第18話 ドラゴンの住む洞窟へ
翌日。
俺はユイやパトと一緒に、ドラゴンの住み処である洞窟の前に来ていた。
「ねえソラ。ヒカリちゃんってどんな戦い方するの?一応知っておきたいんだけど…」
「いや、俺もあいつの戦いを見たことはないから知らないな。知ってるとすれば槍使いってところかな?」
「そうなんだ。てことは、前衛型なのかな」
「そうだと思うぞ。もしくは魔法も使えてどっちでもいけるかだな」
そんな感じで話していると、ヒカリが槍を背負ってやって来た。
「よっ、遅かったな」
「えっ?何でソラが…それに、この人は?」
「私はユイ。今日はヒカリちゃんのドラゴン退治を手伝いにきたんだ」
「ま、そういうことだ」
「えっ?だってソラ、ドラゴンを倒せるわけないって…」
ヒカリは説明を受けても、状況が飲み込めていない様子。
「確かにそう言ったな。だけどよ、協力しないと言った覚えはないぞ?」
「それはそうだけど…でも、相手はドラゴンだよ!?下手したら生きて帰ることも出来ないかもしれない相手だよ!?」
「だからだろ」
「えっ?」
「そんな相手と戦うなんてこと、一人でさせるわけないだろ。お前はもっと誰かに頼ったっていいと思うぞ?」
「…………………」
俺の言葉を聞いて、ヒカリは呆然としている。
しばらくして我に返った彼女は、そっぽを向きながらこう言った。
「あ、ありがとう…二人とも…」
その様子を見た俺とユイは微笑する。
「それじゃあ進もうか。ドラゴンはこの奥にいるんだよね?」
「うん。そのはずだよ」
こうして俺たちは、洞窟内に入っていった。
「結構暑いな…この洞窟…」
結構奥の方まで進んで、俺は思っていたことを口にする。
「そりゃあそうでしょう…ドラゴンは火山にいるのが当たり前なんだよ?そんなドラゴンがこんな洞窟にいるってことは、溶岩が広がっているってことだよ」
マジかよ…
ゲームとかだと薄暗いところにもいるのに、この世界ではそれが常識なのか…
「俺、暑いの苦手なんだけどな…」
「じゃあ戻る?」
ユイがいたずらっ子っぽい口調でそう言った。
「こんなところまで来て、引き返すなんて出来るか」
そう言って、俺は歩くペースを上げる。
「それにしても、魔物がほとんどいないね。どうしてだろう」
ヒカリは辺りをキョロキョロと見渡しながらそう言った。
「そういえば、洞窟に入ってからほとんど魔物を見かけないな…」
「ひょっとして、ドラゴンが食べちゃったんじゃない?」
ユイのやつ、ずいぶんおっかないこと考えるな…
「ていうかそもそもドラゴンが現れたのっていつなんだ?」
「詳しくはわからないけど、一週間前くらいにはすでに噂は出回ってたよ。みんなこのクエストだけはヤバいって言って避けてたなぁ…」
やっぱりドラゴンって、みんな避ける程度には強いんだなぁ…
「ドラゴンに挑んだやつはいないのか?凄腕で自信のある冒険者とかは一度くらいやりあったことはありそうだけど…」
「いるよ。一人だけ」
「誰なんだ?それは」
「アーサー王だよ」
「…………………」
何か聞いたことある名前が聞こえたんだけど…
アーサー王って確か有名なエクスカリバーを持ったあの人だよね?
いや、ただ名前が同じってこともあるし…
「アーサー王は聖剣と呼ばれるエクスカリバーを手にドラゴンと戦ったんだけど、結局倒すことは出来なかったんだって。まあ大昔のことで、本当にそんなことがあったのかはわからないけど…でも、私たちが力を合わせれば、きっと大丈夫だよ!ねっ、ソラ!」
ユイは無邪気にそんなことを言ってくる。
やべえ…めっちゃ帰りたい…
聖剣使って倒せない相手にどうやって戦えと言うんだよ…
でもここでドラゴンを倒さないと、ヒカリが色々困るわけで…
「どうしたの?何か顔色悪いけど…」
「いや、大丈夫だ…心配するなユイ」
「そう?体調悪いのなら言ってね?」
ああもう!こうなったらやってやるよ!
