89 戦闘服
◯ 89 戦闘服
薄暗い所を想像していたけれど、思っていた程暗くはなかった。うーん、やっぱり衣装や、建物の系統の違いを感じる。ここに来る時は合わせた方が良いだろうか?
「皆、衣装が黒ですね」
「どうしてもマントが黒だし、他は着てもなじまない気がするからな」
「……そうですか?」
「アイス……その白のドレスは目立つな、なんか輝いてないか? ……魔力が籠ってるみたいだが?」
「あ、これはまだ実験なんですけど、魔結晶で維持してるから変身する人とかに良いみたいで、こんな風に形を自由に変えれるんです」
衣装をシャツワンピースから、膝丈のパンツとシャツに変えて見せた。短パンには水色の色をつけてみた。僕はマリーさんのリクエストの、光の魔結晶と光のベールのでの魔力による衣装替えの実験台をやっていた。マリーさん自身もやっている。他の人に渡すには色々やらないと衣服への変化をつけるのは難しいみたいだった。
「何で黒じゃないんだ。死神の連中なら売れるぞ? 衣装にはこだわりがあるからな……」
「黒もありますよ? でもみんな出来るんじゃないんですか? マントで」
「……維持が難しいし、マントが着れないと不味い」
あっ、そっか何個も出せないからか。僕は納得した。闇の魔結晶の方を出して、黒バージョンにした。黒の衣装に着替えた姿を見て、ドゥーフェスさんは興奮した様子で聞いてきた。
「そっちが好い。商品化はするのか?」
「ちょっと無理ですね。知り合いにだけに渡す感じになりそうです」
魔結晶の関係で、商品には難しいので贈答品とかにしようと思っている。メレディーナさんも変身する方達への贈り物にしたら良さそうだと言っていた。同じように変化に対応する生地はあるにはあるのだけれど、完全に自分の好き勝手に変化をつけれる物は中々存在しないみたいだ。
レイも僕の完成品を楽しみにしているみたいで、目が早くと訴えていてプレッシャーになっている。自分で服を出せるのに、何でか聞いたら、魔結晶を使った魔術で出来るところが好いんだと訴えられた。ここと別の世界では出来ないじゃないか、と真剣な表情で迫られてしまった。どうやらレイぐらいになるとは行く先々で力の制限が課せられるみたいで、こういう便利グッズには目が無いみたいだ。
頑張るからその、期待の目であんまり見ないで欲しい。魔法で一々作るより、レイには世界に繋いで物質に変える方が得意みたいで、自分の変身に魔法が追いつかないみたいだった。僕には要練習と言っておいて本人はさぼってるみたいだ。基準以上には魔法は出来てるみたいだけど、何か理不尽だ。
ドゥーフェスさんは悲しそうな顔で、僕の衣装を見ていた。仕方ないので白の方を着て、黒の方を貸してあげた。即上着を脱いで色々試そうとしていたが、うまくいってないみたいだ。
「え、と、最初は自分の着てる服のイメージからやった方が好いですよ。……で、変化をつけて行って……あ、そんな感じです。細かい所は後でも調整出来ます」
「面白い。やっぱり商品化は……」
「まだ今の段階では無いです」
「そうか、残念だ……」
「自分のマントで頑張って下さいよ」
「マントで作った衣装程、維持に気を使わなくていい。というか形が決まったら維持しなくていいんだな」
「普通そうじゃないんですか?」
「……私のは服として安定せず、マントに戻ろうとするんだ」
「マントとして安定してるんですね」
成る程、マントとして定着してるのか。でも、良い物が見れた。死神は闇のベールの扱いが慣れてるからか少しやっただけで服化されるみたいだ。
ドゥーフェスさんには他言無用で、と今使っている闇の魔結晶の布をあげる事にした。ただし、後で感想を書くようにしっかりと要求しておいた。それでも喜んでいたので良いかな、決して悲しげな視線に負けたんじゃないはず。
