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第11話

 ――貴方は貴族なのよ。

 幼い頃から、ハーキムの母は繰り返し彼にそう言い聞かせた。

 肩に乗せられた母の手は当主夫人のものとはとても思えないほど荒れていて、あかぎれとささくれだらけだった。始めは内職や家事をするなどみっともないからやめろと怒鳴りつけていた父も、病床に就く時間が長くなるにつれて、何も言わなくなった。

 ほとんどの使用人が逃げだした屋敷は栄華を極めた頃の見る影もなく、廊下の隅にはうっすらと埃が積もっている。

 それでもなお、ハーキムは貴族であることを繰り返し刷り込まれて育った。

 身代を持ち崩した貴族など、見向きもされない中で、ただひたすらその身分に縋るようにして生きてきた。

 だから騎兵隊の入隊試験に合格した時は、亡き父の絵姿を抱きしめてむせび泣く母に、これでようやく楽をさせられるとハーキムは喜んだのだ。


 だがそんな喜びも束の間、配属された第二騎兵隊は五つの隊の中でも最も実力主義を貫く隊であり、入隊試験では成績上位だった彼はここでは下っ端の更に下っ端でしかなかった。

 給金は兵士とほとんど変わらず、家の借金返済に充てるにはあまりに少なすぎた。ほかの隊ならばまだ活躍できるかもしれないと隊の所属変更を願い出たが、所属は入隊試験の成績ですべて決定されている。受理されることはなかった。

 ――ハーキム、お金が足りないの。

 毎日のように母からは無心の手紙が届く。

 始めは新しい服が欲しいから、と。しばらくしてからは、美味しいものが食べたいから、と。最近では何でも良いから食べるものが欲しい、と。売り払えるような家財はもうとっくに金に換えてしまっている。広大な土地を売ればまとまった金にはなるが、父との思い出の残る地を手放すことに、母は耐えられなかった。

『頼む。ほんの少しでも良いんだ。必ず返すから……』

 親戚中を駆け回っても落ち目の貴族を助けてくれるような者はおらず、恥を忍んで同僚に借金を申し込めば、すげなく断られた。

『貴公はそんなもののために騎士になったのか』

 借金を断られた場面を偶然見ていたワンダ・ストフリーにそう言われた時、ハーキムは憤怒と屈辱に蒼褪めた。

 公爵家に産まれ、総領として女ながらに爵位を継ぎながら、その高い矜持ゆえに騎士として国に身を捧げる彼女には、ハーキムの事情など分からない。金に困ったことのない人間には、明日食べるものの心配をしなければならない者の気持ちなど、分かるはずもない。

 とにかく、金が必要だった。


『――領収書の数字を書き換えれば良い』

 あまり風体の良くない兵士であるホレスの甘言に飛びつくまでに、時間はそうかからなかった。

 まっとうな手段では、金は手に入らないのだ。



***



 その日、シズレーは砦の談話室で十数人の隊員と打合せをしていた。

 今日の演習は効果的な夜襲方法と、それを受けた側の応対である。準備する者以外は、日中自由時間が与えられた。

 シズレーは夜襲を仕掛ける側を率いる役である。

 騎兵隊の訓練は通常日中に行われる。また、兵法に則った、戦線を保ちながらの戦術訓練が主だ。国家間の戦争はここ数年起こっておらず、騎兵隊の業務と言えば皇都の治安維持が中心だが、群雄割拠のこの時代、いつ何時戦いの火蓋が切られるか分かったものではない。

