第二話 空中都市 アルカナ
――空中都市 アルカナ
名前の通り、その都市は空中に浮遊している。
巨大な浮き岩の上に形成された町並みは、中央の大塔から放たれる光によって、より一層、幻想的な風景を生み出している。
外敵からの侵入を拒むように、空中都市の地下奥深く存在する巨大な空間には “城” が存在している。
その内部――千人以上の数がお互いのパーソナルスペースを害することなく入れるほどの空間。 鏡のように反射する床の上には赤い絨毯が敷かれ、部屋の中央に位置する巨大な階段まで続いている。
まるで王族のパーティーでも始まるかのよう、王の名声を保つために全ての富をそこに詰め込んだかのような艶やかな光景が広がっている。
階段を上った位置に存在する中央の壁には扉があり、この場を管理している存在――ギルドのエンブレムが扉の上部に飾られている。
静まり返ったこの空間に、二人の足音が近づく。
勢いよく開けられた扉の先、まるで朝と夜が同時に存在するような錯覚を感じさせる者が二人。
その白銀のような美しさを感じる――白く長い髪を風になびかせる女性。春の心地よい空をイメージさせるその眼は、青く透き通ったサファイアのようだ。
絹とレースを使ったかわいらしい衣装に身を包み、背には幻の素材、世界樹の枝で作られた弓が、より一層彼女を魅力的なものにしている。
特徴的な耳は、彼女の種族を表したもの――エルフだ。
そして、対となるは宵闇の訪れを感じさせるよう――漆黒の闇が溢れるようにその身を纏い、黒曜石でできているかのような硬い皮膚は全身を覆っている。
彼の種族はマイティー・デビル。人型をした魔族に分類されるため、“魔人” と呼ばれることが多い。
マイティー・デビルは攻撃特化型の種族だ。タイマンにおいては敵の意表を突き、奇襲ができるスピード特化型が重要視されがちだ。
力と力のぶつかり合いがメインの大規模ギルドバトルの場合は、攻撃技の強力な種族が活躍する。
そのためデビル・ドラゴン・タイタン・フェンリルなど火力特化型の種族を使用するユーザーが多い。
このゲームは味方であっても攻撃が命中してしまう仕様のため、所構わず範囲技を放つユーザーは “無差別テロ” と呼ばれ、火力と範囲技が強力なマイティー・デビルは特に批判の対象となりもした。
だが、そのような批判も洗い流すように、昨日行われた大規模ギルドバトルの優勝者こそが、ロフィス・アーレガルドである。
「今日は私の我がままに付き合ってくれてありがとね、ロフィス!」
「まったく……。昨日の今日で、いきなり城が見たいだなんて急すぎじゃないか、ぼっちぶぅ?」
ぼっちぶぅと呼ばれたエルフの女性こそ、ロフィスのギルド、“アルデバラン” と決勝戦で死闘を繰り広げた相手、“ぼっちの集い” ギルドマスター。ゲームのリリース当初から共に遊んでいる友人でもある。
さきほどのロフィスの発言を聞き、ほっぺたを膨らませた彼女は口調を強め反論する。
「急なのはロフィスの方でしょ……。優勝した翌日にゲームを引退するってどういうことよ? 結局私のギルドは、あなたの最終守護領域である “城” にすらたどり着けなかったんだから見納めくらいさせてよね」
バツの悪そうな表情で彼女は答える。
「それに、少しは悪いと思ってるわよ……」
彼女の返答を聞いたロフィスは、自信ありげな口調で彼女に語りかけた。
どこか嬉しそうな雰囲気を漂わせるが、顔は堅い甲殻で覆われているため表情から読み取ることはできない。
「まぁ俺が育てたNPCたちは、どれも特別だからな! 何よりもギルドホームである『空中都市 アルカナ』は無敵の防御を誇っていると、自信を持って言える!」
アビシャル・ゲートのギルドシステムは少し特殊で、ゲームを開始して直ぐのチュートリアルで、強制的にギルドを作ることとなる。
そして、作成したギルドに加入できる存在はNPCだけなのだ。
要するに、他のプレイヤーキャラクターを自分のギルドに入れることは不可能――可能なのはガチャで引いたNPCだけ。
NPCは、指示を出すことで “AI” が成長し、様々な戦略を学ばせることでプレイヤーの思い描く行動をしてくれる。
もちろん他のプレイヤーとダンジョンに潜って遊ぶこともできるが、下手なプレイヤーよりも、あらゆるパターンの戦闘技術を学ばせたNPCの方が強いこともザラだ。