第14話 呪術者との対決
午後七時。
科学世界の自分の部屋に戻ってきた俺は、机の上に置いてあるスマホを手に取り、今朝ニュースでやっていた、人が倒れる現象について調べた。
「おい天。一体何をしてるんだ?」
「昨晩、こっちの世界でも人が大勢倒れたそうなんだ。だから、それがどの辺りか調べてるんだ」
場所は…この家の近くじゃないか!
他の場所では、倒れた人はいないらしいな。
てことは、この近くに呪術者がいる…
俺は部屋を出て、階段をかけ下りて玄関を開けた。
玄関を開けた先には、俺と同じ学校の制服を着た、銀髪の女子が仰向けで倒れていた。
「大丈夫か!」
体を起き上がらせると、女の子の顔が見えた。
その娘の顔は、どこかヒカリと似ていた。
「こいつもしかして、ヒカリの魂共有体か?」
だとすれば、呪術者はこの近くに…
「天!上だ!」
「!?」
パトの声が聞こえたと同時に、俺は女の子を抱えて、家の中に滑り込んだ。
その直後、黒い光が先ほどまで俺たちがいたところを撃ち抜く。
俺が外に出て、上を見ると、俺の家の屋根に月の光で顔まではわからないが、人影が見えた。
その人影は屋根から飛び降り、道路に着地し、照明がそいつを照らす。
そいつは三十くらいの男で、長い髪の銀髪で赤い瞳をしていた。
それに加えて細い体をしていたので、一瞬女と見間違えてしまう。
「君か…この世界の特異点と言うのは…」
銀髪の男はそう言った。
それに対して俺は少々喧嘩腰の態度でこう言った。
「だったらどうした?」
「いや、ただの確認さ。まさか、こんなガキが特異点だとは思わなかった…」
ガキと言う単語にはイラッときたが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
「お前か?最近この世界の人間を呪ってるやつは」
「そうだ。もう少し時間がかかると思ったが、以外と早く気づいたようだな。科学世界に呪術者がいることに」
そう言って、銀髪の男はニヤリと笑う。
「せっかくだから自己紹介をしておこう。俺はノロイ。魔法世界の住民さ」
魔法世界の住民だと?
「なに言ってんだ?お前が魔法世界の住民だって言うなら、何でお前はここにいる?」
「気づかないか?なぜ俺が二つの世界の存在や、特異点の存在を知っていたか…」
「お前…まさか…」
「そう。俺はお前と同じ、特異点という存在なのさ」
俺以外に…特異点が…
ノロイの言葉に、パトが反応する。
「馬鹿な!特異点は一人だけのはずだ!お前が特異点のはずは…!」
「俺がお前を目視出来てることが、何よりの証拠じゃないか?精霊さんよ」
「ほ、本当に見えて…」
ノロイの言動に衝撃を受けたパトは、これ以上言葉にすることは出来なかった。
「俺が特異点の理由はわからねえが、こいつは便利な力だ。これがあれば、法に触れずに人を殺し放題だ」
……殺し放題だと?
