第31話 サーヤとの出会い
「さて、クロ。呪いの力はどっちだ」
「ここから南西の方角だな」
「よし、じゃあ行くか」
俺は南西に進み、しばらくすると袖を引っ張られる。
さっきもこんなことがあったような気がするが、一応振り向いてみると、案の定さっきの女が俺の袖を掴んでいた。
その周囲には、両親と思われる男女の二人組が立っている。
「ねえ、お兄ちゃんもこっちに行くの?だったら一緒に行こうよ!」
「は?なんでそんなことしなくちゃならねえんだ」
即答だ。こんなことに時間を使っている余裕はない。俺は女の手を振り払って先に行こうとする。
「じゃあ勝手に着いていくね」
「は?」
女はそう言うと、俺の隣まで走り、必死に俺と歩く速度を合わせようとする。
こいつの親の方を睨み、このガキ黙らせろと意思を示すと、ただ申し訳なさそうに頭を下げるだけで何も言わない。
明らかにあいつらの教育が、このガキをわがままに育て上げたな。
……仕方ねえ、方角が一緒ってだけだし、いつか別れることになるだろ。
「勝手にしろ」
「やったあ!」
俺がぶっきらぼうに言った言葉を聞いて、女は大声を出して喜び出す。
「ねえねえ、私サーヤ!あなたの名前は?」
「……ノロイだ」
「そっかー。よろしくね、ノロイさん!」
「クク…」
俺の様子を見ていたクロが、なんか変な声を出している。
「何やってんだお前」
「いや、ずいぶんとなつかれたなと思ってな。ククク…」
「テメエ、その変な声は笑い声か…」
もっとまともな精霊はいなかったのか?なんでこんなやつが俺のパートナーなんだ。
「ねえお兄ちゃん。さっきから誰と話してるの?」
「なんでもねえよ」
クロは普通のやつには見えないからな。人前で会話するのはこういうとき不都合だ。まあ基本的に一人で行動してるからそういう心配はないんだがな。
やっぱ人付き合いはめんどくさいだけだ。今すぐこいつらに呪いをかけたいところだが、騒ぎになっても結局めんどくさくなるだけだ。
ったく…こんなことになるんなら、あの時このサーヤとかいう女を見殺しにすれば良かったぜ。
最悪クロに俺を掴ませて飛ばせる手もあったんだよな。まあ十中八九断るだろうがな。
「あ!見えてきたよ!あれが私たちの村なの!」
「あっそ」
サーヤは前方に見えてきた村を指差して騒ぐが、別に興味のない俺は適当に返事する。
「ねえ、今日は私の家に泊まらない?」
「俺は急ぎの用がある。お前といつまでも遊んでいるほど暇じゃない」
「ほとんど遊んでなかったがな」
「ちぇー…それじゃあ、また今度遊びに来てね」
「百年経ったら考えてやる」
「ひゃくねん?よくわかんないけど、待ってるね!」
サーヤとその家族は、村に向かって歩き、俺たちと別れる。
「で、呪いの力はまだ先なのか?」
「別に、そこまで遠くでもないな。今から走れば夜中には間に合うかもしれないな」
「じゃあクロ、俺を連れて飛べ」
「ふざけんな」
まるで精霊とは思えない暴言だ。マジでこいつの力がいらなかったら問答無用で殺している。
「仕方ねえな、じゃあさっさと走るぞ」
俺は村を通りすぎて、適度なペースでクロの言う場所に向かった。
休憩を挟みながら進んでいると、いつの間にか辺りは暗くなり、空には星と月が自身の存在を主張している。
「なあ、本当に近くに反応があんのか?」
「まあ落ち着け。もうすぐのはずだ」
もうすぐを何回言ったと思ってんだこいつ。すでに十回は聞いたぞ…
もう今日はここで寝てしまおうかと思っていると、前方に洞窟が見えてきた。
「まさか、この中か?」
「そうみたいだな」
こんなところに呪術者がねえ。一体何のために…
まあそんなものは問い詰めてやればいいだけか。
「じゃあ入るか」
洞窟の中に入っていくと、なんだか肌寒く、居心地の悪い雰囲気だった。
確かに呪力は感じるが、今までとはどこか違う感じがする。
何て言うか、弱い力を無理矢理大きく見せようとしているような、そんな感じが。
「どうしたノロイ。もしかしてビビったか?」
「はっ、誰がビビるか。お前こそ、ビビって逃げ出したら斬ってやるから覚悟しておけ」
互いを煽っていると、突然呪力が大きくなった。
「どうやら、呪術者のお出ましか」
俺は大剣を空間魔法でとり出し、戦闘体勢に入る。
奥からゆっくりと足音が聞こえ、真っ暗な空間から次第に姿が見えるようになる。
そいつは男で、パッと見で野盗だと判断できるようないかつい顔をしていて、服装もボロボロだ。
そして右手には、とてつもない呪力を帯びた刀を持っている。どうやら感じた力の正体はその刀か。
「ノロイ、気を付けろ。あの刀、妖刀だ」
「妖刀?そういえば以前説明してたな。あれって実在したのか」
「行方不明だっただけで、別にこの世からなくなったわけじゃない。それよりあの妖刀、レプリカのようだがお前の力よりは遥かに上だぞ」
ちっ、レプリカに劣るってのは気に入らねえな。そんな刀、へし折ってやるか。
「うう……」
「なんだこいつ?急にうなり声なんてあげて」
「ノロイ、来るぞ!」
クロがそう言った瞬間、野盗が襲いかかってくる。
しかしフォームがめちゃくちゃで、目を閉じていてもかわせるような動きだ。
俺は軽々と野盗の振るう刀を避け、大剣を振り上げる。
「あばよ」
振り上げた大剣を野盗に叩きつけ、体を真っ二つにしてやろうとした。
「!?」
すると呪力によって俺は吹き飛ばされ、壁に激突する。
幸い俺は呪術者であることに加えて特異点でもあるため、呪いには体勢が誰よりも強い。いくら刀の力が俺の呪力を上回っていても、俺を呪うことは出来ない。
「残念だったな。いくらその妖刀が強力でも、俺の前じゃただのナマクラだ」
俺の挑発は野盗には全く響いていないようだ。
そしてまた、野盗は闇雲に妖刀を振るい始める。
「なあクロ。あいつ、なんかおかしくないか?まるでゾンビみたいに生気を感じない」
「そりゃあ呪いに何の抵抗もできない人間が妖刀を握っているんだ。不思議はない」
「……てことは、抵抗できる俺が持てば、呪力が更にはね上がるってことか」
よし、そうとなったら予定変更だ。なにがなんでもその妖刀を手に入れてやる。
「まあそうするのは勝手だが、覚悟はしておけよ」
「へっ、上等だ。やってやるぜ!」