冒険は一日一時間
※この作品はフィクションです。実在のものとは関係ありません。
長らく執筆できてなかったのでリハビリがてら、思いついたアイデアを元に短編を書いてみました。
もうちょい長く書きたいけど今はこれが精一杯。徐々に自分のペースで行きます。
『迷宮消失まで、残り約3分です』
「ひゅう、カップラーメン作れちまうな!」
「食べる時間がないでしょ! というかアホなこと言ってないで急いで!」
少年と少女が、石畳の通路を慌ただしく駆けていく。
軽口をたたきながら走る少女と、それに並走しながら叫ぶ少年。
二人は迷宮の出口を目指して、全速力で走り続けていた。
『次の通路を右に曲がった先、敵性反応三体です』
「接敵回避はできない!?」
『他のルートでは間に合いません。敵を排除して直進してください』
「うっしゃあ! 最後にもう一稼ぎだ!」
「簡単に言ってくれるよ、まったく……!」
二人は腕輪型の端末から聞こえてくる音声に従い、十字路をなるべくスピードを落とさないように右折して、先を急ぐ。
程なくして二人の眼前に、敵性生物――通称、魔物が三体、行く手を阻むように飛び出してきた。いずれも蝙蝠類の小型タイプだ。
「来るぜ、シャル!」
「分かってるよ、ユーナ!」
シャルと呼ばれた少年は、腰のホルスターから素早く二丁の拳銃を抜き、すかさず発砲する。
目にも止まらぬ早撃ちで放たれた弾丸は宙を舞う蝙蝠型の魔物二体の急所を貫き、反撃を許さず絶命させたが、群れの後方にいた一匹だけは回避を許してしまう。
「いっただき!」
だが、凄まじい跳躍力で飛び掛かるユーナが鞘から抜き放った剣の一閃が、魔物を真っ二つに斬り裂いた。
瞬く間に仕留められた魔物の遺体が霧散していき、霧の中から現れた小さな宝石――通称、魔石を素早く荷物袋に放り込み、二人は再び駆け出す。
『残り1分です。お湯が沸きましたが、豚骨か醤油どちらになさいますか?』
「豚骨で!」
「カップラーメン作ってる場合!? 醤油で!」
話しながらも足は止めず、出口まで駆ける二人。
外の光が射す出口を潜り抜けると、目の前には断崖と、見渡す限りの青空が広がっていた。
『崖の下に船を待機させています。飛び乗ってください』
「いつもながら、穏やかじゃないなあ!」
「ぐだぐだ言ってねえで、行くぞ!」
端末から響く言葉を信じて、二人は断崖から飛び降りる。
指示通り、崖下で待っていた飛空船の甲板に着地した二人は急いで手すりに摑まると、腕の端末に「いいよ、出発して!」「ずらかろうぜ!」とそれぞれ叫ぶ。
『アイアイサー。空飛ぶさかなさん号、発進します』
「ちょっとマリー! この船の名前はアルカディア号だって何度も――!」
「喋ってると舌噛むぞシャル!」
飛空船アルカディア号のエンジンが轟音を上げて、大空へ向かって急発進する。甲板の二人は振り落とされまいと必死に手すりを掴み、衝撃に耐えていた。
やがて、安全圏に到達したのか船の速度が緩やかになり、二人はようやく安堵して甲板にへたり込んだ。
「いやー、今回ばかりは間に合わないかと思ったぜ」
「笑いごとじゃないよ! 巻き込まれてたらどうなってたか……」
大声で笑うユーナに、冗談じゃないと怒るシャル。
「まあ、助かったんだからいいじゃねえか。それより、あれ。見てみろよ」
ユーナの言葉に、シャルは促された方向――先程まで自分達が探索していた迷宮のある方角に視線を向ける。
大空に浮遊する島と、それを覆い尽くすように広がる巨大迷宮。
その迷宮は今、淡い光に包まれていた。
よく見れば迷宮の周囲には、先程のアルカディア号のように迷宮から脱出した冒険者達を乗せているであろう飛空船がいくつも見受けられる。
やがて迷宮は飛空船の群れが見守る中、光を増していき、一際強く光り輝いたかと思うと、その姿を消していた。
文字通りの、消失。影一つ残さず、巨大迷宮はこの世界から消え去っていた。
冒険者と呼ばれる人々が挑むこの迷宮は毎日決まった時間に消えて、翌日再び現れる。
一日一時間。たったそれだけの短い間、この世界に現れる不思議な迷宮。
時の迷宮『クロノス』と名付けられたそのダンジョンに、人々は夢を、宝を、名誉を。あるいは――冒険を求めて、挑み続けている。
「何度見ても不思議だよな。どういう仕組みでああなってんだか……」
「誤魔化そうとしてもダメだよユーナ。欲張ってあんな奥まで潜らなければ、もっと余裕をもって脱出できたのに君は――」
「はいはい、次からは気を付けるって。それよりカップラーメン伸びちまうから、さっさと食いにいこうぜ!」
「ちょっと、話はまだ……」
説教を続けようとしたシャルのお腹が、ぐうっと鳴る。
「へっへっへ、お腹は正直じゃねえか」
「……ラーメン食べながら反省会ね」
照れて顔を赤らめるシャルと、からからと笑うユーナ。二人は甲板から船内に続く階段に向かって、歩き始めた。
二人の歩む旅路が、いつか何かを成し遂げるのか――あるいは、時の流れに飲み込まれて消えていくのか。
その答えを知る由もなく、少年少女はこれからも時間に挑む冒険者として生きていく。
『ラーメン食べないのなら私がふたつともいただきますよじゅるり』
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「おいおい、急がねえとマリーの奴、マジで食っちまうぞ!」
『ごー、よーん、さーん……』
「「ちょ、タンマー!!」」
――あるいは、生きるとは時間に挑むこと、なのかもしれない。