第八章 暗闇
――ここは何処だ?
――真っ暗で何も見えない。
光の存在しない空間に、ロフィスは立っていた。
明かりのないその空間は、どこか冷たく、心を不安にさせる。おぼろげな記憶を振り返り、今の状況を整理する。
(光が俺の体を包み込んで……)
そこからの記憶がない。
……死んだのか?
これが死後の世界だとしたらあまりにも酷すぎる。特定の信教を崇拝しているわけではないが、お天道様に顔向けできる人生を送ってきたつもりだ。
この状況が死後の世界なら、地獄にでも落ちたのだろうか?
そのような思考がロフィスの頭をよぎる、が次の瞬間、わずかだが女性の声が聞こえた。
今にも消えてしまいそうなほど小さな声に、ロフィスは意識を集中させる。
――けて
「…………誰……だ?」
――助けて
その声はわずかだが、聞き取れるほどの大きさとなり、ロフィスの頭の中に語りかけてくる。
どこかで聞いたことがある声、忘れるはずのないその声は、彼の意識を覚醒させるには十分だった。
「――ッ!? ぼっちぶぅか!」
突如、ロフィスの後ろから声が聞こえた。
「……どうして私をおいていったの……ロフィス?」
――どこか悲しげな声。
ロフィスは咄嗟に後ろを振り向く。早くしなければ、声の主は今にも消えてしまうかもしれない。
そんな考えが頭をよぎる。
振り向いた先、ロフィスの目の前には、ぼっちぶぅがいた。
「なんだよ……これ」
驚きのあまり息を呑む。
彼女の両手両足は、漆黒の鎖でかたく拘束されており、彼女の顔には六芒星のマークの描かれた目隠しがされている。
今までの人生、人がこのように拘束されている光景を見たことがないロフィスは、彼女がおかれている状況を未だに理解することができない。
「い、今助け――」
そう答えようとした直前、彼女の体に黒い触手が纏わりつく。
彼女の足もとには、タールでできた黒い沼地のような泥が現れ、黒く蠢く触手は彼女の体を拘束し、沼地へと引きづり込もうとしている。
「やめ……ろぉぉぉぉ!」
ロフィスの両手が、肩まで浸かった彼女の体を抱きかかえるようにしがみつく。
この手を離してしまったら、二度と合えないのではないか? そんな不安によって、より一層、彼の力は強くなる。
だが、そんなロフィスの行動も全て無駄に終わる
――触手の力はあまりにも巨大すぎたのだ。
彼女に纏わりつく触手は数を増やし、ロフィスの肩にまでたどり着く。
――次の瞬間、彼女の体はすべて黒い沼の中へと沈んでいく。
ロフィスの体も彼女を追うように、その沼地の中へ消えていった。
――目の前が真っ暗に染まる。