第4話 実技試験
筆記試験を終えた俺たちは、ギルドの地下にあるダンジョン前まで来ていた。
「全員揃いましたね。ではこれより、実技試験の説明をします。内容は簡単です。奥にある宝箱の中身を持ってくることが出来れば合格です。後、制限時間は二時間です」
なるほど、パトから聞いた内容と同じだな。
「そして、奥に進むためなら誰の手を借りても構いません。他の参加者と協力するのも自由です」
と言われても、相手のことを理解してないのに、そんなことを出来る相手が見つかるとは思えないが…
「それではみなさん、準備はよろしいですね?では、実技試験、開始です!」
試験官の開始の合図とともに、冒険者志願者が一斉にダンジョンに入っていく。
俺もすぐにダンジョンに入り、辺りを見渡す。
壁や床はレンガブロックで作られていた。
魔物はいないようだが、油断しないように気をつけよう。
入り口から先に進むと、広い部屋に出た。
そこにあったのは、『この謎を解け』と書かれた看板と、仕掛けが施された扉があった。
仕掛けを見てみると、零から九までの数字を打ち込むもののようで、数字四桁をいれるものらしい。
部屋の左右にも道があるようなので、おそらくこの先に答えがあるのだろう。
俺は早速右を選んで奥に進むことにした。
先に進むと、そこには三つの扉と、『正解の扉はどれだ?』と書かれた看板が立っていた。
正解の扉はどれだ?て言われても…
でも、試験でただの運任せなことをさせるとも思えないし、どこかにヒントがあるのだろうか?
そう思って部屋の隅や壁を探ってみたが、特に何もなかった。
もしかしてヒントは別の場所にあるのか?
そう思って、来た道を戻ろうとしたとき、看板の裏側が視界に入り込んだ。
そこには、『答えは右の扉』と書かれていた。
まさか看板の裏側に答えが書かれているとは思わなかったが、これで先に進める。
俺は右の扉を開けると、そこにはさらに道が続いていた。
その先を進むと、広い部屋に出て、中央にたくさんの紙が置いてあった。
それを取って見てみると、『四、五、三、七』と書かれていた。
どの紙も同じ紙と言うことは、これは最初の扉を開けるための数字だろう。
紙を懐に入れると、来た道をまっすぐ戻っていった。
仕掛けの施された扉のある部屋に戻ってみると、たくさんの人が扉の前に立って何か考えていた。
全員数字の書かれた紙を持っているようだが、何かあったのだろうか?
俺は近くの男に聞いてみた。
「なあ、一体どうしたんだ?」
「んっ?どうやら一番乗りで紙を持ってきたやつが番号を打ったら、ハズレで穴に落とされたみたいなんだ」
「は?落とされたって、これは答えじゃないのか?」
「どうやらそうらしい。色々試してみたいが、一度間違えると失格みたいだから、みんな身動きとれねえってわけさ」
「そうなのか…そういえば、左側にも紙があったのか?」
「ああ、右側と書かれてる数字は同じみたいだ。謎解きが違うだけみたいだ」
左側も同じか…
となると、あと探してないところにヒントがあるのだろうか?
でも、他に探してないところなんて…
……そういえば試験官は、試験が始まる前にこんなことを言ってたよな。
誰の手を借りても構わないと…
それってもしかして、試験官の手を借りてもいいということではないだろうか?
これが実際の状況だったら、試験官なんて立場の人間は存在しない。
しかし、試験官に答えを聞いてはいけないというイメージはすでに定着してしまってるため、みんなその発送まで至らない。
俺の考えが当たっているなら、このダンジョンには答えのヒントなんてない。
俺は入り口に向けて走り出した。
俺は入り口に戻り、試験官のもとにたどり着いた。
「おや、どうしましたか?リタイアですか?」
その発言に対して、俺はヒントの紙を見せる。
「これの答えを知ってるのなら教えてください。どこを探してもこれ以上はわからないので」
俺の質問に、試験官はクスリと笑う。
「どうやら気づいたようですね。いいでしょう、教えてあげます。その紙の数字を右から読んでください。それが答えです」
「ありがとうございます」
やはり俺の考えは正しかったようだ。
俺はすぐに扉の部屋に戻り、扉の前に立つ。
周りは当然のようにどよめいている。
それはそうだろう。彼らには、当てずっぽうで当てようとするやつにしか見えない。
確か、紙の数字を右から読むんだよな。
その法則だと答えは七、三、五、四ということになる。
俺がその数字を打ち込むと、鍵が開く音がなり、扉が開いた。
周りは言葉を失って、その場で立ち尽くしていた。
どうやら周りは、俺が正解するとは思っていなかったようだ。
俺が扉の先に進むと、扉は一人手に閉じて、鍵が閉まる音が聞こえた。
扉の向こうから、何やら騒ぎ声が聞こえるが放っておこう。
扉の先は部屋があり、そこには茶色い短髪で黒い鎧を着た男性の試験官が中央に立っていた。
「おめでとう。このダンジョンの謎を解いたようだね、では最後の試験だ」
試験官はそう言って、腰に差した剣を抜く。
「最後の試験は、私と戦い、両腕につけられた皿を破壊するだけでいい」
なんだ、皿を割るだけならまだ勝ち目はありそうだ。
試験官は、そんな俺の考えを理解したのか、こんなことを言ってきた。
「皿を割るだけなら簡単と思っているなら大間違いだ。攻撃を当てられなければ、割れることはないのだから」
確かに、昨日まではベビーラビットに攻撃を当てられるようになっただけの俺が、この世界を生き抜いてきた人相手に攻撃を当てられるかどうか。
だけど、やるしかない。
唯を助けるためにも、冒険者として力をつけなくちゃいけないんだ。
俺は腰に差した剣を抜き、剣先を試験官に向ける。
「ほう、どうやら気合いは十分のようだ。だが、技量はどうかな?」
試験官は挑発してくるが、その手には乗らない。
ここは落ち着いて相手の動きを見るんだ。
挑発が聞いてないことを悟ったのか、試験官は笑みを浮かべた。
「では、試験開始だ。どこからでもかかってきたまえ」
試験官が試験開始の宣言をするが、迂闊に攻めればすぐにやられるだろう。
かといって、このままなにもしなければ、ただ時間だけが過ぎてしまう。
俺は悩んだ結果、試験官に駆け寄り、剣を横に振るった。
だが、案の定試験官は簡単にそれをかわし、剣を振るった。
俺は剣でそれを防御し、一度距離をとる。
「ほう、反応だけはいいな。だが、その程度の動きでは、試験を合格することは出来ないぞ」
「合格して見せるさ…どんなことがあっても!」