第六話 吸血鬼の騎士
――アルカナ市街地
中世ヨーロッパを描いたような街並みが辺り一面に広がっている。
空中都市アルカナ南方の位置には、キマイラをモチーフにした噴水。その噴水を中心として辺りには街路樹が植えられており、恋人たちのデートスポットとしては理想的な空間となっている。
その噴水に通じる――石畳でできた大きな道をロフィスは歩いていた。
「はぁ……。もう少し積極的に動けばよかったかなぁ」
――ぼっちぶぅ。彼女はロフィスにとって唯一の親友と呼べる存在だった。
今までゲームだけの人生だった自分にできた、かけがえのない存在。三年という月日を共に歩み、お互いを励まし合いながら切磋琢磨してきた関係が “ゲームの引退” によって崩れ去ってしまった。
だが初めてできた異性の親友ということもあり、自分でもどうしていいか分からない。
異性に対して免疫がないこともあるが、ゲーム中心の人生だったこともあり、コミュニケーション能力が足りない部分も多い。
(ログアウト前にリアルの連絡先でも聞いておくか?)
ゲームの攻略なら自信を持って決断できるロフィスだが、人の気持ちが絡んでくるとお手上げな部分も多い。
(……まて。いきなり女性に連絡先を聞いた場合、引かれる危険性が――)
思考の波が押し寄せてくる。
耐えきれなくなったロフィスは突如大きな声をあげる。
「あぁぁぁっ! 考えるのはやめだ! まずはNPCの回収を先に済まそう」
そう叫んだロフィスは背中から翼を出現させる。六つの翼から漂う真紅の粒子を撒き散らし、向かう先は――空中都市アルカナの南方に存在する噴水。
正確に言えば、噴水前に待機させているNPCの元へ向かう。
「よっと!」
――着地と同時に翼が消える。衝撃で街路樹の葉が抜け落ち辺りを舞う。
目前には、凛とした雰囲気を漂わせる女性が一人。第一守護領域――アルカナ市街地の守護者。
バンパイアと呼ばれる種族――
――ニル・ヒストリアの前にロフィスは降り立つ。
騎士を思わせるような彼女の立ち姿。腰には刀をぶら下げ、着ている鎧は皮の素材を軸に作られている。動きやすさを重点的に考えられた鎧は、彼女の細い体と合わさり、よりスタイリッシュさを際立たせていた。
弱点である関節部分には、オリハルコンのプレートが装着されている。金色に光り輝くそのプレートは、彼女のブロンド色の髪と重なり、より一層の美しさ放っていた。
「後はお前だけだな」
アビシャル・ゲートにおいて、NPCを入手する唯一は “深淵の門” と呼ばれるガチャを引くこと。
ガチャを引くにはゲーム内で入手可能な “ソウルクリスタル” と呼ばれるアイテムを消費しなければならない。そして、このソウルクリスタルの量が多ければ多いほど、より強力な “ソウル” の獲得率が上がる仕組みだ。
ソウルとは、NPCを制作する際に使用する核となる素材。
この獲得したソウルには、各ステータスの成長倍率が設定されている。この成長倍率が高ければ、レベルアップした時のステータスが上昇量が多い。そのため、多くのプレイヤーは特定の成長倍率に特化したソウルを引くことを目標としている。
そして、入手したソウルを使用し、種族や外見――そして性格などを自分の好きなように設定することができる。
このように高い成長倍率を持つソウルさえ入手できれば、自分好みのNPCを制作できる。
吸血鬼である彼女は、ロフィスが初めて作ったNPCだ。そのせいもあってか、ニルの外見は自分自身の趣味が全面的に反映されている。
(俺が一番気合いを込めて作ったNPC。この引き締まったお尻と、自己主張の少ない胸! マジ眼福だぜー!)
そんな考えを頭によぎらせながら、ロフィスは懐から袋を取り出す。