 普段ではできない夜襲訓練や、戦線が崩れた後の白兵戦に備えるのに、この軍事演習はうってつけだった。

 訓練用の刃を潰した模擬剣を片手に、シズレーは砦を部隊にどう攻め込むか戦法を練っていた。

 夜襲が効果的であるのは、その襲撃を相手が知らないからこそである。

 今回の訓練のように相手が予め夜襲であると知っている場合は、人数の少ない攻撃側は圧倒的に不利だ。

 どう陽動するかな、と考えていたところで、打合せの場に顔を出した者がいた。

「隊長」

 次官である。彼は武闘派のシズレーとは違い、専ら頭脳派なのでこうした訓練には参加せず、訓練結果を分析したり報告書をまとめたりと机上で忙しく手を動かしていた。その彼が何の用だろうか。

「次官、どうした?」

「隊長へ皇都からの速達便がきていましたのでお届けにあがりました。……ヴァレンス殿からです」

 ひら、と手に持った封書をひらめかせて次官が言い、シズレーは「またか」と渋い顔をした。

 先日出したばかりのシズレーの返信を見れば、こちらがヘンリックの悪だくみを見破っているとさすがに気付いているはずであるが、性懲りもなくまたからかいの文を寄越したのか。

 こちらは真面目に職務を果たしているというのに、あの人を食ったような性格は何とかならないものか。

 呆れと怒りを呑み込んでシズレーは静かに言った。

「燃やしておいてくれ」

「……ですが」

 封書を差し出しながら、次官は上司の怒りを買わないよう慎重に伝える。

「何やら手紙だけではなく、ほかのものが入っているようですよ」

 次官の言う通り封書はわずかな厚みがあり、彼が手を動かせばかさかさと物音がした。

「一応、中を確認した方が良いのでは?」

 中身が手紙だけならば、先日のシズレーの暴挙を目の当たりにした次官も、このような大勢がいる場ではなく時間を見計らって彼本人にこっそりと渡したのだが、手紙以外の何かが入っているのでそうするわけにもいかずに直接持ってきたのだ。

 戦法を一緒に練っていた部下たちは、彼らの上司が巻き起こした無双事件の原因を知らない。だが、騎兵隊の副長である次官はシズレーよりも長くその立場にいる人間だ。部下たちの信頼を得ているその彼が必要だと判断したのならば、余計な口出しはするべきではない。彼らはおとなしく次官に場を譲った。

 部下たちが黙って見ている中、さすがに大人げなく手紙を破り捨てる訳にもいかず、シズレーは渋々次官から封書を受け取った。

 封筒の裏にはやはり蜜蝋による封緘はなく、前回と同じくヴァレンスの個人名が綴られている。まったく、あのいとこは、元侍従とはいえ今はれっきとした一部下である次官にいったい何をさせているのだか。人のいいヴァレンスのことだ。身分を盾に指示されて断れなかったのだろう。