死神の組合をその後は機嫌良く案内してくれたドゥーフェスさんは、色んな人を紹介してくれた。僕が癒し担当だと分かると皆、納得の顔をしていた。光の衣装はベールの下に隠しておいたので、その後は何も聞かれなかった。
「アイスって字は合ってないよ、冷徹なイメージじゃないし〜」
と、イシスさんは僕を見て言った。ドゥーフェスさんがどこかに呼ばれて行ったのでその間、話を聞く事にした。
「え、と、アイスはアイスでも、後ろにクリームが付く方みたいです」
「あー、氷菓子?」
それで納得してキャンディでも良いんじゃないの? とかは言わないで欲しい。微妙に落ち込むから。
「アイスは結構多くないか?」
マークさんがイシスさんに同意を求めた。僕が怪訝な顔をしていたら、
「あー、重なったら、死神として若い方が変えるって決まりがあるんだよな。だから字は二つ三つ持ってる人が多いんだ」
と、ノットさんが教えてくれた。
「アイスは、クリームかキャンディが候補だな。管理組合だし」
マークさんがイシスさんと頷き合いながら言っていた。
「それって自分で付けちゃダメなんですか?」
「先輩が決めるんだよ。決まりだよね」
「そうですか……」
ちょっとがっかりだ。重ならない事を祈ろう。
組合での規定では死神の学校を卒業したら、まずは見習いとして経験を積んで初級、中級と進んで上級に進み、それを終えたらやっと死神としてデビューならしい。それでも何年間かは新米死神として初心者マーク付きみたいだった。上に上がっていくには、組合の試験を合格すれば良いのだけど難しいみたいだ。
死神の組合が管理するデータで、仕事が割り振られるみたいだった。仕事内容で誰が向いているか候補が出てきて、応じるなら返事をして現地に向かう、そんな感じみたいだ。僕はまだ見習いでさえないのでそれは無い。ここにいる皆は、見習いから死神の初心者だった。
「クベフはちょっと変わったね、あの仕組みが出来てからなんか嫌な感じー」
イシスさんは何か不満そうだ。
「マントの分離だろ?」
マークさんが確かめるように聞いた言葉にちょっと驚いた。
「そんなの自分が偉いんじゃないじゃない、何か態度が大きくなって嫌な感じー」
「そういうなよ、それまで活躍出来なかったせいだろ?」
ノットさんがイシスさんを宥めているけど、イシスさんは唇を尖らせたままだった。
「でも、基本防護以外の機能がからっきしで、一度も出てないみたいだ」
マークさんが苦笑いでそう言ったら、
「そうなの? それなのにあの態度だったんだっ。もう許さないから!」
と、イシスさんは本格的に怒り出した。僕は基本防護の物理攻撃がダメだけど、他の機能は良いと言われている、足して割ったら良さげだ……。
マントの分離もどうやら基準が出来つつあるみたいで、機能的に問題ありの物は除外されるみたいだった。二枚しか出ないとか、時間が三十分以上持たないとかは論外で排除される。要練習だそうだ。理想としては五枚から十枚出せて、一時間から六時間の時間があれば良いみたいだ。その時間だけでも増員出来れば助かるらしい。
談話室に誰かが入って来たので振り返ると、ドゥーフェスさんとヘッジスさんが一緒に歩いて来ていた。
「うわ、エリートヘッジスだ……。クッソ、こっち来るのか」
マークさんが毒づいた。
「クールで良いじゃない〜。何処に所属してても様になりそう」
うっとりとした表情のイシスさんの台詞でなるほどと思った。
「アイス、こっちへ。紹介するから着いて来い」
「はい」
イシスさんの目が怖い……。思い切り嫉妬の詰まった目線を受けて誤解ですから、と思いつつヘッジスさんとドゥーフェスさんに付いて行った。どうやらヘッジスさんが、ドゥーフェスさんを呼んだみたいだった。




