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:秘密の恋を後押ししましょう:

 一方、シュテファンとティレイアの恋はなぜか『秘密の恋』であるらしかった。


「レディ・リズ、シュテファンの野郎に探りを入れてみたが、知らぬ存ぜぬの一点張りだったよ。そっちはどうだ?」

「だめですわ。お異母姉ねえさまも、恋人はいない、お友だちだとしか……」


 今ではすっかり王都名物になった『シュテファンを追い回すレディ・リズとレオ』。同タイトルの絵画が密かに出回っているとかいないとか。


 追い回されているシュテファンもたまったものではないが、

「あんな派手な二人に追い回されて、気付かない人はいないと思うよ」

 と、面白がっている節がある。が、この二人に四六時中張り付かれては――隠せるものも隠せないのもまた、事実である。


「レオさま、乗ってください。お異母姉ねえさまは教会で歌うそうですわ。アンドリューから知らせが」

「よし来た、行こう」

 

 王都を暴走馬車が通る。鼻息の荒い鍛えられた馬がどかどかと走る。

 誰もが慌てて飛びのくが、以前のように「イシュタル様のお通りだ」とは言わない。


「彼女はいつ、レオさまの正体と恋心に気付くのかねぇ……」

「レオさまがこれでふられたら、わたくしたちははどうしたらいいのでしょう?」

「さぁ……これまで通り、見て見ぬふりだろ」


 こうして十日ほどつけまわし、ついに、密かに二人が会うところをおさえた。

 

 そこは、教会の裏庭だった。雲の切れ目から満月が顔を出し、シュテファンに背を向けるティレイア。


「おねえさま、泣いてる?」


 あわてて飛び出そうとするリズの肩を、レオが抑えた。


「ちょっと話を聞いてみよう。深刻そうだ」

「そうね」


 二人して大きな茂みに潜り込む。ぴったりと体を寄せる形になり、レオは柄にもなくドキドキして落ち着かないが、リズはちっともそれに気付かない。真剣な表情でシュテファンとティレイアを見ている。


「だって、わたくしは……後ろ盾も持たないただの貴族の娘です。貴方様には釣り合いません」

「そんなことはないんだよ、ティレイア! だからといって、お母上の持ち込んだ縁談を受ける理由にはならないだろう!」

「いいえ、お母さまの希望を叶えて差し上げるのが、わたくしの務め……最初から、叶わぬ恋だったのです」

「親子以上に年の離れた老公爵に嫁ぐことが、本当に幸せか?」

「ええ、わたくしが嫁げば、公爵さまは莫大な我が家の借金をすべてなかったことにしてくださると……」


 このところよくある話だ、とレオは月を仰いだ。金持ちの老貴族が見初めた娘を自分の妻にするために、貴族の借金を肩代わりする。たしか、ティレイアの家の借金は、当代になって膨れ上がっている。奥方の浪費というところまで調べはついていたはずだ。


「……それを返してやれるほど、シュテファンの家に余裕はない、か……」

「そんなの……そんなのってないわ!」


 がばっと茂みから飛び出したリズは、ティレイアの傍へ突進していた。

「おねえさま!」

「リズ! ど、どうしたの!」

「本当に、それでいいのですか? 愛する人と――いえ、自分を愛してくれる人と、一緒になるのが幸せ、違いますか?」


 リズはもちろん、転生を重ねてきた分だけいくつもの『幸せの形』があることを知っている。が、この場合の二人は、一緒になることが何よりの幸せだと確信を持てた。


「リズ、あなた……簡単に、一緒になるだなんていうけれど……」


 月の光に照らされたティレイアは、今にも消えてしまいそうな果敢無さと美しさがある。寄り添うリズも月の精かと思われるほどに美しい。やはり姉妹、そんなところはよく似ている。


「いいえ。わたくしよりも何もかもが優れた王国で一番のレディと、このわたくしが認めた男、お似合いに決まっているでしょう」


 聞きようによっては大変なセリフだが、完璧令嬢と自他共に認めるリズなら許されてしまう。


「つまるところ、レディ・エリザベスが認めた王国一の美男美女ってとこだな。その点は俺も同感だ。一緒になっちまえ。なに、色ボケ老公爵は俺がなんとかしておく」

 と、レオも言葉を添える。

 が、ティレイアは俯き、その場から駆け出してしまった。

「あ、おねえさま、待って!」


 その場に残されたシュテファンは、力なく座り込む。

「殿下……結婚がこんなに難しかったなんて知りませんでしたよ」

「おいおい、お前が弱気になってどうする」

 はぁ、と、項垂れるシュテファンの傍で、レオはオロオロするしかなかった。


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