第十六話 ドロップアイテム
ロフィス視点に戻ります
――東フォークラング大森林
日が静まり返った森の中、一箇所だけ明かりが灯っている。
周囲に落ちていたであろう、木の枝をくべられた焚き火の光が、くらい森の中を照らすように揺らめく。
焚き火を取り囲むように設置された骨つき肉は火に焼かれ、美味しそうな匂いを周囲に漂わせている。滴る油によって、火はより大きな揺らめきを漂わせていた。
そろそろ食べ頃だろうか。ジュージューと音を立てて焼ける肉を見つめている二人。
お腹をすかせたロフィスとニルは、今にも飛びかかるような野獣の目で、こんがりと焼け目のついた骨つき肉を見つめていた。
「ロフィス様!そろそろ焼けたのではないでしょうか!?」
「そうだな……。確かに食べごろかもしれないな!」
ミディアムほどの焼き加減だろうか。表面がしっかりと焼けている骨付き肉へ手を伸ばす。
この肉は、グレート・ボアと呼ばれる全長2メートルを超えるイノシシの肉だ。夜とは違って、昼の森には様々な動物が生息しているため、獲物を見つけることはさほど苦労しなかった。
「こんなに美味そうな肉を食べれるのはニルのおかげだな!」
ロフィスを襲ったことの挽回だろうか、ニルは目の色を変え獲物を探していた。
そして、八体ほどのグレート・ボアの集団を見つける。ニルは、任せてくださいと言わんばかりの表情で突撃していき、スペル技を使うほどでもないにもかかわらず、大技により一瞬にして全てのグレート・ボアを倒した。
「そのようなことはございません! この程度の獲物でしたら、目をつむってでも倒すことは造作もないでしょう!」
「あ、あぁ。ニルのおかげで楽ができたよ、ありがとう」
そう答えたロフィスの表情はどこか引きつっているように見える。
ロフィスは焚き火付近に山積みにされている、七体のグレート・ボアに目を向ける。
(はぁ。さすがに二人で残り七体のグレート・ボアも食べれないよなぁ)
アビシャル・ゲートの世界では倒したモンスターは何かしらのアイテムをドロップして消失する。
だが、この世界のモンスターは倒したところで死体は消えない。現実の世界のように、致命傷を与えれば血は流れるし、モンスターを倒したからと言ってお金が落ちるわけでもない。
紛れもなく――この世界は現実と何一つ変わらないのだと認識する。
(この肉も、ニルが食べやすいように切ってくれたから “骨付き肉” が出来上がったんだよなぁ)
骨付き肉は本来、グレート・ボアを討伐した際にドロップするアイテムの一つだ。
だがドロップという概念がないこの世界は、現実世界のように無限とも言えるアイテムのパターンが存在する事になる。
骨つき肉の “肉” の部分を食べてしまえば、“骨” というアイテムが手に入るのだろう。そう考えたロフィスは、ゲームと現実が融合したこの世界に対しワクワクした感情が芽生える。
「ロフィス様……どうかなされましたか?」
思考の波によってい動きを止めていたロフィスに対し、少し不安に思ったのだろう、ニルが問いかける。
「あぁ……すまない。少し考え事をしていただけだ」
ロフィスは手に握りしめている骨つき肉を、ニルの方へ向けた。
「ニルのおかげでご飯にありつけたようなものだ。先に食べてくれ」
「そ、そんな! 配下である私が、ロフィス様より先に食事をとるなど失礼なことです。私には気を使わずにお先にお召し上がりください!」
そう答えた直後に、ニルのお腹がなる。
よほど恥ずかしかったのだろう、頬を赤らめた彼女は慌てる様子で自分のお腹に手を当てて苦笑いをする。
「ははっ! ニルのお腹は正直なようだぞ? 遠慮するな、これは私の命令だ。もし負い目を感じてしまうなら、毒味だと思って先に味を確かめてくれると助かるんだが……?」
「確かに食べて安全かを確かめるのも配下の務め! 是非私にお任せください!」
(単純なやつだなーー)
骨つき肉を受け取ったニルは、目を輝かせならが油の滴るジューシーに焼けた肉を眺める。
彼女は一度喉を鳴らすと、肉の部分にかぶりついた。途端に彼女は大きく目を見開き、「ん〜!」という声をだす。
「なんという柔らかさでしょう! 塩の味もしっかりときいていて、このお肉美味しすぎますー!」
「それはよかった! 調理道具を一式持っていてよかったよ」
料理とは本来、食べることで自身のステータスを上昇させる効果がある。そのため、ロフィスは普段から調味料や料理道具といった物を持ち歩いていた。
ゲームのシステム上、食べるという行為は存在しない。システム画面を開いて、料理を “使用” することで効果が発動されるだけだ。
(お腹も空くし、匂いも現実のものと変わらない……。アビシャル ・ゲートの仕様がそのまま適応されているこの世界は、ある意味俺にとって最高の環境なんじゃないか? こんなうまい飯にありつけるわけだし)
ゲームの中でいくら努力しようと、腹は膨れないし得られるメリットがまず存在しない。あの世界で1位の称号を得た自分なら、この世界で好き勝手に楽な生活を遅れるのではないだろうか?
そのような考えがふとロフィスの脳裏に過ぎる。