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二つの世界を行ったり来たり  作者: リュミエール
1章 幼馴染の危機
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第8話 バンジーの弱点

 バンジーは氷弾を連発し、俺がそれをかわす。

 そんな戦闘を、かれこれ十分は行っていた。

「どうしたどうした!そんなことでは私は倒せんぞ!」

「ちっくしょう!きたねえぞお前!そんなもん飛ばさないで正々堂々と戦いやがれ!」

「ふん、駆け出し冒険者が。命をかけた戦いに、きたないもくそもないわ!」

 確かにそうかもしれないけど、こんなのさすがにおかしいだろ!

 物理も効かない、魔法も効かないって、どうしろってんだ!

「ふふふ、焦りが見えてきたな。さあ、どんどんいくぞ!」

「くそ!やられてたまるか!『サンダーボルト』!」

 氷と雷がぶつかり合い、爆発が起こり、辺りを煙が覆う。

 くそ、周りが見えない。

 これじゃあどこからあいつの魔法が飛んでくるかわからない…

「!ぐあ…!?」

 突然左腕に衝撃が加わり、体温が急激に下がっていく。

 くそ、これってもしかして、あいつの氷弾を食らっちまったってことか…

 左腕の感覚がほとんどなくなったが、至るところに氷弾が当たった場所が凍っているのに、俺の腕は凍らずにいた。

 何でかは知らないが、今はあいつを倒すのが先決だ。

 周りの煙が晴れてきて、辺りを見回すと、背後にバンジーが立っていた。

「ふっ、どうやら先程の氷弾は当たらなかったようだな…」

 どうやらバンジーは、俺の体がどこも凍っていないから、そう判断したのだろう。

 実際は左腕が使い物にならなくなったのだが…

「さあ、もっと踊れ!」

「くっ!?」

 バンジーは再び氷弾を連発してきた。

 くそ、このままじゃ負けるのは俺だ…

 何か、何かないか?

 そういえばあいつは、何で最初から魔法に対するバリアを張っていなかった?

 本当に俺を侮っていただけなのか?

 もしも別の理由があったんだとしたら?

 魔法のバリアを張らないことのメリットは?

「ふふふ、もうかわすしか出来ないようだな…ならば、私の特大の『魔法』をもって葬ってやるとしよう!」

 魔法?

 今まで飛ばしていた氷弾は、全部魔法なのか?

 だとしたら、最初に魔法のバリアを張らなかった理由は…

「さあ!覚悟は出来たか!食らえ!」

 バンジーは、部屋の体積の五分の一ほどの大きさの氷弾を飛ばす。

 くそ!こうなったら一か八かだ!

「があ!」

 俺は右に跳ぶが、左足が氷弾に当たり、体温を奪う。

 だけど、ここで終わるわけにはいかない!

「バンジー!見せてやるよ…俺の本気を!『サンダーボルト』ォ!」

「なっ!?しまっ…ぐわあああああ!」

 俺のフルパワーの『サンダーボルト』は、バンジーに跳ね返されることなく、彼女の体に直撃した。

 やっぱり、あいつのバリアは自分の魔法も跳ね返すんだ。

 だから氷弾を飛ばすときはそのバリアを解除してた。

 その隙をつけば、俺の魔法を当てられると思ったが大当たりだ。

 バンジーは、その場で倒れ、体から黒い霧のようなものが涌き出てきて、ゆっくりと消えていった。

 これで、呪いが解けたのか?

