第10話 厄介な不良
三週間後。
俺は、怪我が普通に生活できる程度は回復したので、一度科学世界に帰ることにした。
帰ってみると、俺が想像していた以上の事態に陥っていた。
どうやら両親は、警察に捜索届けを出していたらしく、リビングに顔を出したとき、全員が目を丸くしてこちらを見ていた。
その後は警察に事情聴取を受けて、家に帰ると両親に怒られるといった、散々な目にあった。
両親には一ヶ月の間、外出禁止を言い渡され、学校以外の理由で家から出れなくなってしまった。
まあまだ体は完治したわけではないので、療養だと思って言うことを聞くことにした。
ただ、魔法世界で戦っていると、こういった状況に陥る可能性は低くないだろう。
そうなったとき、どうすればいいかを考えた方がいいかもしれないな…
そう思ってパトと話していたが、一番現実的なのは、魔法世界で暮らすことだ。
呪術は科学世界では失われた力で、しかも二つの世界を行き来できるのは特異点である俺だけなら、一番歪みの原因となる呪術が使えるやつらのいる魔法世界に滞在するのが一番とパトは言った。
だが科学世界には、俺を心配してくれる人がいる。
両親はもちろんのこと、唯も俺が発見されたと聞いて、家まで駆けつけて来てくれたほどには心配してくれていた。
それなのに、魔法世界に移住しようというのは、あまりにも恩知らず過ぎると思った。
そこで、俺はあるアイデアを提案した。
それは、俺が強くなることだ。
強くなれば、重症を負って科学世界に戻れなくなることもなくなる。
長い道のりではあるが、それが一番いいということで、しばらくはこういう方針で行くことにした。
まあ、一ヶ月経つまでは我慢しなければならないが。
だが、その間に俺は、また面倒な事件に巻き込まれることになる…
俺が科学世界に帰ってきて二週間後。
俺が行方不明だったという話題が落ち着き、今まで質問責めをしてきた連中も、ようやく離れていった頃だった。
「やっほー。おはよー、天」
「おう。おはよう、唯」
登校中の俺に、背後から唯が挨拶をしてきた。
どうやら呪いはちゃんと解けたらしく、以前の元気な唯が戻ってきてホッとした。
「ねえ、天。あんた最近、イキイキしてきたんじゃない?」
「そうか?」
「うん。いつもは退屈そうなのに、今だとそんな感じしないもん」
「あー、そうかもな。最近はかなり刺激的な日々を過ごしたし…」
「ハッ!それってまさか、魔法の研究とか、そういう中二方向の…」
「違うって言ってんだろ!」
あのメモを見られて以来、俺は唯に中二病だと勘違いされている。
何とかして誤解を解きたいのだが、なかなかうまくいかない。
ちなみに後で調べてみると、アニメ部はうちの学校に存在した。
どうやらあの時、唯は俺にカマをかけたようだ。
まんまとやられた…あの時、部活は存在するとごり押ししていればこんなことにはならなかったのに…
「まあ、天が中二病になっても、友達をやめるつもりはないから安心していいよ」
「……嬉しい一言だが、今は見守る優しさよりも信じてくれる優しさがほしいな」
そんなたわいのない話をしながら、俺たちは学校に到着した。
昼休みの時間、俺はアイドルが隣のクラスにいると騒ぎになっていたことを思い出し、そのアイドルを一目見ようと教室を出た。
だが、教室を覗いても、それらしい生徒は見つからない。
俺は近くにいた女生徒に話を聞いてみた。
「ああ、橘さんなら最近忙しくて休んでるわよ?」
「そっか…ありがとな、教えてくれて」
いないのならば仕方がない。
俺は自分の教室に戻り、昼飯を食べることにした。
そうしたら、俺の席の周りで女子のグループが昼飯を食べていて、俺の椅子も使われていた。
仕方ないので屋上で食べようと鞄から弁当を取り出そうとしたとき。
「ちょっとあんた!何私のスカートの中見てんのよ!」
「うわ!なにあいつサイテー!」
周りに聞こえるようにわざとらしく大きな声でそんなことを言ってきた。