俺は腹をくくり、突き進んでいると溶岩で明るく照らされている広い場所に出た。
「もしかして、あそこにいるのがドラゴンかな?」
「ああ…間違いないだろうな」
中心には翼を持ったドラゴンがいた。
「よし。じゃあ行こう!」
「お、おい!ちょっと待て!」
ヒカリは意を決してドラゴンに向かって走り出す。
それを俺は静止の声を出しながら追いかける。
ドラゴンはこちらに気づき、息を大きく吸った。
そして、吐き出した炎がヒカリを襲った。
「!?」
「くそ!『コールド』!」
俺は昨晩ユイに教わった氷の魔法、『コールド』をヒカリの前に出て、炎に向けて撃ち込んだ。
しかしドラゴンの炎はとんでもない火力で、どんどん押し返されていく。
「『アイシクルウォール』!」
そんなとき、ヒカリの魔法で地中から氷の壁が現れる。
氷の壁が炎で溶かされる瞬間に、俺たちは左右に飛んで、直撃を免れる。
「二人とも大丈夫!?」
ユイがこちらに駆け寄ってきた。
「ああ、大丈夫だ…それにしても、これはかなり骨が折れそうだぞ…」
こりゃあ全魔力で『コールド』をぶつけても無理かな…
「それでも、やるしかない…行くよ!ドラゴン!」
ヒカリはドラゴンに駆け寄り、槍を突き出す。
しかし、鋼鉄同士がぶつかったかのような音が響き渡り、槍はドラゴンの皮膚を貫くことは出来なかった。
ドラゴンは腕を上げて、素早くヒカリ目掛けて降り下ろす。
「きゃあ!」
「ヒカリちゃん!」
ヒカリは思いきり吹き飛ばされ、壁に激突する。
「う…」
ヒカリは体を動かせずに腕を抑えていた。
「ユイ!ヒカリに回復魔法を!俺はこいつを食い止める!」
「わ、わかった!」
ユイがヒカリのもとに走る様子を、ドラゴンはじっと見つめ、息を吸い込んだ。
こいつ!また炎を吐く気か!
「させるか!『サンダーボルト』!」
「ぐおおおおおお…!」
俺の放った電撃はドラゴンの目に直撃し、弱々しく吠えた。
そしてドラゴンはうなり声をあげながらこちらを睨む。
はは…こうして対峙すると、ドラゴンっておっかないな…
だけど、ヒカリの手当てが済むまでの辛抱だ。
俺は剣を抜き、戦闘体勢をとる。
「こいよ…お前の相手はこの俺だ!」
その声と同時に、ドラゴンの腕が降り下ろされた。
俺はそれをかわし、相手に駆け寄る。
ギルドの情報によると、鱗の部分にはダメージをほとんど与えられない。
なら、鱗のない部分を狙う!
俺はドラゴンの喉を斬り裂き、ドラゴンは血を出して吠える。
やっぱり、鱗のない部分なら剣での攻撃も通る!
俺は追撃にもう一撃食らわせようとしたが、ドラゴンは飛び立ち、剣の攻撃範囲から離れてしまう。
そして攻撃の届かない安全な場所から、ドラゴンは炎を吐き出す。
「くそ!こんなのありかよ!」
俺は走り出し、直撃は何とか免れる。
「ぐう!」
が、余波に巻き込まれ、吹き飛ばされてしまう。
倒れていると、地面が体と密着して熱い…結構な体力を奪われる…
俺はこれ以上体力を失わないうちに立ち上がり、視線を空を飛んでいるドラゴンに向ける。
このままだと、ドラゴンにこちらの攻撃を当てることが出来ない…
だったら、撃ち落としてやる!
「『サンダーボルト』!」
俺が放った電撃は、ドラゴンに直撃し、墜落する。
よし!これで後は、こいつに『コールド』をぶつければ!
そう思っていた俺に、ドラゴンは炎を吐き出した。
「なっ!?があぁ!」
炎をまともに食らい、吹き飛ばされた俺は意識がもうろうとしてきた…
やば…力が…はいんね…
何…やってんだ…俺が…倒れたら…次は…二人が…
俺は立ち上がろうとする意思を持ちながら、意識が途切れた。