schooldays Ⅸ けーき
広い食堂。食事中の、もしくは談笑中の生徒達。騒がしいはずなのに、彼にはひどく静かに思えた。
「おいヨハン、大丈夫か?」
「え、ああ、うん。ごめん」
「いいけどよォ.....お前まだあいつと話せてないんだろ?」
梓涵の言葉に苦笑したヨハンは、視線を自分の右隣へと移す。いつもミハイルが座っていた席はぽっかりと空き、それがなんだか苦しかった。
事情を聴いている梓涵とアーニャは浮かない顔のヨハンを見て見ぬふりは出来なかった。
「ごめんなさい、私のせいよね」
「違う、僕が悪いんだよ。ミハイルのことちゃんと分かってなかった事も、これ以上嫌われたくなくて話しかけられないでいる事も.....」
ずんと空気が重くなる。
暗い雰囲気が嫌いな梓涵も軽口を叩けず、黙ったまま料理を取り分けて食べ始めた。
「あ、これ美味いな。芋?」
「レシュティよ。今日の夕食、全体的に朝ごはんみたいね」
そう言いながらアーニャはケーキにフォークを刺した。
「ケーキ.....持って帰ってもいいかな」
ふいにヨハンが口を開く。視線の先にはミハイルがよく食べていたショートケーキ。いいんじゃないかと言われ、ヨハンは考えた末に氷で入れ物を作り、ケーキをその中に入れた。
その様子を見て、梓涵は鋭い視線を携え口を開く。
「ヨハンはさァ、どうしたいんだよ」
「どうって、僕はまたミハイルと仲良くしたい。今日こそちゃんと話すよ」
「またってことは、前と同じようにってか? それはちと狡いんじゃないかね」
「ちょっと、梓涵」
アーニャが慌てて梓涵を止めるが、彼の肩に伸ばされた手は触れることができずに停止した。それを気にしたふうでもなく、梓涵は続ける。
「お前はよォ、あの坊ちゃんのことを知るべきだ。そんで自分の事を話すべきだな。愛せざる所に愛する真似をしてはならぬ。ヨハン、お前がもしこのまま何も言わずに終わるつもりなら、振り回されるのはミハイルだ」
「僕は、そんなつもりじゃ.....」
瞳を揺らすヨハンになおも続けようとする梓涵の体が不意に傾く。アーニャが彼の服を思い切り引っ張ったのだ。
梓涵の言葉が途切れたのを合図に立ち上がり、ヨハンは「ごめん」と一言。
「おやすみ、また明日」
その言葉を絞り出し、逃げるように走り去る。
後ろ姿を眺めつつ、梓涵はテーブルに肘をつく。「行儀が悪いわ」とたしなめるアーニャの声は震えていた。
「お前が責任を感じることはないだろ。まあ原因はお前かもしれないけど、これはあいつらの問題だ」




