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越冬  作者: 社 やすみ
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旧交

 オーナーの告白に無言のままの俺と、時折ちらちら俺を見るオーナー。俺たち二人の間には沈黙が流れ、それは永遠に続くのではないかと思えるほどだった。

 オーナーは、「言いたいことは言ったし満足」といった雰囲気を出そうとしている様で、目を見開いて、口を真一文字に結んだ、いかにもサッパリしたという顔をしたが、どこか落ち着かない雰囲気で、目は泳いでいるし、せわしなく手を動かしている割には、何か特定の作業をしているわけではない。そんなオーナーを見るのは初めてだから、俺は俺で何とも落ち着かない。と、その時、俺の腹が鳴った。それにハッとしたオーナーが、何やらちゃんと動き始めた。


「ごめんね、食べに来たのにね」


 そう言ったオーナーの顔、そして声は、まだ俺の知る女帝のものではなかったけども、何となく話をそらしてくれたことに俺は内心ホッとした。

 そして、さっきのオーナーの少女の雰囲気を引き出せなかった過去の俺は、うわべの接客やコミュニケーションは上手かったかもしれないが、この女の心は微塵も理解出来ていなかったんだろうな、何とも力のないホストだったんだろうなと、しみじみ実感させられた。

 お陰で俺は肩を落として、それから一呼吸おいて、オーナーの目を見て言った。


「俺は何も分かってなかったんだな」


「何? 何の話?」


 オーナーは眉毛をハの字にして、俺の目を覗き込んでくる。その瞳に、昔はかんじなかった(かげ)りが見えた気がして、この女でもやっぱり歳を取るものなのか、なんて思った。会わない間の苦労なんか、俺からは聞きはしないけども、ちょっと想像してみれば、そりゃあ苦労したんだろうなと思う。というのも、オーナーの額には、眉が八の字になった時だけ(しわ)が現れて、やっぱり若いままじゃないんだな、なんて、これまたしみじみ思わされたからだ。


「……いや。 腹が減ったな」


「……お待たせ。 私もちょっといただこうかな」


 オーナーは酒を出してきて、小さめのグラスにこんこんと注ぐ。すぐに同じ種類のグラスにも注いで、俺にも差し出してきた。俺は少し掲げてちびちびやる。オーナーは無言であおった。そして料理の皿を並べてく。俺は、本当に腹が減ったなあと思いながら、オーナーの配膳しぐさを眺めている。並んだ料理は、肉じゃがやら、鰹節のかかった小松菜のお浸しだとか、具だくさんの味噌汁、雑穀米といったかんじで、そろそろ健康が気になってくる年齢の俺にいい健康的なメシだなと思った。昔はレバニラ炒めやら、カツとじやらで、ボリューミーなものが並んだので、その変化に感慨もあった。当のオーナーは、「こんなものしかないけれど、そろそろあんたもいい歳なんだし、今日はこれで我慢しなさい」とか言うので、「いや、こういうのがいいんだ」と返して、「俺も歳を取ったよ」なんて続けて、肉じゃがの芋を頬張った。するとオーナーも、「ほんとに変わったのね」なんて言って、昔ならさっきの色恋を(はら)んだ沈黙に気まずくなったままだったろうが、今の俺たちは穏やかな時間の中にあって、これは味が染みてるだの何だの、隠し味がどうだのこうだの言いながら、お互いの近況を報告し合ったりなんかして、何だか昔よりもいい距離の関係性を築けそうな気がした。

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