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第九話 異世界転移

 ――東フォークラング大森林

 辺り一面を全長数100メートル以上の大樹で覆いつくされているこの森林は、野生動物が暮らすには丁度良い環境が構築されている。人の手が届くほどの若木には果実が実っており、それを目当てに小鳥たちが辺りを飛び交っている。


 この豊かな森林には川が流れており、シカやイノシシなどの動物たちが水を目当てに集まっていた。外敵が存在しないからだろう、小鳥たちの鳴き声によってこの空間に艶やかなメロディーが響き渡る。


木々の隙間から差し込む光――まるで、まほろばのように穏やかで静かな時間が流れているこの空間に、一人の男の声が響き渡る。



「――ぼっちぶぅ!」

 


 先ほどまで聞こえていた動物たちの声が止む。

 ロフィスは勢いよく上半身を起こした。



(……今のは……夢だったのか?)



 突然の出来事に頭が混乱する。

 徐々に意識は回復するが、急に目を開けたため、光の降り注ぐこの空間に目が慣れず、ロフィスは未だに立ち上がることができない。


 そんな状態の彼を心配そうに見つめる女性が一人、ロフィスを気遣うように声をかける。



「ロフィス様、ご気分はいかがでしょうか?」 



 彼の後ろから聞こえてきた声の主を警戒するよう、ロフィスは後ろを振り向いた。

 先ほどまで、ぼやけていた視界が徐々に回復してくる。


 膝を曲げ、地面に座っている彼女の姿。彼女の細く美しいボディラインが目に映る。

 金色に輝くプレート――彼女のブロンド色の髪の特徴により、ロフィスは存在を認識した。



「お前は、ニル……? ニル・ヒストリア……なのか?」



 初めて制作したNPC、ニル・ヒストリア。

 ロフィスの返答に安心したのだろう。彼女は表情をやわらげた彼女は一言だけ ”はい” と返事をし、続けてロフィスに語りかけた。



「ロフィス様から命を授かり、第一守護領域――アルカナ市街の防衛を任されておりました、ニル・ヒストリアでございます。先ほどの出来事で、私を忘れてしまったのでしょうか……?」


 穏やかな表情は崩れ去り、今にも泣きだしそうな顔で彼女は答える。



(なんだこれ……。俺はまだ夢でもみているのか?)



 NPCが言葉を話している? そんな仕様はアビシャル・ゲートには存在しない。

 幾度なる衝撃の連続により、ロフィスは冷静な思考ができない。

 何が現実で何が夢なのだろうか? 抑えきれない不安により手で顔を覆ってしまう。



 ふと、顔を覆った手に着けられた指輪が視界に入る。リングの部分は金色に輝いており、中心には赤く輝く宝石がはめられている――魔王の指輪だ。


 そうだ、この指輪をはめて意識が飛んで――

 ――徐々に蘇る記憶。なんとか不安を押さえ込み、ロフィスはニルに問いかけた。



「ニル……驚かせてすまない。 大丈夫だ、お前のことはしっかりと覚えているよ。できれば、この状況を説明してくれるか?」



 ロフィスの冷静な返答を聞いたニルは、一度頷き、瞼を閉じて話す内容を考える動作を行う。


 アビシャル・ゲートのNPCには表情が存在しない。

 だが今の彼女は、まるで生きている人間のようにリアルな動作を行なっている。



(どこから見ても人間そのものだな……。しかも、めちゃくちゃ可愛いし)


 ゲーム特有である、ポリゴンの荒さが彼女には存在していなかった。彼女だけではない、この空間に存在する全ての物体が現実のようにリアルな質感を保っていた。


 ロフィスは薄々感じていた。

 自分自身がただならぬ状況下に置かれていることを。


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