第16話 ヒカリの謝罪
翌日。
呪いが解け、目を覚ましたヒカリが『お礼をしたいから、明日家に来て』と言われたので、今俺はヒカリの家の前にいる。
俺が扉をノックすると、『入っていいよ』とヒカリが返したので、俺は扉を開ける。
そこには、ベットに腰をかけたヒカリがいた。
「いらっしゃい。適当なところに座っていいよ」
俺は、今まで寝込んでいたヒカリの父さんがいないことを除けばいつもと変わらないヒカリの部屋の床に座る。
「昨日はありがとね。呪いを解いてくれて」
「俺は当然のことをしただけさ。それにお前だって色々手伝ってくれてたろ?」
「でも、結局私も倒れちゃったんだし、やっぱりお礼は言いたいなって思ったんだ。だから、本当にありがとう」
ヒカリの頭を下げながらお礼をしている様子を見て、俺は照れ臭くなりながら言った。
「あ、ああ…どういたしまして…」
俺は頬を人差し指でポリポリとかく。
「そういえば、お前の父さんはどこに行ったんだ?」
「ああ。父さんなら体を動かしに出かけたよ。しばらく寝たきりだったから体力的に厳しいんだって」
ああ…それは御愁傷様です…
「ていうか、お前の父さんはいつから呪いにかかってたんだ?体力が衰えるほどって相当じゃないか?」
「えっと…確か二週間前かな?」
「二週間?それくらいで体力が衰えるのか?」
「まあ父さんはそろそろ年だし、そんなもんじゃないかな?」
そんなもんなのか…
ヒカリの父さん、大丈夫だろうか…
「まあ、体力作りは他人が協力してもあまり効果はないし、私たちは見守ってあげようか」
と、若干楽しそうにヒカリは言った。
こいつ、ちょっと楽しんでないか?
「まったく…父さんもお前と話せなくて寂しかったんだろうし、あんまり意地悪しないでやれよ」
「それは私だって同じだもん…」
俺の言葉に、ヒカリは口を尖らせて言った。
「私だって寂しかったもん…父さんと会えなくて…だから、ちょっとくらいいじったってばちは当たらないよ」
そうだよな…
こいつも、父さんと話せなくて大変だったんだよな。
それこそ、悪事に手を染めるほどに…
俺は立ち上がり、ヒカリの元へ歩み寄る。
「まあ、お前はよく頑張ったと思うぞ?これまで一人で頑張ったんだもんな」
そして、ヒカリの頭に手をポンッと乗せる。
が、ヒカリはその手をパッと払い、立ち上がる。
「子供扱いはやめてよね。これからは仲間として対等の立場で一緒にいるわけだし」
「はっ?仲間?」
俺がどういう意味だと尋ねると、ヒカリは高らかにこう言った。
「これから私とあなたは、一緒にクエストをこなしていくのよ!」
「いやまて!何でそんなこと勝手に決めてんだ!」
「いいじゃない。どうせパーティーメンバーもいないんでしょ?」
「いるわ!一人だけだけどちゃんといるわ!」
「嘘!?私のイメージだと、あなたは基本的に一人のはずなのに…」
「命の恩人にずいぶんと失礼な言い草じゃねえか!」
何で勝手にぼっちの括りに入れてんだよ!
俺はそんなに孤独なやつに見えるのか…?
