80 循環
◯ 80 循環
ヘッジスさんが訓練場に来た。途中経過を見に来たそうだ。なので広げてみて貰った。
「前よりは成長している。だが、誰でも入れるのは変わらないな」
「は、い」
「アイス、もっと他を入れない為の何かを持たないとダメだ」
「何か、ですか」
「……他者への隔たりが足りない。警戒心とかだ」
ヘッジスさんは考えた末にやっとそう答えた。……確かに攻撃に弱いのは良くない、もう少し防がないと家族も守れない。それは嫌だ。押し黙った僕に、ヘッジスさんは他には何か変わった事はなかったか聞いた。なので声を外に出せるようになったと答えた。結局、闇の魔法は外には出なかった。
「それは良い変化だ」
「そうなんですか?」
「ああ、外に向かっての力は攻撃に繋がる。言葉だけでも進歩だ」
ヘッジスさんは少し笑顔を見せた。マリーさんにも近い事を言われた気がする。張り続けたベールは三時間を超えた当たりで消え始めた。
「順調に成長はしている。だが、最初に言った事をやらないと意味がない。……課題だ」
そう言って帰って行った。そういえばガーディアンは入れる人を限定出来るんだった。どうやってそれを決めるんだろうか、弾き返す強さを持たない僕はどうすれば良いんだろう? 答えはまだ出そうにない。
神界警察から許可が下りたので、襲われた時間より、丸一日と数時間後に家族に会いに行った。夕食の時間の再会は無事を確かめ合う感じだった。母さんの肩の傷は本当に大した事なくて、青あざが出来てるくらいだった。
僕の守りのせいか、妹は箸を突き立てる瞬間には手の力が少し抜けたらしかった。壊れたピンクのお守りは確かに効いたみたいだった。
「また作るよ」
「そうしてよ。お父さんなんかショックで円形ハゲが出来たんだよ?」
「やばい…」
それはかなりやばい。
「そうなのよ。朝からそれにショックを受けて、仕事を休んで困ったわ」
家族で一番弱かったのは父さんみたいだ。うんまあ、そんな気はしたけど。後で生えてくるように癒してあげよう。
「千皓が頑張って追い返したって聞いたわ」
「助けが来るまで頑張ったんだよ」
「そうなの? でも良かったわ、千皓だけ違う治療があるからって言われたから、どこか悪いのかと心配したのよ?」
「うん、すぐに治してくれたよ」
「幽霊の治療は病院では無理だよ、お母さん」
妹がちょっと笑いながら母さんの勘違いを指摘した。
「あら、そういえばそうね。違う場所になって仕方ないのね」
「そうだね、父さんは?」
「寝室で寝てるわ。顔を見せてあげて」
「重症だね?」
「千皓の顔を見せれば、少しは元気になるわ」
「うん。そうするよ」
階段を上って寝室に入って声をかけたら、父さんが泣きながら突っ込んで来た。受け止めたけど、直ぐに体がすり抜けてしまった。
「触れた」
「そうだね、ビックリしたよ」
「一瞬だったけど千皓に触れた」
うれし泣きをしている父さんを、そっと癒しの力で包んであげた。
「今度は家族分のお守りを作るね?」
「そうだな」
「禿げないように念を込めておくよ」
「そうか、それは効きそうだな」
「うん、安心してよ」
「下に降りようよ」
「そうだな。泣いてる場合じゃないな」
どうやら少し回復したみたいだ。一緒に降りて夕食を囲み、その間はずっと癒しの力を家族に送り続けた。僕も家族から同じ癒しを貰った。きっとお互いに交換し合ってるんだ、循環する力を感じた。




