょうネットワーク?」



 聞き覚えのない単語に、鬼灯は首を傾げた。



「そうなの」



 この話を持ってきたのは、鬼灯の親友である青柳永遠子あおやぎとわこだ。


 月無町つきなしちょうには土地的に幽霊が集まる場所であり、幽霊や怪奇現象の被害が絶えないのだ。その怪奇現象の噂を集めたサイトが『月無町ネットワーク』と言う。

 幽霊を引き寄せる体質である鬼灯とは縁遠いサイトだ。周りで怖いことが起こりすぎて、もはや麻痺している。



「その月無町つきなしちょうネットワークに、××高校の噂があったの」


「それって?」


「校内かくれんぼ」



 永遠子は神妙な表情で言う。



「××高校の一般生徒の下校時刻は午後四時だけど、四時四四分に体育館で『かくれんぼをしよう』って呼びかけるんだって」


「それで、かくれんぼが始まるの?」


「そうなの」



 永遠子は周囲に視線を巡らせ、



「でね、出ちゃったっんだって」


「何が?」


「行方不明者」



 鬼灯は永遠子の言葉に息を呑んだ。


 噂はあくまで噂の範疇に過ぎず、それを試すか試さないかは自分次第だ。

 実際に『校内かくれんぼ』の怪談を試したところ、本当に噂通りになってしまって行方不明になったのだろう。可哀想なことだ。



「解決方法はあるの?」


「あるにはあるんだけど……」



 永遠子は逡巡するような素振りを見せ、



「校内のどこかに缶が置いてあるんだって」


「缶?」


「錆びた缶なんだけど、ほら、校内かくれんぼって謳われてる割にはルールは缶蹴りみたいなものなんだって。でも」



 永遠子は真剣な表情で鬼灯に詰め寄り、



「鬼はめちゃくちゃ強いの。だから覚悟して缶を探し出さなきゃいけない」


「鬼側はかくれんぼで、逃げる側は缶蹴りって……そんな無茶苦茶な」


「怪談に無茶もクソもないんだよ」


「永遠子、口が悪いよ」


「あらやだ、聞こえちゃった?」



 ペロリと永遠子が舌を出して笑う。


 そんな話があるんだったら、まず間違いなくあの銀髪赤眼の男子生徒が食いついてくる。

 今はまだ昼休みだけど、いや、昼休みだからこそ襲撃してくるかもしれない。危険すぎる。



「何を警戒しているのだ」


「ユーイルが来ないか心配なのよ。絶対に校内かくれんぼの噂を聞いて、実践しようとか言い出すんだから……」


「ほう? それはそれは、美味そうな話だなぁ?」


「あ」



 警戒していた人物は、すでにいた。


 純銀の髪に色鮮やかな赤い双眸、端正な顔立ち。××高校の詰襟を着る彼は、実に楽しそうな様子でニヤニヤと笑っていた。

 鬼灯が警戒していたはずの男子生徒――ユーイル・エネンがそこにいた。



「ゆッ」


「よし、鬼灯よ。ぜひ実践してみようではないか」


「嫌よ何で!!」


「阿呆め、オレの食事に決まっているだろう。放課後だから音弥も巻き込んでやろう」



 ユーイルは楽しそうに笑いながら、



「ああ、放課後が待ち遠しいな。次はどんな味がする幽霊なのだろうな」



 この食欲の化身は、幽霊を食うこと以外に頭がなかった。


 鬼灯は深々とため息を吐く。

 どうせ校内かくれんぼの幽霊もユーイルが食べることになるのだから、あまり気負わなくていいだろう。意外と彼は便利な存在なのでは?

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