 俺は確認するため、近くの手すりを掴んで立ち上がり、右足に力を入れて歩き出す。

 そのとき…

「!?ぐああああああ!」

 氷弾が俺の右足を撃ち抜いた。

 俺は右足の感覚もなくなってきて、その場に倒れる。

 氷弾が飛んできた方を見ると、そこには息を切らしたバンジーが立っていた。

「ぬかったわ…こんなガキにここまで苦戦させられるとは…このガキめ…食らえ!」

「が…あ…!」

 バンジーは氷弾を飛ばし、俺の右腕を撃ち抜く。

 遂に両手両足の感覚が無くなり、意識が薄れてくる。

「なぜお前の体が凍らないかは謎だが、お前はもう生かしてはおけぬ…ここで死んでもらうぞ」

 や…だ…

 まだ…死にたく…ない…

 そんな想いを抱きながら、俺の意識は途切れた。

 

 

 

 ん…

 ここは、どこだ?

 俺は、死んだのか?

「…ラさ…」

 何だ?どこからか声が聞こえる…

「…ラさん…ソラさん!」

 何だろう…どこかで聞いたことのあるような…そんな声が…俺を呼んでる。

「ソラさん!ソラさん!」

 頬に何か熱いものが落ちた感覚とともにまぶたをあげると、視界には瞳から涙を流すユイの姿があった。

 辺りをチラッと見てみたが、どうやら先程まで俺とバンジーが戦っていた部屋のようだ。

「ソラさん!よかった…目が覚めたんですね!」

「バンジーはどうした…」

「あいつは私が倒しました!もう大丈夫です!」

 ユイがバンジーを…

 ていうことは、黒い霧が消えたとき、ちゃんと呪いは解けてたんだな…

「よかった…」

 俺は心の底から安堵した。

 あんな痛い想いをして戦った意味は、ちゃんとあったんだな。

「それにしても、ソラさんは無茶をしすぎです!私が助けるのが遅れていたら死んでたんですよ!」

「俺だって死ぬのは嫌だがな…あいつがお前に呪いをかけてた張本人だったんだからしょうがないだろ」

「だからって…」

 ユイは申し訳なさそうに俯く。

 おそらく、俺が怪我をしたのを自分のせいだと思っているのだろう。

 俺はユイの頭を撫でようとしたが、まだ両手両足の感覚がなく、動かすことも出来ない状態だった。

 仕方ないので、ここは言葉だけで伝えることにしよう。

「呪いにかかったのはお前のせいじゃないし、お前だって立場が逆なら同じことしたんじゃないか?」

「えっ?」

「お前を見てると、あいつが重なって見えるんだよ…行動が早くて、優しくて、いつも明るいあいつと…」

 ユイは俺の言葉を黙って聞いている。

「だからよ、絶対に助けたいって思ったんだ。命を捨ててでも、お前を助けたいって…」

「…………………」

 ユイはしばらく沈黙した後、こう言った。

「私は、そんなこと望んでません…」

 そして、俺の胸に手を乗せる。

「私は、誰かが犠牲になってまで生きたいとは思えません!だから、もうこんなことはやめてください!」

 今まで温厚な雰囲気のユイが、激怒した。

 確かに俺も、逆の立場なら、こんな状況は嬉しくないだろう…

 そう考えると、俺は反論出来なくなっていた。

「ごめん…」

「わかればいいんです」

 ユイは俺を背負い、部屋を出る。

「じゃあギルドに戻りましょう。早く怪我を治さないといけませんからね」

「……なあ、ユイ。初めて会ったときから思ってたこと、今言っていいか?」

「何ですか?」

「さん付けと敬語、やめてくれないか?お前、俺の友達に似てるから違和感があって…」

「えっ?でも、会ってまだ間もないですし…」

「すぐにとは言わないさ。少しずつ慣れてくれればいいから」

「でも、うーん…」

 ユイは小一時間悩んだ様子を見せた。

 そして、観念したかのようにため息をする。

「わかったよ。これでいいかな、ソラ?」

「ああ。やっぱりそっちの方がしっくりくるな」

「……うん。私も言ってみて何だかしっくり来た」

 やっぱりユイは、唯の魂共有体だったんだな。

 ということは、唯を蝕んでいた呪いも消えていることだろう。

「それじゃあ、改めてよろしくな、ユイ」

「うん。こちらこそよろしく、ソラ」

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