 我を忘れてみっともなく次官に怒鳴りつけたことを同時に思い出し、シズレーは平常心を保てと自らに言い聞かせながら封を開けた。

 途端、ころりと手のひらに転がり出てきたものがあった。

「――――っ!!」

 呼吸が止まったような気さえした。

 ここが遠征先の無骨な砦であることを忘れ、一気に場面が皇都の自室に引き戻される。

 シズレーの握力ならば簡単に握りつぶせてしまうほどの、小さな金属。何度も繰り返し触れてみたいと願った、あの柔らかそうな耳朶(じだ)を飾っていたもの。

 は、と細く息を吐き出して、シズレーはそっと耳飾りを握りこんだ。

 レビネルには存在しない繊細な造りの、その先端。長年剣を(ふる)い続けるうちに硬くなったシズレーの皮膚を柔く刺激するくすぐったさに、喉元が熱くなった。

 これは、ユウの耳に開けられた穴を飾っていたものだ。

 耳朶を貫く造りに『痛くはないのか』と尋ねた彼に、ユウは笑って『もう随分前に開けて固定されてるからねー』と首を振った場面が、鮮明に思い起こされる。

 何故これがここにあるのか。

「……ユウ」

 思わずシズレーの口から漏れ出た人名に、次官が「え」と反応するのが視界の隅によぎった。

 慌てて手紙を開いて文面に目を走らせる。

 そこには紛れもなく見慣れたヴァレンスの筆跡で、こう綴られていた。

『ユウです。本当です。

 性悪皇子のいたずらじゃありません。

 その証拠に耳飾りと一緒に贈ります』

 皇族に忠誠を誓っているヴァレンスは決して書かないような言葉が、少し震える文字で並んでいる。

「性悪、皇子」

 紙面に目を落としたままぽつりと零されたシズレーの呟きに、談話室のそこかしこでぐふっと息を詰まらせたような音が響いた。

「……何ですって?」

 部下と違ってあからさまな反応こそしなかったが、疑わしげに次官が尋ねてくるのに、シズレーは「いや」と言葉を濁してもう一度文章を読み返した。

 ヴァレンスは決して自らの意志では書かないような言葉。

 何よりも、レビネルには存在しえないはずのユウの耳飾り。

 それらが示すことの、意味は。

 ぱんと音を立てて抑えた口元から出そうになったのは、驚愕の声か歓喜の呻きか、シズレー自身にももう分からなかった。

「……っ」

 この手紙の通りならば、ユウが異界からレビネルに来ているということである。

 今日も、皇都から手紙が出されたであろう日も、「キンヨウビ」ではなかったはずだ。

 一体彼女に何があったのだろうか。

 仕事はどうしたのだろう。『全然たいした仕事じゃないんだけどね』と謙遜しつつ、ユウは上司に散々な嫌がらせを受けてもなお、一生懸命仕事に取り組んでいたはずだ。

 それに、最後に会ったあの時に、ユウはシズレーを拒絶した。想いを告げようとした途端に背を向けて、逃げ出したのだ。そんな彼女が自主的にこちらに来る理由があるとはとても思えない。

 それなのに何故。

 そんなことばかりを考えていたシズレーは、握りこんだ拳の中でふと耳飾りが皮膚をくすぐったことで、ようやくある事実に気付いた。

 ユウが確かにレビネルに来ているということは分かった。

 だがシズレーはもう何日も前からこの砦にいる。

 異界同士が繋がる条件は、その部屋の両方に人がいること、だ。「キンヨウビ」のその時間になってもシズレーの部屋に誰かがいなければ、そしてそれはユウが彼女の寝室に入るより前でなければ、レビネルに繋がることはなかった。

『しばらくヘンリック殿下のお世話になることになりました』

 破り捨てた前回の手紙を思いだし、シズレーは凍りついた。

 ――ユウはヘンリックの元にいる。

 遠征に出立した日の壮行会で、ヘンリックはやけににこやかにシズレーを送り出した。あの時既にユウはヘンリックと会っていたのか? いいや、そんなはずはない。最後に会った「キンヨウビ」、シズレーはユウと合わせる顔がなくて寝室を後にしたが、その後も自室には留まり続けていた。あの時点で彼女がレビネルに来たならば、気付かないはずがない。

 ではあの表情は何だったのか。

『その間、お前の彼女の世話をしておいてやろう』

 鮮やかな紫を思い出して、シズレーはぎりりと奥歯を噛みしめた。

 それは、許さない。

 恋人でもなんでもない彼女のことについて、許す権利などそもそもないことは承知している。けれど。



 手紙を手にしばしの間硬直していた上司が、不意にくるりと身を(ひるがえ)したことで、次官は首を傾げた。

 前回ヘンリックが寄越した手紙はシズレーがその場で投げ捨てたから、次官も文面をすぐに確認できたが、手紙は上司が未だ手持ったままである。

 不躾に尋ねることもできずに控えていたのだが、シズレーが次官を含めた部下たちを置いて談話室から出ていこうとしたところで、次官は慌てて声をかけた。

「隊長、どうされました?」

 ちらりと次官を振り返った彼は、すぐに前を向いて歩みを止めることはない。

「……戻る」

 低く唸るように呟いて廊下へ踏み出したシズレーを、次官は部下たちにはここに留まるように言い置いて追いかけた。

 次官より長身なシズレーは歩幅も大きい。小走りになりつつ後を追い、迷いなく進む上司の正面に回り込んだ。根っからの文人である次官のことなど、本気になればシズレーは片腕だけで押しのけられただろうが、さすがに足を止めた。

