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鉄路のソレイユ  作者: 早川隆
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第三章 うつろな魂 (3)

来てみたら・・・アフリカとは、ただの大都会のことだった。海岸に巨大なコンテナ港を持つこの沿岸国は、大いなる経済発展に酔い、まるでかつての日本のような建設ラッシュと道路工事とに湧いていた。街の中心部にはいくつもの近代的な高層建築と華美なマンションとが立ち並び、スーツ姿のおしゃれな黒人(アフリカーナ)たちが胸を張って堂々と歩き、街角にはあちこちにスターバックスとマクドナルド、たまには日本のラーメンチェーンまでもが店を出していた。


なんだ・・・日本と同じじゃないか。ヒロシは、いささか拍子抜けしてそう思った。違いといえば、いささか気温が高いことと、空気が乾いていること、そして街が終わればいきなり荒野となることぐらい。さらにいうと、彼の昔の根城だった秋葉原にあるような、妖しい紫のネオンやわけのわからないサービスを提供する風俗店などが一切ない。ここは、画然と区画され、単なる経済活動の場としてだけ建設されたビジネス街なのである。


たしかに、この見ため巨大な街には、それ以外にもさまざま欠けているものがある。電気は問題なく滅多に停電もしないが、水道の供給量は不十分で、清潔さも足りず、飲料水はもっぱら海外から船着したミネラルウォーターに頼らざるを得ない。それ以外の日用品にも輸入に頼っているものがあり、仮に旧宗主国の機嫌を損ねて経済封鎖でもされたら、この国の経済は途端にブラックアウトしてしまうであろう。


通信網やインフラも欠けている。この国には、ごく一部の区域を除いて、固定電話というものがない。ここ十数年の飛躍的な経済発展で、一気に設置が進んだのは携帯電話の基地局であり、人々は我先にと、まだ少ないその可処分所得を、中国製や、もう少し高級な韓国製の携帯電話の購入に宛てた。また、現金経済をすっ飛ばして、それまでの物々交換の経済が、いきなりモバイル決済の世界最先端のバーチャル・システムに取って代わられようとしている。


もう、ヒロシには、なにがなんだか、まるでわからない。インドでは19世紀と21世紀とが同居していたが、この国では、まるで見たこともない18世紀が、いきなり想像もできない22世紀あたりにすっ飛んで行くようである。もしかしたら、明日には夜空にスター・トレックのエンタープライズ号がバルカン星人と地球人をいっしょに載せて、クリンゴン帝国目指して飛んでいるかもしれない。




そして・・・きわめて20世紀的な、まずは現金を引きだそうと訪れた銀行で、ヒロシは愕然とした。口座に入っているはずの金がびた一文、支払われていない。まじか!俺の残金は、あと日本円にして13万円くらいしか無いんだぞ!


メールで、電話で、メッセンジャーで・・・さまざまに突っついたが、あのとき出会った初老の日本人鉱山師(やまし)とは、以降、パタリと音信が途絶えてしまった。あの場で彼と交わした簡易な契約書を確認したが、ヒロシは、ただ自分の迂闊さを呪うばかりであった。こんなもの、法的な拘束力はなにもない・・・語学以外の人文科目については、ヒロシの興味の対象外であった・・・彼はただ、あそこで、日本法人における手続費用だかなんだか、よくわからない名目の手間賃として渡した、ほんの現金数万円だけが目的の、チンケな詐欺師だったのだ。


なんだって、英国のサッカーチームだって?ヒロシは、自分の底抜けなお人好しに珍しくむらむらと腹が立って、バカ高い値段と、どこか微妙に違う味がするラーメンを特盛りでやけ食いしながら、以降の身の処し方を考えた。


まったく勝手のわからぬ異国の大都会でいきなり窮地に立たされたヒロシであったが、しかし、人との出会いがまた彼を救った。たまたま、勃興するアフリカ経済を取材に来ていたとある全国放送局の女性プロデューサーが、そのラーメン店で彼を見初め、声をかけてきたのだ。


やがて、酒も入って盛り上がるうち、彼の語学力と若さを気に入った彼女は、一夜をともにし、翌日からヒロシは、彼女の取材チームの臨時スタッフとなった。




さて・・・ふらふらとした浮草のような男の、あてどもない旅路を語り続けて、そろそろ飽きが来た頃でもあろう。あとは、話を端折(はしょ)ろう。


そのプロデューサーが撮りに来た番組というのは、夜8時台のお茶の間の埋草として企画された、よくあるお涙頂戴の人情物語アフリカ版だった。東南アジアでぶつかったお笑い界の一線級大物タレントとは違う、売出し前の若手漫才コンビを使った体当たり企画で、彼らが現地アフリカの、貧しいが人情溢れる人々に助けられ、心を通わせ、やがて涙とともに別れを告げるという、台本通りの「ドキュメント・バラエティ」である。


現地の「人情溢れる貧しい村人たち」とは、実は互いに見ず知らずの、この大都会に出てきた寄せ集めの俳優たちのことだった。子役を含め、彼らはニヤニヤしながら完璧に、このくだらない台本の、くだらない役柄を演じきった。まさにプロフェッショナルの仕事であった。


彼らに現地俳優組合の規定通りの報酬を払い、領収書を廻して・・・若手漫才コンビの二人は謙虚で、若いスタッフたちはいい奴らであったが、数日も経つと、ヒロシはこの仕事が、なんだかばかばかしくなってきた。もちろん、男ひでりの中年女性プロデューサーの、旅先でのヒモのような役割を果たすのにも嫌気が差してきた。


さて、どうしよう。次は、どこに行こう?

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