表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二つの世界を行ったり来たり  作者: リュミエール
2章 もうひとつの存在
14/38

第13話 呪術者の行方

 翌日。

 俺は科学世界の自宅で目覚めた。

 時計を見ると、時刻は八時近くだった。

 リビングに顔を出すと、両親はすでに仕事に行っていて、テーブルの上にはトーストと目玉焼きが置かれていた。

 俺は椅子に座り、トーストを口に運ぶ。

 そしてテーブルの上に置いてあったリモコンでテレビの電源をつけると、ニュース番組が画面に映った。

 ニュースは興味がないので、チャンネルを変えようとしたそのとき、気になるものが報道されていた。

『最近、正体不明の病で倒れる人が急増しております。みなさん、体調管理は気を付けてください』

 正体不明の病…

 呪いじゃないかと考えたが、それはないか。

 昨日は魔法世界で呪いにかかって倒れる人がいたわけでもないし、だとしたら科学世界で呪いにかかることはないはずだ。

 俺は箸で目玉焼きを一口サイズに切り分け、口に運ぶ。

 父さんも母さんも、今日は同期の人と飲みに行くって言ってたし、今日は遅くまで向こうで調査出来るだろう。

 俺は朝飯を食べ終えると、食器を台所に持っていき、水を入れる。

 俺はテレビの電源を消して、魔法世界に向かった。

 

 

 

「昨日は堂々と見張っていたから来なかったと思うのよ」

 俺がヒカリの家に来ると、ヒカリはいきなりそんなことを言い出した。

「どうしたんだよ、いきなり?」

「昨日呪術者が来なかった理由を考えたんだけどね。あれは私たちが家の外で見張ってたでしょう?だから呪術者は現れなかったんじゃないかって思ったの」

「なるほど、ありえない話じゃないよな…ただ、俺の意見も聞いてもらっていいか?」

「何?」

「呪術者の目的は、別にあったんじゃないかって思ったんだよ。例えば、最近呪術を身につけて、その効力を試してみたいっていう、実験みたいな理由でお前の父さんを呪ったんだとしたら…」

 俺の言いたいことを理解したのか、ヒカリの顔が青ざめる。

「もう近くに、呪術者はいない?」

「そういうことだ」

「じゃあどうすれば!」

 ヒカリは俺の両肩をいきなり掴んで、揺らしてくる。

「お、落ち着け…まだそうと決まったわけじゃない。とりあえずお前はこの家で父さんを見守ってろ。俺はギルドで情報を集めてくる」

「う、うん。わかった…」

 ヒカリが俺の肩から手を離し、俺はギルドに向かった。

 

 

 

 ギルドにやって来た俺は、何だかいつもより活気がないことに気づく。

「やっほーソラ。今日も元気?」

 背後から声をかけられたので、振り向いてみると、そこにいたのはユイだった。

「おう、俺は元気だぞ。ただ、今日はやけにギルドの活気が…」

「あれ、知らないの?昨晩、たくさんの人が突然ですが倒れたって…」

「えっ?」

 ユイの言葉に、俺は全身から冷や汗を流す。

「なあ、倒れた原因はわかってるのか?」

「いや、わからないけど…」

「じゃあ、どこにいた連中が倒れたんだ?」

「結構バラバラだったよ。近くの洞窟に潜ってる人とか、村にいる人とか…」

 バラバラ?

 となると、そいつらは呪いとは無関係なのか?

 そんな微かな希望を見いだした俺は、次の光景を見て絶望する。

「すみません、どいてください!また倒れている人を発見しました!」

 ギルドの人たちは、タンカを使って男を運んできた。

 その男からは、ヒカリの父さんと同じ感覚がした。

 おそらく、昨晩たくさんの人が倒れた原因は、呪いだろう。

 そして、科学世界で人が正体不明の病で倒れた原因…タイミングを考えると、呪いであることは間違いなかった。

 でも、どうしてバラバラなんだ?

「おそらく、複数犯なんじゃないかな?」

「複数犯?」

 俺が考えてる時に、パトはそう言った。

「複数なら、バラバラで呪いをかけることも可能だからね。これくらいしか考えられないと思う」

「そうだな…」

「ねえ、さっきから誰と話してるの?」

 パトと話をしている俺に、ユイはそう言った。

 本来パトは、俺にしか見えない。

 なので、パトと話しているときの俺は、完全に痛いやつに見える。

「いや、ただの一人言だ。気にしないでくれ」

「う、うん…わかった…」

 ユイのやつ、口ではわかったと言っておきながら、若干引いている。

 くそ、どうして俺がこんな扱いを受けなければならないのか。

 そんな感じで落ち込んでる俺の耳に、話し声が飛んできた。

「それにしても、突然倒れたからビックリしたよな…」

「ああ。なんの脈絡もなく倒れるなんて、いったいどうなってんだ…」

 倒れた?突然?脈絡もなく?

