第四話 ガチ勢
「そ、それにしても、このお城はすごく立派よね。ロフィスがこのギルドホームを手に入れてから二年くらいたったのかしら?」
ロフィスのゴツゴツとした指が動く。二本だけ開かれている指は、二年前にギルドホームを入手したことが確認できる。
「リリースしてから一年後だから、ちょうどそれくらいかな? 」
「そう考えると、三年も私たちは一緒にプレイしてたってことになるね」
「そういうことになるなぁ。いくら大規模ギルドバトルのためとはいえ、誰にも自慢のホームを見せれなかったのは精神に来るものがあったよ……」
ライバルにギルドホームを見せてしまうことは、最終領域までの通路がバレてしまうため敗北に繋がる危険性がある。そのため、“ガチ勢” と呼ばれる人たちは、友人であってもギルドホームに招待することはなかった。
「やっぱりそうよね。――でもそのおかげでお互い決勝戦まで進むことができたし、頑張った甲斐があったね!」
「ほんと俺たちは、良い意味でゲーマーだよなぁ!」
「ふふっ。そうだね!」
広い空間に二人の笑い声がこだまする。だが、その声にはどこか寂しさが感じられる。それは、二人の別れが近いことを意味していた。
「…………」
二人は階段を下った先の、光り輝く魔法陣の前で静止する。ここはアルカナ城の出入り口――この魔法陣に触れることでギルドホームから退出することが可能だ。
「ロフィス……。本当に今日で引退しちゃうの? 」
彼女の声は震えていた。
ロフィスは彼女の方を向き答える。
「あぁ、もうこのゲームはやり尽くした感があるからな。今回もらったスポンサーからの報酬と、俺の育て上げたNPCたちを売って現金に変えればそれなりの金にはなるんだ」
ロフィスはプロゲーマーとしてアビシャル・ゲートをプレイしていた。賞金が手に入れば、また次のゲームに移り上位ランカーに入る。それが彼のスポンサー企業との契約だ。
「どうやら企業のスポンサー様は、俺に一つのゲームだけをプレイしてほしくないみたいなんだ。それに、NPCを売ってしまえば、もうこのゲームのランカーとてやっていけないし――引退がベストだろうな」
昨日の決勝戦が嘘のよう、今の彼に覇気はない。一人の人間としての感情だけがそこにある。
彼の覚悟を聞いたぼっちぶぅは、うつむいていた顔を上げ、ロフィスの目を見つめ返す。
「……そっか。なんだか寂しくなっちゃうね!」
今にも消えてしまいそうな表情を抑え、彼女は笑顔で答える。
「また、他のゲームで会うことがあれば一緒に遊んでちょうだい! 今日まですごく楽しかったよ、ありがとねロフィス !」
「ありがとうは、こっちのセリフだぜ? ぼっちぶぅこそ、あんまり徹夜して体壊すなよな!」
「それこそ、こっちのセリフ! 毎晩徹夜してたのはどっちよ?」
「確かにその通りだ!」
会話の終わりが近付くのを感じる。