真っ白な画用紙の上に
決定版です。基本このスタンスで書いていきます。ペースは大体一話につき一週間程。物語の主軸は、ヒューマンドラマとなっております。皆様に読んでいただけることこそ、この上ない喜びです。なお、気になった点、ご要望などはコメントしてくれると嬉しいです。ジャンジャン書き込んじゃってください。
「あ、やばい。」
やかましく発行する一筋の閃光がおれの頬を通過する。その先に掛けてあったおれの洒落た革ジャン、いわばおれ唯一のおしゃれ要員が、跡形もなく姿を消した。その光線を放ったこのくそ女は、万遍の笑みで許しを請う。
「ごめんね、わざとじゃないんだよ?」
これで何度目か。おれは近くにあった有名な雑誌を、そいつにめがけて投げつけた。
するとまた同じ光線を放ち、それは跡形もなく消し飛んだ。おれは涙をこらえて言い返す。
「あ、やばい、じゃないだろもう! 頼むからこれ以上消さないでくれよお!」
やっぱりこらえきれず床に突っ伏して、大声で泣いた。
事の始まりは懐かしい10日前に遡る。その頃のおれは大学にも行かず、家でずっとネットサーフィンをしていた。ここはネトゲだろって思う人もいるかもしれないが、RPG系やってもキャラの育成を途中でやめてしまうおれは、ネトゲにはまるのすら難しいのである。だから、ただひたすらに眺めていたよ、動画視聴用ツールでゲーム実況やたまに出回る無断転載のアニメをな。そんな生活をして、気が付けばもう二年が過ぎていた。大学に行かなくなったのが一年の春後半だから、全く授業を受けていないことになる。自分でも駄目だと分かっていたがどうしても行く気になれなかった。理由は簡単、講義より家でダラダラしている方が楽しかったからだ。ああ、幸せだったなあ。親に寄生しながら、おうちを出ないで惰眠を貪る毎日。唯一やることと言えば、就職先を探しているとか言って、親をだますくらい。それだけでご飯もおもちゃも手に入った。そんな夢のような暮らしを送っていたおれだが、ある日のことであった。
その日はおれの誕生日だった。
廊下を自分のクラスの方に歩き、向かい合っている一組と八組の教室の間に下と上を行き来する階段の途中で足を止め、下の階の自分の教室を眺めた。前まで好きだった人が、クラスの女子たちと笑顔でおしゃべりをしている。長く見すぎたか、彼女がおれに気づいたようで、畏怖の念がこもった眼差しで睨み付けられた。俺は目を反らし、そのまま階段を駆け上がった。三回に行けばその階段の正面に、バルコニーのように出っ張った天井のないスペースがある。そこについたおれは、ふと空を見る。やっぱり今日も曇っているから、今日こそは降ってくれるなと頭の中で念じる。おれは雨が嫌いなのだ。
「神様まで泣いたら、誰がおれを励ましてくれるんだよ。」
空はじっと、おれを見つめる。ここの所最近、雨が多い。教えてくれ。どうしてお前の顔は、曇っているのか。おれがあの日、取り返しのつかないことをしてしまったからなのか。胸が締め付けられるように痛み出す。いくらそれを考えないようにしても甦る。いつの間にか、おれはまた呟いていた。
「ごめんなさい。」
おれはもう、儀式を始めることにした。手すりに足を引っ掛け、そのままよじ登り、下を一瞬だけ見る。駐車場の車が小さく見える。なかなか踏みきろうとしない素直なおれの体。だが、おれにはもうこれしかない。こんな世界、いても辛いだけだ。さっさと行ってしまいたい。おれは願う。アニメの世界、四次元の時間空間、異世界転生だっていい。
「おれを、ここじゃないどこかへ連れていってくれ!」
おれは引っ掛けていた足を手すりとその下の間から抜き、外側にもって来た。そして、手すりから手を放し、頭から垂直落下した。目を閉じると、瞼がおれの世界を少しずつ覆い、雨の音が消えていく。辺りは真っ暗になる。ここでおれは、今一度目を開ける。一筋の光が見えてきた。そこは天国かと思いきや、現実世界。そして真下を見れば、灰色のアスファルトが迫ってきている。結局死ぬんだ。目いっぱい痛い思いをさせてやろうという、天使からおれの自殺への罰だ。そう思って、痛みを覚悟したその時だった。疾風とともに、何か人のような形をしたものが視界に現れた。そしておれに手の平を向け、訳のわからないワードを口にした。
