91 仕事
◯ 91 仕事
新人になると自分で組合が出す新人用の依頼を見て、出来そうなものを受ける事が出来る。だからと言って、勝手に僕を頭数に入れる事は無いと思うんだ。ヴァリーを恨めしげに睨み、文句を言う為に口を開いた。
「ホングに泣きつかれたから来たけど、僕にだって予定があるんだからちゃんと確かめてからにしてよ? 神殿での祈りの順番を、いきなり変わって貰わないとダメだったんだ。お昼を奢らされるんだからね?」
お昼ご飯を奢るのはそんなでもないけど、頻繁にこんな事をされたら困るので釘を刺しとかないとね。
「あー、次からは連絡するよ、あんまりにも良い報酬だったからついな……」
直接の組合の依頼は受けた事が無い。まあ良い機会かもしれない、と思ったので溜息とともに許す事にした。
「まあそう言うなよ、新人になったアキへの祝いみたいなもんだ。報酬は良い方だから機嫌治せよ」
ヴァリーが頭を掻きながら誘った理由を言ってくれた。
「……報酬が良い事が?」
「そうだ。三人でこの報酬なら新人の仕事としては良い方だ。研修員の仕事なんてお小遣いにもならないだろ? 依頼書を読んどけよ」
言われた通りにヴァリーから送られて来た依頼書を見てみた。クリッパーランダという世界での鳥の調査だった。しかも、六日は確実にかかる……それ以上の調査費は自分達持ちだと書かれている。なんか怪しい。そう思いながら読むと益々怪しい。
「移動方法は現地の乗り物しかないし、世界の入口が森の中の神殿だよ? しかも、調査する場所が遠いし、そこまでの移動に五日は掛かるってスフォラの計算が出てるよ? 調査する日数を考えたら確実に足が出るし、何処が良いの?」
地図と見比べながらスフォラと確かめてもう一度聞いてみた。ちゃんと確かめたんだろうか? なんだか適当に値段だけ見て決めた様な感じがするぞ?
「節約する為に料理出来る人間がいるんだし、空も飛べるし移動は多少縮まるだろ」
確かに飛行の魔法は許可が出ている。クリッパーランダ世界の使用魔法別の注意事項にはチェックされた跡があった。
「随分、大雑把だね……」
「やっぱりそうか……。またそんな気はしてたんだ。美味しい仕事程、気をつけるべきだって」
ホングは既に気分が落ち込んでいた。どうやら既に痛い目に遭っているみたいだ。きっとホングも無理矢理誘ったに違いない。着いたら現地通貨での滞在費を渡してくれるみたいだ。どう考えてもそこの現地の人が、この値段で出来ないと踏んだから外に振ったとしか思えない。ヴァリーの持っている現地の地図はかなりの大雑把さだ。嫌な予感がしてスフォラに頼んで組合のデータと比べて貰った。これじゃ距離がおかしい。方向はかろうじて合ってそうだけど……。
「この地図の尺度がおかしい。この感じだと数字は倍と見た方が良いってスフォラが計算してくれてる……現地に着くのは十日後だし、調査だって一日で出来るんじゃないよ? どう考えても割に合わない」
ヴァリーを睨んだら、そこまでは調べてなかったのか驚いた二つの顔があった。
「「え……?」」
組合のデータの地図を見せながら説明したら、ヴァリーの顔が引きつり出した。転移装置の前でぐだぐだ言ってる間に移動が始まった。
「どう考えても二十五日程のミッションだよ、それを六日間の滞在費用でやれなんて悪意しか感じないよ? 報酬全部を使ってここを旅行する感じだと思う。ここの通貨で報酬は先払いしますって絶対その為だと思うんだ。ここで通貨を使わせて取り返す気なんだよ」
読み進めて嫌な感じが更に高まったので、ヴァリーに更に言ってみた。もうちょっと気をつけて欲しいよ? 組合の仕事なんてした事ないけど、新人のコミュニティーでの話から難易度が高い物が紛れてるというのは分かってたはずだ。
「もうけ無しの屑ミッションか……」
僕達は森の中の苔むした石造りの神殿の中で頭を抱えていた。来てしまったからには終るまで帰れない契約だ。
「意地でも報酬を残すぞ。……何か他にここの情報はあるか?」
「今、スフォラの通信が途絶えたから無理だよ……。終らせてここに帰ってくるしかないね」
溜息をついて周りを確認し出した。通信が途切れるなんて罠にはまった気もしないでもないけど、これが噂のランダム試験とかじゃないよね?