 おかしい。

 ユイが呪われたときは、倒れるまでいくのに時間がかかった。

 それなのに、今のやつらの言い方だと、倒れるまでは何もなかったかのような感じだった。

「なあパト。呪いの進行度って人によって違ったりするか?」

「突然だね。呪いのかけ方には二種類あって、一つは媒体を使ってゆっくり呪いを進めていくタイプ。科学世界で言う藁人形みたいなものだね。そしてもう一つは、力を直接相手にぶつけて直接呪うタイプだ」

「なるほど。そういえば、前に呪いは魔法と変わらないって言ってたよな。てことは、魔法に抵抗があるやつほど、呪いの進行が遅くなるってことだよな?」

「そうだね。天が呪いが効かないのと同じ理論だね」

 となると、呪術者は直接相手を呪うタイプってことだ。

 だが、どうして呪術者はこんなことをする?

 たくさんの人を呪うことに、何か意味があるのか?

 とりあえず、今得た情報をヒカリにも話してこよう。

「悪いユイ。ちょっと寄るとこあるから、今日もクエストは別のやつと頼む!」

「うん、わかったよ…」

 俺はギルドを出て、ヒカリの家に向かった。

 ちなみに、そのときのユイの目は、何か気を使っているように見えた。

 

 

 

 ヒカリの家にやって来た俺は、ギルドで得た情報をヒカリに伝えた。

「相手が複数の可能性…それに、呪いの被害が拡大してるなんて…」

「ああ…一刻も早く呪術者を倒さないと、お前の父さんだけじゃなく、多くの人の命が危ない」

「そんな…」

 俺の言葉を聞いて、ヒカリは体を震わせる。

 ……ちょっと言い方キツすぎたかな?

 俺はヒカリの頭に手を優しく乗せて、こう言った。

「安心しろ。お前の父さんも、他の連中も、絶対助けてやっから!」

「……出来るの?」

「やってやるさ。なんてったって、呪術者のバンジーといい勝負したんだぞ?だから、信じろ」

 俺の言葉を聞いたヒカリは、優しい笑みを浮かべて…

「ありがとう」

 どうやらヒカリに元気が戻ったようだ。

 ヒカリが元気になったところで、今の現状を打破する方法を話し合おうとしたそのとき。

「!!…ぐう!」

 ヒカリが自分の左胸を思いきり掴んで、苦しみ出す。

「お、おい!ヒカリ!どうした!?」

「ぐっ!があ!」

 ヒカリはしばらく苦しんだ後に、動かなくなった。

 幸い、気絶しているだけのようだが、今のはまさか…

「呪い、だね」

「でも、ヒカリに呪いを打ち込まれる様子はなかったぞ!?」

「それが謎なんだ。呪術者は一体どこから呪いをこんなに早く…」

 今のはどう見ても、呪いを直接ぶつけるタイプだった。

 だが、家の周囲には人の気配はない。

 じゃあ、一体どこから…

 落ち着け…情報を整理するんだ。

 昨晩呪いにかかったやつらは、場所がバラバラだった。

 呪われたやつらは、なんの脈絡もなく突然倒れた。

 相手は力を直接ぶつけるタイプで呪ってる。

 だけど、ヒカリを呪ったとき、周りには誰もいなかった。

 くそ!なにか、なにか見落としてることはないか!

 ……そういえば。

 唯は直接呪いにかかったわけじゃないのに、あいつは呪いの進行が進んでた。

 それは確か、世界の歪みを小さくするために、魂共有体である二人の状態を同じにするため。

 だからユイが呪われたとき、魂共有体である唯も呪われた。

 だけど今回の事件は、逆だったとしたら?

 もしも科学世界に呪術者がいたら?

 魔法に抵抗があるやつほど、呪いの進行が遅くなる。

 だが、魔法を使わない科学世界の人間に、魔法に抵抗する力はない。

 そんなやつらが呪いにかかり、この世界のルールで魔法世界のやつらが呪われているのだとしたら?

 俺の考えは、ただの推論だ。

 だけど、可能性はあると思う。

「パト!俺を科学世界に飛ばせ!」

「ど、どうしたのさ、急に…」

「説明は後だ!早くしてくれ!」

「わ、わかった」

 パトは世界を渡るゲートを開き、俺たちはそこに飛び込んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