「イレース!」
凍えそうな肌寒さと、べっとりと体につく水気の気持ち悪さでおれは目を覚ます。瞼が開いた時には、おれはどこかさっきとは違うところにいた。前方を見渡すと、小さな四本足の机がいくつか置いてあり、きれいに整えられている。窓ガラスもきれいで、黒板はおれの顔が写るぐらいだった。おれは途端に肩を落とした。どうやら、まだこの、現実世界にいるままらしい。そして、後一つ。後ろに何かいる。おれは素早く振り向いた。
「よかった、間に合って。」
そこにいたのは、鮮明な色白い肌に蒼色の瞳孔を持った、細身で背の低い美少女だった。目の前の彼女の姿を直視した瞬間、頭が真っ白になり、胸の鼓動が高鳴った。彼女は額滴る汗を赤いハンカチで拭き取った。そして入れづらそうな胸ポケットにそれを押し込み、人束に結んだ白相色の髪を掻き上げる。彼女はその小柄な体格からは想像もつかないほどの握力でおれの手を掴み、そのまま振り回すように握手をしてきた。今更気づいたのだが、彼女は手に黒色の新品な手袋をはめている。手の痛みが無くなったころ、彼女はきらきらした目でおれを見つめた。思わず一歩後ろに引くと、彼女は唐突に口を開き始めた。
「私の名前は白井、藍。高校一年生。アイちゃんって呼んでね。」
おれは戸惑いながらも、言う通りにする。
「アイちゃん。」
次の瞬間、彼女の毒舌が飛んできた。
「あはっ、きもーい。」
どうしてこんなに、女子の悪口は傷つくのか。おれのライフはゼロになった。その様子を、彼女は腹を抱えて笑う。
「君、面白いね。」
そう言って彼女が、純粋な瞳でおれを見つめる。いくらなんでも展開が早すぎると、おれは思う。だけど悪くない。おれも彼女を笑顔で見つめた。すると、彼女は再び口を開いた。
「顔、洗った方がいいよ。それじゃスリムなルックスが台無しだ。」
変な勘違いをしたおれはメンタルだけがすり減った。その様子を、彼女は腹を抱えて笑っている。嫌な感じだけど、なぜか腹はたたない。しばらくして、彼女は質問してきた。
「君、名前なんて言うの?」
おれはさっき言われたことを悲観に受け取っていたので、わざとらしくそっぽを向く。そして少し低く、呟くように話す。
「賀喜鉦太郎です。趣味はアニメを見ること、よろしく。」
心のこもってない自己紹介が嫌なのか、彼女は口をへの字にして、おれの頬をあの握力で引っ張ってきた。
「初対面に何だねその態度は。」
そのあと、すぐに頬の痛みがなくなった。彼女は席を立ち、今度は窓を眺めている。ふとした瞬間、周りからは風の吹き荒ぶ音しか聞こえなくなった。しかも、その風が彼女にまとわりついているようで。その光景は、ひょっとしたら、おれが見た錯覚かもしれない。だけど、確かにそのとき、まるで彼女が、何かに選ばれているような気がして。
「でね、お願いっていうのは。」
続けて何かしら思おうとするおれを、彼女は再度見つめてきた。その目は何かを訴えているように見え、期待しているようにも見えた。そして、彼女はすぐにそれを鮮明にする言葉を発した。
「私と一緒にいてくれる?」
すぐに返事が出来なかった。彼女の覚悟が入り交じった眼差しは、簡単に背負っていい気がしなかった。長い間黙っていたからか、彼女は苦笑いをしてこういった。
「分かった。じゃあ明日、もう一度ここに来てほしい。」
彼女は多目的室の近くにあった白いカバンを持ち、戸締まり点検をする。そして入り口の前に立つと、おれの方を向きお辞儀を行った。
「ありがとう。」
最後に彼女は、もう一度おれの方を向いて、満面の笑みを見せた。言い終わると、彼女は多目的室をでていった。おれもそろそろ帰ろうと思い、カバンを持ってその場を去る。それにしても第二の人生を歩もうとしたおれを邪魔したのは、いったい何者なのだろう。それに、突然現れた彼女、白井藍。なぜ彼女はおれを必要とするのか。彼女はもう帰ってしまったので、その答えを知るために、まず今日は生きよう。そう思った。 続
最後に、コメントを書き込んでくださった方、また読んでくださった方々は、コメントとともに、自身が書いている小説を宣伝していただけると嬉しいです。それではこれからも、「おれ色days」をどうぞよろしくお願いします。