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:美女、寄宿学校を無事卒業:

「お帰り、リズ」

「お母さま、ただいま戻りました」


 寄宿学校を卒業し、領土の屋敷へ戻ってきたリズは、大変垢ぬけた美女へと成長していた。卒業までの最終学年は、社交界に顔を出しつつも、勉学に励んでいた。立ち居振る舞い、知識、美貌、スタイル、ファッション。どこをとっても、文句のつけようがない。


 社交界では既に、リズの話題でもちきりである。デビューして日の浅い令嬢が話題になるなど、滅多にないことである。


「物語から抜け出たように完璧で美しいわ。……正体は、実は妖精か美の女神の化身だと言われても驚かないわ」


 母が手放しでほめるが、リズはそっと首を横に振る。


「お母さま……ティレイアお姉さまにはかないません」



 ときおり王都の教会で会っていた異母姉ティレイア。いつも、リズを笑顔で迎えてくれる。


 母が再婚を考えている相手との折り合いが悪く、時間があれば教会に来ているとのことだった。奉仕活動をして炊き出しの手伝いをし、讃美歌を歌うティレイアは本当に美しく、子どもたちや町の人に慕われている。


「お姉さま、結婚はお考えにならないの?」


 ティレイアはプラチナブロンドの髪を手櫛で直しながら困ったように笑った。


「社交界にも顔を出さず、歌ってばかり。そのうえ実母と距離、いえ、少なからず確執がある、こんなわたくしでいいと言ってくださる殿方がいらっしゃるかしら?」


 絶対にいる、とリズは力を込めた。魔法を使わなくても伝わってくるティレイアの心は、聖女の如くに清らかである。このティレイアの良さがわからない男がいるとは信じがたい。


「リズ。あなたとあなたの家族の幸せをいつも祈っているわ」


「わたくしは、お姉さまの幸せを祈ります。お姉さま、絶対素敵な方と結婚してくださいね」

「ありがとう、あなただけね」


 さあもう行きなさい、と、ティレイアがリズを教会の外に連れ出す。と、そこには豪華な馬車が止まっていた。中から降りてきた小太りの中年女性は、高慢な態度で従者や御者たちをこき使う。ついでに、ティレイアを激しく罵っているらしい。


「……お姉さまの、お母さまかしら?」


 ぎろり、と睨まれたリズは、優雅に挨拶を返した後、足早にその場を去った。



 ティレイアには到底かなわない。だがそのティレイアが、リズの幸せを願ってくれているからには、幸せにならなくては――。


 そう決意したリズは、国で二番目の美女になり国で一番の男を夫にすべく努力に努力を重ねた。

「さあ、今宵の舞踏会も戦い抜くわよ!」


 夜会に繰り出すために着飾った人々が忙しなく行き交う王都の中央通りを、二頭立ての屋根付き四輪馬車が前後に二台連なった状態で疾走する。


 からから、いや、ガラガラという耳障りな車輪の音が、綺麗に区画されたとおりにびっしりと並び立つ石造りの建物に反響して必要以上にやかましい。挙句、そのようなスピードで走ることが想定されていないのであろう車体は豪華な装飾が災いしてひどくアンバランスだ。


 右へゆらゆら、左へふらふら。常に揺れて非常に危なっかしい。ときおり馬車から落下物があるのはおそらく、装飾品の一部だろう。


 貧民層の住人と思われる女の子が、キラキラひかるそれに興味を持って素早く拾い上げた。


「ママ、これなんだろう?」

「……綺麗だねぇ……ガラスの欠片かな?」


 二人はそれをじっと見つめる。取得物なので返すべきだと思うが、その馬車ははるか遠くである。


「ママ、これ売ったらお金になるかな?」

「どうだろうか。試しにお店に行ってみようかねぇ」

「うん」


 そんな会話が交わされた果てに、この親子が彼らにしてみれば目玉が飛び出すような大金を手にして貧民窟から脱出できた――などと知る由もない暴走馬車は、舞踏会の会場目指して爆走していた。


 馬たちは、競馬場で走るかのように真剣に走る。そのため、長くは走れない。速度が落ちた馬は、目にも止まらぬ早業で入れ替えが行われる。


「魔法が使えるってありがたいわ!」


 車内で女性の声がするが、もちろん通行人には聞こえない。そして入れ替え終わった馬は、魔法で屋敷――王都のタウンハウスではなく、領地のカントリーハウスである――へと送られている。無事に馬たちは到着したわよ、と、母からの魔法のメッセージを受け取ったリズは、安心したように微笑んだ。


 その結果暴走馬車は速度を増し、非常に危なっかしい。案の定、緩やかなカーブだというのに箱が大きく左に流れた。このままだと、横転してしまう。それを想像した通行人たちが、思わず大惨事に備えて身を硬くする。


 だがいったいどうしたものか、馬車は、どうん! と大きく弾んだ。


「三度目の魔法、間に合った! 今夜は残り一回か、二回程度ね!」


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