「隊長。お待ちください。戻るとは何ですか」

「戻るんだ」

 真っすぐに見据えてくる次官から視線を外して、シズレーは言った。

「……まさか、皇都に戻るという意味ではありませんね?」

「……」

 答えないシズレーに、次官は聞き分けのない子供に言い聞かせるような口調で、静かに諭す。

「それがどういう意味か、分かったうえで仰っていますか」

 押し黙っているシズレーは言いたいことなどとっくに分かっているのだろう。何も答えようとしないのは分が悪いからだ。

「……貴方は六千の騎兵を率いて、ここにいらっしゃることを、お忘れですか」

 短く言葉を切りながら伝える次官から視線を逸らしたまま、シズレーは手紙を握りしめた。

 欲した女が別の男のもとにいる。

 しかもその男は自分より身分も権力も財力もある相手だ。

 これが歌劇ならば男は何もかもを捨ててでも、女を追いかけて取り戻しただろう。そして物語は大団円に終わる。

 けれどこれは現実で、シズレーは軍人の職務として遠征軍を率いている立場にある。その上、今回は単なる訓練ではなく、隣国への牽制の意味合いが強い演習なのだ。その総大将が任務を放り出して女のもとへ走るなど、決して許される話ではない。

 シズレーだって分かっているのだ。

 それでも居ても立っても居られないのは、どうしようもないほどにユウのことを想っていて、誰にも奪われたくないからに他ならない。

「隊長」

 根気強く語りかける次官に、シズレーはようやく顔を向けた。

 シズレーよりも二十ほど年かさの、酸いも甘いも噛み分けた腹心の部下は笑い(じわ)の刻まれた眼差しで、シズレーを見ている。そして変わらぬ口調で続けた。

「隊長、お気持ちは分かります。ですが貴方の立場では、軽はずみなことは許されません。貴方の行動が、この第二騎兵隊を、ひいてはレビネル皇国軍を左右します。それを忘れてはなりません」

「――貴方は、まるで俺の家庭教師のようだな」

 ようやく口を開いたシズレーの言葉に、次官は目を丸くした。いつもは慣れないながらも上司として振る舞っているシズレーが「貴方」と呼びかけたことに、部下についた当初のことを懐かしく思い出しつつ、おかしそうに頷く。

「ええ、まあ、似たようなものでしょうねえ」

 その穏やかな響きに、シズレーは一度大きく肩で息をして、くるりと元来た方向へ背を向けた。

「……戻る」

「はい?」

「談話室に、戻ってくる」

 部下との話し合いを放棄して部屋を出てきたことをようやく思い出したのだ。

 おとなしく歩きだしたシズレーに目を細めて、次官は深く頭を下げて見送った。

「いってらっしゃい」

 遠く離れた談話室の扉に手をかけたシズレーは、次官の目を見ないまま、聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟く。

「……すまなかった」

 ばつの悪そうなその謝罪に、いっそう笑みを深めて「いいえ」と返し、次官もその場を後にした。




 だがその翌日、夜襲の演習を無事に終え、多くの隊員が眠りにつく中シズレーの部屋を訪れた次官は、誰もいないその場で束の間立ち尽くした。

 簡素な机の上には二通の手紙が広げたまま置かれている。

 一通は昨夜次官が直接シズレーに手渡したもの。もう一通は今日改めて届いた別の封書で、それも同じくヴァレンスからのものであった。

 旅装一式と上司が愛用している長剣がないことを確認しつつ、次官は無礼を承知で机上の手紙を手に取る。

 昨夜最後まで中身を確認できなかった一通には、上司の想い人がレビネルに来ているという旨が、そして新たな一通には第三皇子がその女性を気に入って手元に置いているという旨がヴァレンスの手で書かれていた。