外に誰かの気配がする。ヴァリーに目配せをしたら気が付いたみたいだったが、怒りでぷっつりと切れている。
「よくも俺を騙したな……二度と依頼をさせないようにしてやるから覚悟しろよ」
銀の銃を近づいてくる相手に向けようとしている。……それはまずいよ。
「覚悟はてめえだ! そこにある金を渡せ! ぐずぐずするな、さっさと渡しなっ!」
あれ? 神殿関係の人じゃない? 妙な事を言っている。ホングが近くにあった神殿の祭壇の前にある綺麗な青色の硬貨らしき物を指さしていた。成る程、これがここの通貨かな? メモ用紙が山盛りになった通貨の下にあるのが目に入った。
「お前は誰だ?!」
ヴァリーも切れていたのを一旦切り替えて、その男に向き直ったら、後ろからもう一人が叫びだした。
「渡さないなら大人しく、くたばっちまいなっ!」
そう言いながら短剣らしき物を手に襲いかかって来た。
僕が通貨とメモを全部、持ち運び用の収納スペースに引き寄せの魔法で入れている間に、ホングとヴァリーは盗賊と戦い始めた。急いで周りを見渡して他に何もないのを確認し、振り返って二人に伝えた。
「全部入れたよ」
「よし、出るぞ」
二人の援護にスフォラが電撃を飛ばし、外に屯していた数人の盗賊達を牽制して進んだ。
「ヴァリー後ろ!」
ナイフが飛んで来た。ヴァリーは銃身で弾いたが、またナイフを投げ出したので、そこから離れて森の中を走り出した。後ろから金を返せ、とか言っているのが聞こえる。いつの間に彼らの物になったんだろう?
森を駆け抜け、追っ手をまく為に木々の間をジグザグと、飛ぶように進んだ。いや、後半は枝を飛び移りながら進んだ。後ろの盗賊達もしばらくは同じように飛んでくる人が何人かいたけれど、スフォラの電撃で脱落した。しばらく進んだ後、全員で現状を把握する事から始めた。
みんな擦り傷程度の怪我をしていたので、手当をしてからお金の下にあったメモを取り出した。
「まずはメモからだね」
「そんなのあったか?」
「あったよ」
「読んでくれ」
報酬は神殿にいる盗賊を捕獲したら、上がる。
調査は早めに報告するように。
BYクリッパーランダ
P.S.組合の高利貸しには良い薬だ
「組合の尻拭いか?」
不機嫌さが増したヴァリーは、迫力の目力で僕の手に持っているメモを睨んでいる。
「そうみたいだね、でも追記の所はここの古い言葉みたいだから、実際は通じないと思う」
スフォラが知ってたから良かったけど……。僕にも読めないし、ヴァリー達にも読めなかった。
「何となくやばそうな世界だ」
確かに、遭難したって放っておかれると思う。
「一応、報酬は前払いされてるから、文句は通じないかもしれない。危険度マックスの依頼だね」
「割に合わない。さっきのでもう報酬分は働いたよ」
そう言ってホングは水を飲み、のどを潤していた。管理組合に盗賊狩りの仕事なんて来ないはずなのに、ここの神は知らないんだろうか。というか明らかに仕組まれてたよ、あの盗賊の登場は。




