第30話 呪いの力を追って
「ふう、ようやく怪我も回復したな」
魔法世界の人の通らない山小屋で、俺はそう呟いた。
「全く、相手が特異点だったとはいえ駆け出しに負けるとは、ノロイ、お前もまだまだだな」
「何回言うんだよ。いい加減しつけーぞ」
俺を嘲笑しながら見下ろすこの精霊の名前はクロ。俺の特異点の力を導く者らしい。
こいつはこの間、俺がソラとかいう特異点との戦いで負けたことをめちゃくちゃ口にする。はっきり言って鬱陶しい。
「それにしても、あのソラって特異点、厄介だな。近いうちに潰しておいた方がよさそうだ」
「だな。お前、別に実力があるわけでもないし」
「お前は黙ってろ。気が散る」
こいつ、絶対精霊の嫌われ者だろ。こんなやつに友達なんかいるわけがねえ。
「さてと、じゃあどこか村の連中を呪ってやるか。そうすりゃあ向こうから出てくんだろ」
「……ん?」
「どうしたんだよクロ」
「いや、この付近から呪いの力が感じられた。それも、特異点であるお前の力を遥かに越えるな」
「へえ」
特異点の俺より強い呪いか。興味あるな。
「じゃあそこに行ってみようぜ。とっちの方角だ?」
「南だ」
「海しかないんだが」
「だからその海を越えた先にあると言っているんだ」
てことは、船に乗らなくちゃいけないのか。めんどくせえな。
確か港は西の方にあったよな。
「じゃあ港にいくぞ。さっさとしないと呪術者がどっかいっちまうからな」
俺は袋に荷物を纏めると、小屋を出て港に向かった。
無事に船に乗れた俺は、潮風に辺りに外に出ていた。
「暇だな…」
「乗客に呪いをかけたりするなよ?目的地につかなくなるぞ」
「俺がそんな無節操だと思うのか?」
「思うから言ってるんだろ」
「このやろう」
今すぐ真っ二つにしてやろうか。
こいつが異世界を行き来するための手段じゃなければ、とっくに亡き者にしている。こいつが今こうして生きている理由はそういうことだ。
「そんなに暇なら、なんか芸でもやればいいじゃないか」
こいつの考えがもはやわからん。なんなんだこいつは。
「きゃあああああ!?」
「ん?なんだ?」
突然女の悲鳴が聞こえたので、そっちの方へ行ってみる。
すると黒髪を肩より少し下まで伸ばした幼い女が、巨大なザリガニの形をした魔物に襲われていた。
女はこちらを見て、助けてと訴えかける。
だが俺はそんなことより助けが来たと思い込んで安堵してるこいつの絶望がみたいので、このまま放置を…
「おいノロイ、あの女が死んだりすれば、近くの港で医者を探すことになるぞ。そうしたら、目的地に着くまで時間がかかる」
それは面倒だな。この女の絶望は見たいが、それよりも今は巨大な呪いの力を見つけるのが最優先事項だ。
仕方ねえ。こんな魔物、さっさとやっちまうか。
俺は空間魔法で大剣を別空間からとり出し、魔物を真っ二つにする。
魔物は心地いい悲鳴をあげながら霧散し、いなくなる。
俺は武器を別空間に飛ばし、その場から立ち去ろうと振り返ると、この女の悲鳴に釣られてきたのか、他の乗客もやって来た。
「お前!その子に何をした!」
……は?なに言ってんだこいつ。俺はこいつを助けた側だぞ。
「おいみんな!このロリコンを引っ捕らえろ!」
チッ、めんどくせえ。こうなったらまとめてぶっ殺して…
「みんな待って!」
俺が大剣を取り出そうとすると、女が俺たちの間に割り込む。
「この人は、魔物から私を助けてくれたの。だから乱暴したら駄目!」
「……本当なのか?」
「まあな」
一応返事はするが、それでも襲ってきたときのために武器を取り出す準備はしておく。
「そうか、すまなかった。どうやら早とちりをしてしまったようだ」
どうやら穏便に済みそうだ。こちらとしては、スムーズに物事が進むのならなんだって構わない。
「別に気にしてねえよ。目的地につけりゃ、こっちとしては文句はねえ」
俺はそう言ってこの場を立ち去ろうとすると、裾を誰かに引っ張られ、そちらを見る。
さっきの女だ。なんだこいつ、なんか用でもあんのか?
「えっと、助けてくれてありがと、お兄ちゃん」
女はそう言うと、手を離してどこかに行く。
……お礼を言われたのって、いつ以来なんだろうか。
そんな考えを振り払い、俺は目的の港に着いたことを確認する。