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第十一話 スペル

 ロフィスの手――周辺が赤く光りはじめる。徐々に真紅の輝きが強くなり、火の粉が手の中心に集まりだす。

 そこには、灼熱の熱さを放つ火の塊が形成され、輝きがピークに達したその瞬間――



 <ファイアボール / 火球>



 アビシャル・ゲートの技は全て “スペル” と呼ばれ、一字源スペルから十字源スペルまで存在する。浮かび上がる文字の数によってその威力は変わり、数が多いほど強力なスペル技を発動することが可能という訳だ。


 

 勢いよく、その手から放たれた一字源スペル “ファイアボール” は、ニルの額に命中し爆発する。

 地震でも起きたかのように辺りは振動し、深い音が辺りに響き渡る。


 十メートルほど先まで吹き飛ばされたニルは、空を向くように仰向けとなり、目を回している。

 健全な男性には喜ばしいことだが。童貞をこじらせたロフィスにとっては面食らってしまう出来事だった。



 ――そして、無事に彼の貞操は守られたのである。  



(あぁ……。早くお家に帰りたい……)











「ぐすん……。すみませんでした」



 腕を組み、仁王立ちのロフィスは――正座する彼女を見下ろしていた。先程までの勢いを無くした彼女は、うつむき、目には涙を浮かべている。



「守護者であるお前が冷静さを失い、俺を襲うなど……。少し自覚が足りてないんじゃないか?」



 ロフィスの発言に “ビクン” と一度体を揺らすニル。やってしまった、という顔をしながら、申し訳なさそうに顔を上げる彼女。ロフィスの魔法が直撃した額は、少し赤みを帯びていた。


 儚げな表情――目を赤らめ、どこか弱々しい乙女の顔に、一瞬胸がドキッとしてしまう。



(黙っていれば可愛いんだけどなぁ……)



 罪という重しによって、硬く閉ざされた口が開き、許しをこうような表情でロフィスの目を見つめる。



「ロフィス様より与えられた地位を忘れ……我らが王に対し、無礼な行いをしてしまったことを、どうかお許しください」


「ふむ」



 誰しもミスはある。そのミスを批判だけしていては人は成長しない。

 今の彼女は心から反省しているようだ。 王と慕ってくれている彼女に対し、このような時こそ、大きな心でそれを受け止めるべきなのではないだろうか?

 そう考えたロフィスは、彼女を慰めるため声を掛ける。


 

「……分かった。二度とこのようなことがないように、気をつけ――」



 そんな彼女を許そうと、声をあげたその瞬間。重ねるようにニルは喋り出す。



「つきましては、この私の命を引き換えに、謝罪とさせていただきます」



「……はい?」



 ――突如、彼女の膝ものに置かれた刀<斬魔刀>を目にも留まらぬ速さで掴む。鞘から取り出された刀身からは、赤紫の光が溢れ出している。

 斬魔刀は魔術防御の高いキャラクターに対し、絶大的な威力を発揮する武器だ。名前の通り、”魔” を切り裂くことができるこの刀は、魔法防御で固めているキャスター系のキャラクターに忌み嫌われている。


 もちろん、刀単体としての威力は申し分ない。そんな恐ろしい武器を躊躇なく取り出したニルは、勢いよく己の首めがけて振り下ろしていた。



(――ちょっ! マジか!)


 プロゲーマーとして培われた反射神経によって、ロフィスは咄嗟に行動を移す。



――無詠唱

<デス・フリーク / 死の波動>



 本来、スペル技は詠唱を必要とし、発動まで時間が必要となる。だが、一分に一度のクールタイムで使うことができる “無詠唱” によって詠唱時間を全てキャンセルすることが可能だ。


 五字源スペル “デス・フリーク” を発動したロフィスは、その場で指を鳴らす。

 その音によって発生した波動が彼女の持っている刀まで到達した。――直後、その波動を吸収した刀は、勢いよく爆発し彼女の手から離れた位置へと吹き飛ぶ。



「――ニル! 大丈夫か!? 」



 彼女はロフィスが初めに制作したNPC、そのため一番思い入れがある。

 何より、目の前にいるのは、もはやNPCとは言えない存在――どう考えても “心” が存在していた。

 ニルは生きている。 そんな彼女がこうも簡単に命を投げ出そうとしたのだ。

 ロフィスは怒りと悲しみの入り混じった声を上げ、彼女の元に駆け寄る。



「ロフィス……様。……どうして?」



 彼女の首は傾き、どうして助けてくれたのだろう? と言わんばかりに目を見開き、驚いた表情をしていた。


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