:もはや何度目かわからない転生:
「どこから語りましょうか?」
「えっと、じゃあリサの前は誰だったの?」
「……金魚でした」
「きっ、金魚!?」
思わず声が裏返った。金魚とは水槽で泳ぐアレだろうか。いや、あれ以外にキンギョなるものをリサは知らないが、万が一と言うこともある。
「あたし、魚だったこともあるの……?」
思わず問いかける声が裏返ってしまう。
「ええ」
あっさり肯定されてしまった。
「な、なんで、魚なんかになったの……」
「もちろん事情がございますよ。当時のデータを開いてみましたが、その前はのんびり暮らしたいと張り切って猫を選ばれたそうです。しかし、想像以上にペットコンテストやペットモデルに引っ張りまわされて忙しかったらしく、トリミングのために寄ったペットショップの店先で見かけたのんびり泳いでいる魚がいい、と……」
「は、はぁ……そうでしたか」
「何もせず泳いで食べているだけでよかったはずなのに、美しすぎる魚として町で評判になって、毎日見られてうんざりしていた様子。それでも、おおむね満足だったようですが、一生が短すぎましてね」
それは――そうだろう。魚の寿命はそれほど長くはないはずだ。
「転生して三年足らずで猫に食べられてしまったのです」
「あああ、可哀そうなあたし!」
「これは多分にこちらの管理ミスもあったようで、本当に突発的に死を迎えてしまい……」
意味ありげに女性が言葉を切る。思わず「で?」と催促してしまう。
「あなたは、転生したくない、まだ死にたくないと駄々をこねてそれは大変だったそうです」
ご、ごめんなさい、と、反射的に謝ってしまった。なんとも申し訳ない。頭を深々下げ――たつもりだが、下がったかどうか。
「こちらとしましても、猫に食われた金魚が生きていたらそれはいつ、どの時代であっても大事件なので、あなたを回収せざるを得ず……」
「それはそうよ、うん、間違ってはいないわね……」
その後も女性は、つらつらとこれまでの人生を教えてくれる。
十人ほどの人生を聞いているうちに、ようやくいろいろ――というか、最初を思い出した。
「そうよ! わたくしの名前はエリザベスよ!」
「はい、正解でございます! 思い出されたのですね」
「美貌の伯爵令嬢、エリザベス。舞踏会で国王に見初められて第五夫人になったけど、他の夫人たちの嫉妬から姦通疑惑をかけられたり、政治の駆け引きに巻き込まれて玉座に座らされたり、反乱軍に担がれた挙句、最後は処刑されてしまった。そうでしょう?」
「はい、正解です」
「初代エリザベスが、納得できないむごい死に方だったため、転生したいと強く願った。神が気まぐれでその願いを叶えてくれて、この会社を紹介してくれた。そしてわたくしは、満足いく一生を送れるまで無限に転生できるようになった――……」
記憶を持ったまま人生をリセットしてみたり、記憶を持たずに全然違う人に生まれてみたり。時には動物になったり天使になったりもしてみたが、一度として満足いく生活を送れてはいない。
「大抵、並の男と結婚していたって標準的な生活を送るパターンね、わたくし……」
魂がそういう『安全運転』を求める性質なのだろう。
「えーっと……お母さんは……最初はエリザベスの乳母だったわね。エリザベスを心配するあまり、いつも一緒に転生してくれてるのよね」
「左様でございます。随伴者と申します」
彼女は、これまでのすべての記憶を持っているため、ある意味『知恵袋』『辞典』的な存在でもある。
転生して困ったら、とにかく随伴者を頼ればいいとのことだ。
「そっか……お母さんだったり、マザーシスターだったり……いつも近くにいてくれるのはそのせいなのね」
「ほとんどを……思い出しましたね?」
「ええ」
「では、次の人生は、どうしますか?」
「次は……そうね、記憶アリの転生で、剣と魔法の国がいいわね」
できれば自分が剣と魔法、両方使えるほうがいい。
「はい」
「立憲君主制で、大国で治安が良くて、王侯貴族が華やかな生活を送っていて……」
「はい」
希望を述べるだけ述べて、しばらく待つ。
「お待たせいたしました。ご希望の条件にかなり近い国が、既にございます。皆さまのイメージする『中世ヨーロッパ』の国が出来上がっておりまして、現在、転生先として人気ナンバーワンの国、マグダリアン王国です」
「え? ということは、国民はみんな転生者なの?」
「いいえ、転生先の国民の98%から95%は必ず現地人ですので、転生者同士が出会うのは大変でしょう」
そのあたりは、トラブルにならないように配慮されている――といったところだろうか。
「わかったわ、その国でお願い」
「承知いたしました。それでは、エリザベスさまのご希望に合うように、少し調整をかけますね」
全部の希望が叶えられるわけではないが、これでかなり、自分にとって都合のいい世界が出来上がるはずだ。
「次の人生こそ、思いどおりに生きて見せる!」
誰よりも幸せで、誰よりも成功して――人が羨むような人生を。
「まずは、イケメン捕まえなきゃね!」
「お待たせいたしました、エリザベスさま。転生の用意が整いました」
――エリザベス、もはや何度目かわからない転生を達成。