プロローグ
俺の名前は徳井天。
どこにでもいる高校一年生の人間だ。
俺は今、退屈していた。
毎日毎日、同じことの繰り返し…
一日学校に通って、帰って寝て、また学校。
何か刺激になることはないかな…
そんなことを考えながら訪れた、入学式。
どうせこの入学式も、今までと変わらずに、体育館で話を聞いたり、教室でプリントをもらったりするのだろう。
その予想は当たっていた。
こんな退屈なやり取りの繰り返しで、何が面白いのか、俺にはわからない。
そんな日の帰り道、俺の隣には幼馴染の女の子、水上唯がいた。
茶髪でセミロング、水色の瞳をした彼女はいつも元気一杯で、退屈な俺をいつも元気づけようとしてくる。
正直、こいつといると退屈が紛れるから、普段から一緒にいる。
だけど、今日の唯は様子がおかしい。
なんだか、無理矢理明るく振る舞っているように見える。
「ねえ、今日の校長先生のお話、長かったよね」
「えっ?あ、ああ、そうだな」
普段の彼女なら、こんなことは言わなかった。
いつもはちゃんと校長の話を聞いて、それを話のネタにしていた。
他にもおかしいところはある。
いつもは笑顔なのに、今は真顔でいることの方が多い。
「なあ、何かあったのか?今日のお前、なんだか暗いぞ?」
「えっ!?そ、そんなことないよ!ほら、私はいっつも元気だよ!」
今慌てて作った笑顔も、ひきつっていた。
今のように、唯は何かあったのか聞いてもはぐらかしてくるので、こちらからは何も出来ない。
そんな感じで唯と別れた後、家にたどり着く。
両親は共働きで、帰っても誰もいないことが多い。
家の鍵を開けて、扉を開くと、そこには靴は一足もなかった。
やっぱり今日もいないか…
俺は、二階の自分の部屋に行き、入り口付近のベッドにうつ伏せの体勢で倒れ込む。
唯のために、俺の出来ることって、本当にないのだろうか。
そんなことを考えていると、突然窓ガラスが砕け散り、音が部屋全体に響き渡った。
それと同時に、俺は跳ね上がり、背中を壁にくっつけた。
「な、なんだぁ!?」
割れた窓に視線を向けると、その下に落ちてる青くて丸い何かが目に止まる。
すると、青くて丸い何かは突然光り出し、妙な形の羽が出てきて、真ん丸の目に、横線の口が浮かび上がった。
そんな奇妙な生き物(?)が、最初に発した言葉は…
「ようやく見つけましたぞ、調律者様!」
……はっ?
いきなり何を言っているんだ、こいつは。
俺が状況を呑み込めず、ポカンとしていると、青い何かは無視されたと思ったのか、怒り出した。
「ちょっと調律者様!どうして無視するんですか!?」
「い、いや…何を言ってんだ、お前?」
「しっ、しまった!まだ自己紹介してなかった!」
青い何かはコホンっと咳払いをし、自己紹介を始める。
「はじめまして、調律者様!私はパトと申します!以後、お見知りおきを」
「は、はあ…」
とりあえず色々聞きたいことはあるが、まずは順に聞いていこう。
「えっと…パト、だよな。お前はなんなんだ?人間じゃないようだが…」
「ああ、私ですか?私は精霊です!今まで多くの調律者様を導いて参りました」
「その調律者ってのはなんなんだ?」
「二つの世界の歪みを取り除く者のことです!これは誰にでも出来ることではないのです」
「……二つの世界ってどういうこと?」
「この世界とは別の世界が存在するのです!全て説明しようとすると長くなるので今は省きますけど、その二つの世界の危機を救うのが、あなたなのです!」
「なるほどね、なるほどなるほど」
よくわかった。
自分のおかれている状況がどんなものなのか、はっきりと。
そんなことを言われたら、やることは一つしかない。
「わかって下さいましたか!では、早速…」
俺はパトの言うことを無視し、部屋にある机や本棚などの物を漁り始める。
「えっと…調律者様?一体何を…」
「決まっているだろ。カメラ探してるんだよ」
「カメラ?何でそんなものを…」
「うるせえ!こんな分かりやすいドッキリに騙されるか!どうせどこかにカメラ設置して、映像撮ってるんだろ!」
「そんなことしてませんよ!?どうしてそうなるんですか!」
「さっきの話が本当だとしたら、お前は来る世界を間違えてる!早く妄想の世界に帰れ!」
「そんな!?私の言うことが信じられないのですか?」
「当たり前だ!」
そんな漫画みたいな設定の話なんて、信じられる訳がない。
詐欺なんかが増える今の世の中、そういうのにはしっかり警戒しなければならない。
確かに俺は刺激を求めているが、騙されて貧乏とか、そういう展開は望んでない。
「むぅぅ…だったら、どうしたら信じて下さいますか?」
「そうだなぁ…じゃあそのもう一つの世界って所に連れてってくれよ。そうしたら認めてやるよ」
さすがに異世界に飛ばされたら、認めるしかなくなる。
まあ、そんなことは出来っこないだろうけど…
「わかりました。では調律者様、こちらへどうぞ」
俺はパトに促され、部屋の中央に立った。
「では、始めます…ハア!」
今の声と同時に、足元に円の中に五芒星が書かれた何かが広がった。
えっ?これってもしかして…
「じゃあ行きますよ!」
ちょ…!これってマジで?
「お、おい…ちょっと待て…」
「次元転移!」
パトがそう叫んだ瞬間、俺の部屋が、視界から消えた…