「まあ、別にいいでしょ?パーティーを組める人は多いに越したことはないんだし」
「まあ、確かにそうだな」
「よし!それじゃ決まり!これからもよろしくね、ソラ!」
「ああ、よろしく」
ヒカリは右手を前に出し、俺はそれを掴み、握手する。
正式にヒカリがパーティーメンバーに加わったところで、俺は今ギルドに来ていた。
そこには今までヒカリのライブを見に来ていたファンたちも来ていた。
そのファンの中には当然ユイも入っている。
どうやら悪事のけじめは今日つけるとのことらしい。
心の準備が出来るまでは待っているつもりだったのだが、ここまで早いとは思わなかった。
ちなみにファンには、重大発表があるとだけ伝わっているため、ざわざわしている。
どうやら、ヒカリが引退するのではと不安になっているファンが多いようだ。
中には天に祈るようにしているやつもいた。
どんな魔法使ったらここまで 廃人みたいになるんだよ…
今日ほど自分が特異点でよかったと思ったことはないぞ。
しばらく待っていると、ヒカリがステージに上がった。
それを見たファンたちは一斉に静まり、ヒカリに視線が集まる。
そんな中、ヒカリは頭を深く下げる。
「ごめんなさい!私は今まで、みんなを騙していました!」
ヒカリの謝罪の意味がわからず、ファンたちはざわつく。
当然だろう。いきなりそんなこと言われても、事情を知らないファンたちにはわけがわからない。
そんなファンたちに、ヒカリが頭を下げたまま説明する。
「私の父は、正体不明の病にかかってたんです。それで、手術にはお金が必要で、でもどうしてもお金が足りなくて…それで、みなさんから不正な方法でお金を出してもらってました!」
ヒカリの説明を聞いてもなお、信じられない様子のファンたち。
「私がやったことは、どれだけ謝っても許されるものじゃありません。ですが、一度みなさんに謝らないといけないと思って、この場を設けました。みなさん、本当にごめんなさい!」
ヒカリの謝罪の直後、会場は一瞬静まり返り、そして…
「ふざけんな!俺たちを騙してただと!?」
「一体お前にいくら払ったと思ってんだ!」
「俺たちの想いを踏みにじりやがったな!絶対に許さねえぞ!」
俺が予想していた通りに、暴動が起きた。
当然だろう。ヒカリが要求して払わせてきた額は相当なものだ。
誰がどう考えても、こうなるのは当たり前だと言うだろう。
こうなるとわかっていたから、俺はこの謝罪会見に顔を出したのだ。
ヒカリだけの言葉では、納得する者は現れないだろう。
だったら、効果があるかはわからないが、俺もステージに上がって説得してみようと考えていた。
だが、ステージの一番前の少女の一言で、周りは静まり返る。
「ねえ、どうして謝ろうと思ったの?」
「えっ?」
「だって、黙ってたらこんなに怒られなくて済んだのに、どうして謝ろうと思ったの?」
少女の質問は正論だった。
黙っていればバレないかもしれない。
それなのにヒカリは罪を告白した。
周りの大人たちは、目の前の騙された事実しか見なかったが、あの子はヒカリの心を理解しようとしてくれているんだ。
ヒカリは、少女の質問に答える。
「正直言うと、今回のことを告白するか、悩んでいました」
ちょっと待て。
あいつ、俺と会った日にちゃんと謝るって言ったよな?
「ですが、今回の件に協力してくれた人がいたんです。その人は、ボロボロの状態で戻ってきて、私に一言こう言ったんです…『終わったよ』って…」
……気のせいか?今ユイと目が合ったような…
「そんな彼の姿を見て、こんなんじゃ駄目だって思ったんです。ちゃんと私もけじめをつけなきゃって…だから私は、こうやってみなさんに謝罪しようと思ったんです」
ヒカリの言葉の後に、ギルドの店員が一枚の紙を持ってステージに上がる。
「えー、みなさん!ヒカリさんの想いは聞いたと思います!ですが、ファンとしてはこのままでは気持ちが収まらないのも事実でしょう!そこで、みなさんに提案があります!」
店員は、ヒカリの方を向いてこう言った。
「ヒカリさんは確か、世界をまたにかける冒険者だと言ってましたよね?ですので、今まで消化されずに放置されていたクエストをこなしてくれれば、ヒカリさんの想いを認めると言うのでどうでしょう!」
あっ、なんか嫌な予感がするぞ…
「でもよ、そのクエストってどんな内容なんだ?」
「よくぞ聞いてくれました!そのクエスト内容は…」
店員は、紙を前に突き出して言った。
「そのクエストは、ドラゴン討伐です!」
内容を聞いた瞬間、ヒカリは顔を青くして固まった…