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二つの世界を行ったり来たり  作者: リュミエール
1章 幼馴染の危機
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第9話 これからの課題

 バンジーとの戦いを終えた後、俺はギルドの医務室に運ばれた。

 全治までは三週間かかるとのことで、それまではずっと魔法世界に居座ることになった。

 おそらく両親には心配をかけるだろうが、まともに歩くことも出来ない状態で会っても、余計心配させてしまうだろう。

 俺は医務室のベッドで寝ていると、部屋にパトが入ってきた。

「天、唯の様子を見てきたよ」

 パトには科学世界の唯の様子を見てもらうように頼んでいた。

 本当は直接見に行きたいが、こんな状態ではそれが出来ないので、パトに頼むことにした。

「ありがとうな。それで、どうだった?」

「大丈夫だったよ。すっかり元気になってた」

「そっか。よかった…」

 俺は安堵の息を漏らす。

 これでまだ呪いが解けてなかったら、また呪術者を探すところからやり直しだからな。それだけは勘弁してほしい。

 それに、呪いにかかってるやつを見つける度に命懸けの戦いをしてたら、命がいくつあっても足りない。

「そういえば、聞いておきたいことがあるんだけど…」

「何?」

「バンジーが呪いを俺にかけようとしたとき、なにもしてないのにそれを弾いたんだけど、何か知らないか?」

「ああ、それのことか…特異点は魂を分離せずに一つにまとまってるから、他の人より強い力を秘めてるって言ったのは覚えてる?」

「ああ」

「魂には色んな力が交わって出来てるんだ。大きく分類すると、生命力と魔力の二つだけどね。そしてその魔力の中には魔法抵抗力も含まれてるからね。それが人一倍多い君は、並の呪術は効かないってことだよ」

「でもよ、魔法と呪術は別物じゃないのか?」

「いや、力の根源は同じだよ。それに呪術っていうのはあまりにも危険すぎて、人に多大な害を植え付ける魔法のことをそういうんだ」

「そうなのか」

 つまり、呪術は魔法と大して変わりはなく、俺は人より魔法に耐性のあるから呪いは聞かなかったってことか。

 だからバンジーの氷弾が俺の体に当たっても、完全に凍らなかったのか。

「なるほど、色々納得が言ったよ。ありがとうな」

「いいよ、お礼なんて」

 俺は天井を見上げた。

「なあ、パト。世界が歪まなくなる方法って、何かないのかな」

「どうしたのさ、いきなり…それなら原因を解消すれば…」

「いや、そうじゃないんだ。歪みを解消する方法じゃなくて、歪みを生まない方法だ。それをするにはどうすればいいのかなって…」

「天、それが出来れば、苦労はしないよ…」

「そうだよな…」

 そんなことが出来れば、俺より前の調律者がそれをやっている。

 俺は大きなため息をする。

 そんなとき、入り口の方から声が聞こえた。

「どうしたの?そんなに大きなため息をして」

 声のした方を見ると、そこには革製の袋を持ったユイが立っていた。

「ちょっと考え事をしててな。で、お前は何しに来たんだ?」

「お見舞いだよ。美味しそうなリンゴ持ってきたから剥いたげる」

「おう、ありがとうな」

 ユイは近くの椅子に座り、袋からナイフを取り出し、慣れた手つきでリンゴの皮を剥く。

「あれから体は大丈夫そうか?」

「うん、あれ以来体に異変はないよ。ていうか、今は自分の心配をしなよ」

「あはは、ごもっとも」

 俺は苦笑いをする。

「で、体の方は大丈夫なの?」

「まだ大丈夫とは言えないな。感覚が戻ってないからな…」

「そっか…でも、よく生きてたと思うよ。あのバンジーの魔法、かなり強力だったもん」

「だよな…俺も死んだかと思った…」

 いくら魔法耐性が並以上だからって、本来なら絶対死んでたからな…正直シャレになってない。

「はい、リンゴ切り終わったよ」

 ユイが持つ皿の上には、ウサギ型に切られたリンゴが複数乗っていた。

「はい、ソラ。口開けて」

 ユイはリンゴをつまようじで刺し、俺の顔に近づけてくる。

「えっ?いや、それくらい自分で…」

「腕の感覚、ないんでしょ?」

 そうでした。

「ほら、あーん」

「あ、あーん」

 ユイの差し出したリンゴをかじり、噛む度にシャクシャクと音が鳴る。

「どう、おいしい?」

 俺は口の中のリンゴを飲み込んで、こう言った。

「うん。甘くてとってもうまいぞ!ユイも食ってみたらどうだ?」

「えっ?でもこれはお見舞いのために持ってきたんだよ?それを自分で食べるのは…」

「どうせ丸一個は一人じゃ食いきれないさ。別に遠慮しなくてもいいって」

「……わかった。それじゃ、いただきます」

 ユイはリンゴにかじりつき、シャクシャクと音を鳴らず。

 そしてゴクリと飲み込んだ後、こう言った。

「本当だ…これすっごくおいしい!」

「だろ?」

「うん!これならいくらでも食べられるよ!」

「……俺の分も残してくれよ?」

「…………………」

「おい、なんだその忘れてたと言いたそうな顔は」

「大丈夫だよ、わかってるよ」

 若干棒読みくさいがまぁいいか。

「そういえばソラは怪我が治ったらどうするの?」

「まずは家に帰らないとな。両親が心配してるだろうし」

「そっか。両親はお見舞いには来てくれた?」

「いいや、両親はここには来れない理由があるから無理だろうな」

「来れない理由?」

「まあ色々あるんだよ。出来れば触れないでくれ」

「うん、わかった」

 まるで両親が悪事を働いたみたいな言い方だが、それ以外の言い方が思い付かなかったのだ。

 科学世界の話をユイにしても、きっとわかってもらえないだろう。

 俺だって最初に魔法世界の話をされても、ドッキリだと疑っていたしな。

 科学世界に連れていけるなら話は別だが、パトは以前、二つの世界の行き来は特異点にしか出来ないと言っていた。

 となると、ユイを科学世界に連れていくのは不可能ということになる。

「まあ両親に顔を見せた後は時間を見つけてクエストに行くかな。とりあえず今の俺の課題は見つかったからな」

「課題?」

「ああ、まずは実践経験だな。バンジーと戦ったときも、ユイが助けてくれなかったら死んでたし…」

「そっか…」

「後は、心だな」

「心?」

 正直言うと、調律者とか大層な呼び名をもらって、気づかないうちに調子に乗っていた部分が俺にはあった。

 だから屋敷でのユイの言葉にイラッときたりしたのだろう。

 だからその慢心をしない努力をしないと、いつか命を落としかねない。

「ああ、俺は今まで安全な世界で暮らしてきたからな。命を懸けるってことをまだ理解できてない…だから、それをちゃんと理解したいんだ」

「……よしわかった。それじゃあ私も協力するよ!」

 ユイは椅子から勢いよく立ち上がり、そう言った。

「えっ?協力って何を?」

「今言ってたことをだよ!一人より二人の方がいいでしょ?」

「まあ、確かにそうかもしれないけど…」

「よし!それじゃあ決定!」

 何で勝手に決めてんだと突っ込みたいが、まぁいいか。

 俺としても、ユイが仲間ってのは、精神的な意味でも心強い。

「わかったよ。じゃあこれからもよろしく、ユイ」

「こちらこそよろしく、ソラ」

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