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8 無塩

 ◯ 8 無塩


 その日の夜、また館の夫婦が揃って謝りとお礼を言って来た。知らなかったとはいえ、危ない物を放置して行ったのだから、こちらにも非があるのでお互い様という事にして貰った。


「それで、厨房を借りたいとの希望があったと伺ったのですが、もしや食事が合わなかったのかと思いまして……その、よろしければシェフを変えますので、ご遠慮なさらないで下さい」


 この二人は昨日の時点でもいい人っぽかったのに、ベールを出してから更に態度が丁寧になった気がする。


「いいのよ〜、趣味が料理なの〜。だから気にしないでっ! ね、アキちゃん」


「うん、そうなんです。一杯驚いたから、ちょっと落ち着こうと思って」


 どうにか誤摩化した。


「そ、そうですか?」


「気にしないで、それよりなんだか他の客が随分増えてるね。何かあるの?」


 レイが昨日よりも賑やかなホールを見ながら聞いていた。


「はい、明日は……早朝から死神学校の入学試験日でもありまして、学校の見学、体験学習が同時に行われるんです。確か、見学と体験学習にご参加でしたね?」


「そうよ〜、でも同時に行うなんて聞いてなかったわ〜」


「ええ、試験はマントを出せるかどうかが入学の決め手でして、多くの方が試験に臨まれるんです。……体験入学で自分もなれると勘違いなさる方が多く、その様になったと伺っています」


「へえ、そんな事があったんだ」


「はい、それで試験を同時に行うスタイルになったようです。その際、争闘クラスか魂回収クラスに分けるそうです。お客様のマントは、それは見事に朝日から吸血鬼族の彼女を助けたと聞いております。朝日をマント越しに見た事を大変嬉しそうに話しておりまして、正直羨まし……いや、失礼」


 羨ましいのところで、婦人に肘で突つかれていた。


「火傷は大丈夫だったんですか?」


 気になるのは容態だが……。


「はい、触ったと言っても一瞬でしたし、彼女も吸血鬼の端くれです、明日には綺麗に治ると医者の方から聞いております。どうか御気にせずに、今日も御楽しみ下さい」


「はい、ありがとうございます」


 僕達はちょっとホッとしていた。今朝の眠る前に、レイがメレディーナさんにアンデッドがジュースで火傷した事を聞いていた。メレディーナさんも少し驚いていて、火傷を負わせる程とは……と少し考え込んでいた。効果がある事は聞いていたけれど、そこまでの効力があるとは思ってなかったみたいだった。力が抜ける程度だと認識していたと聞いた。

 僕達にとっての瘴気や、邪気のように、彼らには霊気がそんな力を持っているんだ。気をつけないといけない。今日はしっかりと収納スペースにおやつは仕舞っておいた。


 夕食の後、厨房に行った。厨房の端で材料を分けて貰いパンを焼き、大量にサンドイッチを作って持って行った。まあ、バレバレである……。

 シェフが悲しそうな顔をしていたのが心苦しい。マリーさんが厨房を借りたお礼に、サンドを幾つか渡していた。生きてる人には塩は控えめよ〜と、口走っていたが罪は無いだろう。高血圧に一直線なメニューはこっちも辛い。……よく考えたら、僕は幽霊だった。高血圧とは無縁だ。


 学校の見学、体験学習は明日の午後から始まるので、それまでの時間を調整する事にした。中途半端な時間だから、遠出はせずに街の散策に出る事にした。

 テーマパークと言っても、実際に生活している一般の住民も多い。観光協会との連携で住民の半分は観光事業に携わっているため、成り立っているみたいだ。

 今日は普通の町の様子を眺める事にした。小売り商店を覗いたり、服やアクセサリーを眺めたり、骨董店で甲冑や、剣、槍に大きな銃、銀の弾丸はご使用しないで下さい、の注意書きを見ながら首を傾げていた。

 夜半は中央広場の芝生で作ったサンドを食べながら、狼族の変身を見学した。そのままゆっくりと街中を散策しながら屋敷に戻り、死神の学生達のデモンストレーションを皆でスロー再生しながら確かめた。


「この人達のマントは争闘用って事かしら〜?」


 死神の細かい事はみんな知らなかった。


「館の主人の話しぶりだと、そうなるね、学校に行ったら聞いてみたら良いんじゃない?」


「そうね〜、色々あるのね、マントの種類も」


「ふむ、そのようだな。用途が決まっているなら、これは余り参考にならないやもしれぬな」


 確かに、蒼史の言う通りだ。


「そうね〜。もう一回見せて〜、アキちゃんのベール」


「他の人に渡せるのは不思議ですね」


 紅芭さんが受け取ったベールをマリーさんに渡した。


「ベールは一枚しか出せないの?」


 ふと、何か思いついたのかレイが聞いてきた。


「さあ……どうだろう」


 試した事無いよ。


「チャレンジよ〜、アキちゃん」


「う、うん……」


 結果は意外にも出せた。人数分出来たところで打ち止めだった。期待の目で見られて頑張ったが、もうぐったりだ。


「うわぁ、全員死神だよ〜。なりきりコースだね」


 レイが嬉しそうにベールを纏って遊んでいた。スフォラも紫月とベールを翻して空を飛びながら、映像の死神の業を練習していた。伊奈兄妹が、意外にも一番張り切っている気がするのは気のせいじゃ無いと思う。

 マリーさんが実験よ〜、と言って部屋を出て行った。どうやら僕から離れても大丈夫か確かめているみたいだった。館の門を出てすぐくらいにベールが消えたらしい。有効範囲が100mくらいかしらとマリーさんが目測で割り出していた。

 ベールの存在時間は40分程度だった。数が多いせいかなと言いつつ、レイが残念そうにベールが消えるのを見ていた。僕一人だと一日中出してても問題は無かったからそうだと思う。分かったのは同じ人物が出したせいかそれぞれのベールの中で隠れてても皆で会話が出来た事だろうか。今日の昼までには出かけるので日が昇る前には眠った。


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