 冷静沈着なはずの彼が、これまでただその女性のことについてのみ激情の片鱗を見せてきた。手紙は、その彼が激昂するのに充分すぎる内容だった。

 厩舎を確認しにいくまでもない。一番上等の、上司の愛馬はそこにいないだろう。

「あーもう……」

 武闘派のシズレーに殴り飛ばされるのを覚悟してあれだけ言い聞かせて止めたというのに、あののほほんとした第一騎兵隊の次官は、なんてものを寄越してくるのか。これでは骨折り損にもほどがある。

 火の始末がされた暖炉と、すっかり冷え切ったこの部屋から察するに、次官が今から追いかけたところでとても追いつくことはできないだろう。もうとっくに街道を爆走しているに違いない。

 もう少し理性的な男かと思っていたが、そうではなかったようだ。

 一体誰がこの後始末をすると思っているのだか。

 隊長職に就く者が演習の場から消えたことなど、どう部下たちに理由をつけて説明したものかと、こめかみに痛みが走る。思わず長い長いため息をついた。

「教育を間違えましたかねえ」

 長い付き合いではないが、もっと任務の重大さを口酸っぱく刷り込んでおくべきであったか。

 愚痴っぽく呟きながら、次官は他の誰にも見られないように手紙を握りつぶした。


 極秘の緊急任務でも入ったことにするか、と算段をつけた時だった。

 抑えようとしても抑えきれなかったのだろう慌ただしい足音が近づき、扉が叩かれる。

「隊長、申し訳ありません、お話が……」

 許可も待たずに扉を開けたのは、次官もよく知る雑用兵の一人だった。ワンダと仲の良い女性で、最初に武具の数が合わないことに気付いた人物である。

「ああ、隊長ならば所用で外していますよ。何ですか」

 シズレー同様、次官が全ての事情を知っているということは、彼女も承知している。

 駆け込んできたままの荒い息で、彼女は小さな紙切れを懐から取り出し、それを見ながら言った。

「次官、ご報告申し上げます。……鞍が二つ、(あぶみ)が一つ、それと予備の馬蹄(ばてい)が百組、全てなくなりました……」

「……何ですって?」

「か、鍵を……鍵をきちんとしていたんです。先日ワンダ様に報告してから、もうこれ以上なくならないようにと。そ、それなのに、鍵が、開いていて!」

 武具や馬具の管理は雑用兵の仕事だ。隠匿が発覚してからというもの、事態がほかの隊員に広まらないよう、大っぴらに警備をつけるわけにもいかなかったので備蓄庫に鍵をつけたのだという。それにもかかわらず、また新たな武具がなくなった。

 馬具の中でも馬蹄はレビネルにおいては高価な品だ。希少な鉄が使われており、鉄は溶かせば何にでも使える。ある国など、蹄鉄がそのまま貨幣としても使えるそうである。下手をすればこれまでになくなったもの全てよりも、今回なくなった馬蹄の方が価値は高いだろう。


 素早くあたりに誰もいないことを確認して扉を閉めた次官は、雑用兵が書き留めたメモを受け取り、低く呻いた。

 砦に着いてからワンダへの投書はなくなり、武具がなくなることもなかった。だから皇都から砦へ到着するまでの行軍中に不正が行われたものと、シズレーも次官も思っていた。

 だが事態はより悪い方向へと進んでいるようだ。

 不正の犯人は、まだ続ける気でいるのか。

 そして外部犯という僅かな可能性もなくなり、この砦の中に間違いなくいるという事実に、次官は先ほどとは異なる種類のため息を漏らし、さっさと恋人を追って行ったシズレーを恨めしく思った。

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