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Horror Dinner 〜××高校の放課後怪奇譚〜  作者: 山下愁
第6怪:隅の家

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第2話【顔のない家族】

「顔がない?」



 鬼灯の言葉に反応を示したユーイルは、はてと首を傾げる。



「それはあれか、のっぺらぼう的なあれか」


「そんな妖怪だったらまだ良かったわよ」



 本当なら思い出したくない光景だった。


 最初に奴らを見たのは葬式場。

 両親の遺体を収めた棺の側にひっそりと、顔のない怪物が立っていた。


 参列者には見えていない様子で、焼香に来てくれた人々も棺の側に立つ顔のない怪物は見えていないようだった。お経を上げるお坊さんでさえ、棺のすぐ側に両親の死体を覗き込むように立つそれには気づいていない。

 あの場で見えているのは、鬼灯だけだった。鬼灯だけが、あの顔のない怪物を認識していた。


 顔面はぐちゃぐちゃに擦り切れて、鼻や眼球などが分からない真っ平らな顔。ボロボロの衣服を身につけた男女の二人組は、とうとう鬼灯の家に居座るようになったのだ。

 ――時折、両親の声を真似ながら。



「もう嫌なの……見たくない、あんなの」



 鬼灯は自分の肩を抱き、家に居座り続ける顔のない怪物の姿を思い出して震える。


 他の怪異や幽霊が相手では、ここまで怖くなかった。

 いいや、怖かったかもしれないけれど、それは学校だったり電車に乗っている最中だったりと限定的だった。


 でも自宅に現れたあの怪物を処理するのは、鬼灯には出来ない。



「どうすればいい? どうしたらいいの……? あの顔のない怪物を、一体どうしたら……」



 そこで発言したのは、旧校舎を根城とする銀髪赤眼の男子生徒――ユーイル・エネンだった。



「なるほど、なるほど。それはなかなか――美味そうだな?」



 夕焼け空にも似た赤い瞳を妖しく輝かせ、ユーイルは舌舐めずりをする。



「鬼灯よ、オレならその怪物を処理できるぞ」


「…………」


「だが、両親とは別れることになる。見ての通り、オレは幽霊などの類を食う悪霊だからな」


「……………………」


「それでもよければ、食ってやろうではないか」



 鬼灯はユーイルを見据え、縋るような思いで言う。



「お願い……あんなの、家族じゃない。死んだ両親でもない」


「いいだろう」



 ユーイルは満面の笑みで頷くと、



「ではオマエの家に向かおうではないか。久々の食事で腹が減ったぞ」


「その必要はないわ」


「ん? 何故だ」



 首を傾げるユーイルに、鬼灯は自分の学生鞄へ手を伸ばしながら言う。


 時刻はとうの昔に下校時刻のチャイムが鳴り終わった頃。

 まだ鬼灯が学校に残っているということは、きっとあの怪物たちも知っているはず。



「きっと迎えに来てるから」



 ☆



 校舎を出れば、校門に二つの人影が佇んでいた。


 片方は男性、片方は女性。

 どちらも顔面が擦り切れ、目鼻立ちが分からない状態となっている。皮膚の状態は逆につるりとしており、ゆらゆらと頭を揺らしながら我が子が校門を潜る瞬間を待っている。


 玄関に立ち尽くす鬼灯は、キュッと唇を引き結んだ。



「あれは酷いな」



 校門に佇む顔のない怪物を眺めながら、黒海音弥が言う。



「身長が異常に高すぎるし、首や手も足も細すぎる。よくあれで立っていられるな」


「そりゃあ化け物だからでしょう」



 黒海音弥くろうみおとやの言葉にそんな答えを返したのは、鬼灯の親友である青柳永遠子あおやぎとわこだ。


 彼女はかつて、交差点で大勢の悪霊に混ざり込んでいた。

 それを助けてくれたのはユーイルだ。女子小学生の姿から成長はしないが、両親と違って彼女はちゃんと自我がある。話せるだけでもありがたい。


 校門を明らかに超すほど高い彼らは、校舎から出てきた鬼灯をじっと見つめたまま動こうともしない。顔にはない眼球が「早く帰ってこい」と語っているようだ。



「ふぅむ、なるほど」



 ユーイルは顎に手を当てて、



「奴ら、危険だな」


「え?」


「音弥よ、鬼灯を奴らに近づけさせるな。いいや、家にも帰らせるな」



 彼の横顔はいつになく真剣だった。鬼灯も見たことないぐらい。


 ユーイルに突き飛ばされた鬼灯は、音弥に支えられてかろうじて転ぶことを回避する。

 一体何故そんなことを言うのか。鬼灯では分からないが、幽霊のユーイルなら分かることなのだろうか。


 すると、永遠子とわこも校門に立つ顔のない怪物に何かを感じ取ったようだ。



「鬼灯ちゃん、ダメだよ」


「え、永遠子とわこ?」


「あれはダメ。よくない。絶対に家に帰らないで」


「永遠子も何で」



 そんなことを言うの、と疑問を口にするより先に、鬼灯の視界に影が出来る。


 いつのまにいたのだろうか。

 あの顔のない怪物が、鬼灯の目の前にいた。



「――――」



 ジロリと顔を覗き込まれ、細い節くれだった指先が鬼灯の手首を掴む。



「嫌……ッ!! 誰か、誰か助けて!!」


「鬼灯!!」



 ユーイルが怪物に引き摺られる鬼灯に手を伸ばす。


 本来なら掴めるはずのそれは、不思議なことにするりと透過した。

 鬼灯の手はユーイルの手をすり抜けて、鬼灯は怪物たちに連れ攫われてしまう。



「何で……どうして……!?」



 訳も分からないまま、鬼灯は顔のない怪物に引き摺られて××高校の校門を潜る。


 おかしなことに、頭上に広がる夕焼け空が歪んで見えた。

 顔のない怪物を通して見る世界が、何故か不思議なことにいつもと見る世界と違っていた。



「何……どこに、連れて行くの……」



 顔のない怪物に問い掛ければ、相手は振り向かずに掠れた声で応じる。



 ァ、なた、ノ、ぃー、え。


 ワ、たし、たチの、ぃー、え。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 新作楽しく読ませていただきました! 今回、夜に読んでいて、最後のシーンがものすごく怖くて、すごくビビりました!この世のものではない霊が発する声がとても怖かったです!こういう描写の方法もあっ…
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