「何言ってんだ?俺は弁当を取りに来ただけだ」
「言い訳なんて見苦しいわよ!慰謝料として五万円払いなさいよ!」
被害者ぶっている女がそう言うと、その取り巻きも『そーだそーだ』と言ってきた。
……こいつら、最初っから狙って俺の席で待ち伏せてたのか。
周りが目をそらしてるのを見ると、おそらくいつもこうやって他のやつから金を巻き上げてるのだろう。
たく、下らねーことしやがるな…
とりあえず俺はこいつらを無視して屋上に行くことにした。
「おい、調子に乗んなよ?いいから五万円払えっていってるんだよ」
「あんたこの状況わかってないの?スカート覗いた疑惑を持たれてるあんたより、被害者のあたしたちのが圧倒的に有利なんだよ…それを金出せば許してやるって言ってんだよ」
被害者ぶっていた女は、俺の手首を掴んで、取り巻きとともに脅し始めた。
俺は身体中の魔力を高め、微弱な電気を全身に流した。
「イタッ!何今の?静電気?」
俺の手首を掴んでいた女は、痛みが身体を襲うと同時に手を離す。
自由になった俺は、屋上に向けて歩き出す。
「くそ…いいから金寄越せっつってんだろ!」
女は言うことを聞かない俺に痺れをきらし、俺のズボンの後ろのポケットに入った財布に手を伸ばす。
俺はそれをかわし、女の足を引っ掻ける。
足を引っ掻けられた女は、勢いで盛大に転ぶ。
「くそ…覚えてろよ。先公に言いつけて、テメーなんざ終わりなんだからな!行くぞ、あんたたち!」
「う、うん!」
そう言って女たちは、教室から出ていった。
ようやく面倒くさいやつらがいなくなったので、俺は自分の席に座り、昼飯を食べた。
放課後。
俺は職員室に呼び出されていた。
どうやら本当に女たちは、昼休みのことを先生に話したらしく、それで俺は担任に話を聞き出されていた。
「じゃあお前は、本当にやってないと主張するんだな?」
「はい。こいつらの言ってることは金を巻き上げるためのでっち上げです」
「んだとテメエ!あんなやらしい目でスカートの中見たくせに、そんな言い訳通ると思ってんのか!」
こいつうるさい…『サンダーボルト』食らわせてやろうか?
「巻き上げが目的じゃないならただの自意識過剰なだけだろ?どんだけ自分に自信あんだよ、このバカは」
「テメエ上等だ表出ろ!」
「お前ら喧嘩はやめろ!」
一触即発の雰囲気の俺たちを、先生がとめる。
「それにお前、今回のようなこといつもやってたんだろ?やり過ぎるとでっち上げてんのバレるぞ?」
「なっ!?テメエ最近学校に来てなかったくせに、何でそんなこと言い切れんだよ!」
「周りの反応見てたらすぐにわかるわ。どうせ周りを脅して、自分の意見を通るようにしてたんだろ?」
「なっ!?そ、そんなわけねえだろ!」
今、ギクッてしたな。
どうやら俺の予想は正しかったみたいだな。
さて、後はどうやって口を滑らせるかだが…
「そんなに疑うなら教室の連中に聞いてみろよ!」
「そんなこと言ったって無駄だろ。脅してたなら、その事を隠すことまでさせるだろ?それじゃあ意味がない」
「くっ!?」
この女、だいぶ追い詰められた感じだな。
よし、後一押しだな。
「二人とも落ち着け。藤田は確かに今回のことは入学してから頻繁に巻き込まれていたが、だからと言ってでっち上げと決めつけるのは早計だ。それでだ…よって、今後の二人の態度で見極めたいと思う」
「どういうことですか?」
「二人が怪しい行動をとっていないか監視して、どちらが本当のことを言っているか決めるんだ」
今この先生、監視って言ったか?
「じょ、冗談じゃない!私はスカートの中を見られてんだ!今すぐ金出してもらわなくちゃ気がすまねえ!」
この女…何を言い出すかと思ったら、まだそんなこと言ってんのか…
「さっさと金払いやがれ!そうすりゃお互い楽になれんだよ!」
そう言って藤田は、俺の財布を取り上げようと襲いかかる。
その行動は予想しておらず、俺は思わず…
拳を前に出してカウンターを決めてしまった…
これにより、俺は二週間の停学処分となった。