「お前、何で人を殺したいんだ?」
俺は怒りを覚えながら、そう尋ねた。
「何でって、楽しいからに決まってるだろ?それ以外にあるか?」
「お前!」
今の言動に完全にブチキレた俺は、腰に差した剣を抜いて、ノロイに斬りかかる。
それを見たノロイは、何もないところから現れた大剣を掴み、俺の一撃を受け止める。
「なっ!?何もないところから剣を!」
「知らないのか?空間魔法で仕舞っていた剣を取り出しただけさ…そんなことも知らないとは、まさか冒険者なりたてか?」
「そんなの…知るか!」
俺は力でノロイを吹き飛ばす。
「どうやら図星みたいだな。そんな素人が俺と戦うとは…命知らずだな」
「命なんか知るか!俺は、お前を倒して、みんなの呪いを解く!『サンダーボルト』!」
「何!?」
俺の電撃は、驚いていたノロイに直撃した。
しかし、やつは平然と立っていた。
「くそ…効かないか…」
「ふん。魔法を使えるのは想定外だったが…魔法抵抗力の高い俺にそんな一撃が通じると思うな」
そうか…こいつは俺と同じ特異点。
こいつも魔法抵抗力は人一倍持ってるのか…
だから他のやつに比べると魔法が効きにくいってことか…
「では、次はこちらの番だ!」
ノロイは大剣を手に持ち、俺に駆け寄る。
俺が後ろに跳んで攻撃をかわす構えをとったとき…
「『グラビティ』」
「ぐっ!?」
ノロイが一言呟いた瞬間、体に重りが巻かれるかのように重くなった。
そんな俺に、ノロイは大剣を大きく振りかぶり、横に振るった。
「ガハッ…!」
「天!」
体が重くなり、かわすことの出来なくなった俺は、剣を盾にして攻撃を防ごうとするが、衝撃に耐えられずに吹き飛ばされ、家の壁に激突する。
その瞬間、体が軽くなったのを感じる。
魔法の効力が解けたのだろう。
壁は凹み、あばらも数本折れた俺に、ノロイは大剣を俺に向ける。
「哀れだなぁ…変な正義感で俺の前に立たなければ、この場で死ぬこともなかっただろうに…」
ノロイの言葉には、同情めいたものを感じた。
「なあ、俺と一緒に世界をめちゃくちゃにしないか?こんな腐った世界を、俺たちで変えてやらないか?」
「駄目だ天!耳を貸すな!」
………………
「そんなの…聞かれる前から答えは決まってるさ…」
俺は剣を地面に刺し、それを支えに立ち上がる。
「お前が世界に何を不満に持ってるかは知らない…だけどな…科学世界も魔法世界も、俺にとっては大事な世界なんだよ…だからな…お前の野望は、絶対に阻止してやるさ…!」
「……残念だよ。君ほどの力があれば、私の力になれたのに…」
「あいにく、俺は世界を滅ぼす趣味はないからな…」
「ならば、ここで死んでもらうぞ!『グラビティ』!」
「くそ!またか!」
再び体が重くなり、ノロイが俺に斬りかかる。
だけど、そう何度も同じ手にかかってたまるか!
「『サンダーボルト』!」
「くう!?」
電撃がノロイに直撃し、怯んだ瞬間に俺の体が軽くなる。
やっぱり、魔法抵抗力が高いと言っても、同じ特異点である俺の魔法を全く効かないというわけではない。
それで集中を切らすことが出来れば、魔法も解けると思ったが予想通りだ。
俺はお返しとばかりにノロイに斬りかかる。
そんな俺の様子を目視したか、ノロイは大剣を前に出して攻撃を防御する。
「『ダークランス』!」
「くっ!?」
ノロイの叫びとともに、俺の足元から闇の渦が現れ、そこから闇の槍が飛び出してくる。
その隙を狙っていたとばかりに、俺の懐に潜り込んでいたノロイは、大剣を振り上げる。
「ぐあ!」
剣で直撃は防いだが、衝撃によって屋根まで吹き飛ばされ、倒れる。
ノロイは一跳びで屋根を飛び越え、大剣を振りかぶる。
ノロイの軌道を見る限り、落下地点は俺のいる場所だろう。
このままではかわせずにやつの攻撃をもろにくらうことになる…
……こうなったら、一か八かだ。
俺は全身の魔力を高める。
この一撃が決まらなかったら、俺の負けだろう。
だけど、持久戦に持ち込んでも勝ち目はほとんどない…
だったら、この一撃に全てをかける!
「死ねええええええ!」
「死ぬのは、お前だあああ!」
俺は全ての魔力を振り絞り、屋根を蹴り、ノロイのところまで跳んだ。
その早さは光に近いもので、一瞬でノロイの懐まで潜り込めた。
「なっ!?」
「これで…」
俺は拳を思いきり握り締め…
「終わりだあああああ!」
雄叫びとともにノロイの腹に拳を撃ち込んだ。