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7 偶然

 ◯ 7 偶然


 気が付いたら中央広場だった。何時の間にかまた意識がなくなっていたみたいだ。眠ったのか気絶したのか定かではない。順路の屋敷には不気味な笑顔の人形が一杯あって、そこを探検していたのは覚えているけど、そのあたりからの記憶が無い。

 どうやら、今夜のメインイベントが始まったみたいだった。今宵の出し物は死神同士の戦いだった。マントを翻して空を滑空している姿がちらりと見え、マントを完全に被ったら消えた。後は時々ぶつかって光る武器の刃や、銃があったような? 時折マントを外してまた出て来たと思ったら、消えてと目まぐるしかった。

 意外と何処にいるのか何となく分かる。マントを被っても戦ってる時は、完全に気配を消すのは難しいみたいで、僕のように闇の力を持っている人にはこのくらいなら分かるはずだ、とマリーさんが教えてくれた。

 何組か入れ替わりながらイベントは進み、最後に立ち並んだ生徒達が手を挙げて去るまで、あっという間だった。イベントは全部で15分か20分くらいだった気がする。周りの盛り上がりはアイドルを見に来た人々みたいだ。


「ふうん、死神も色々なんだね」


「そうね〜、今時は銃撃もありなのね〜」


 やっぱり銃弾が飛んでたんだ、そんな感じの音がしてたからそうじゃないかとは思ってたけど。魔力弾が飛んでたらしい。


「派手な戦いが多かったですね」


 紅芭さんの感想はそうだったみたいだ。


「イベントだからだろう。目的は楽しませる事だから分かるが……」


 蒼史も何やら言いたげな感じだ。


「そうね〜、学生だからまだ演出が甘いところはしょうがないわ〜」


 そんな事は全然分からなかったけど、マリーさん達からするとダメならしい。


「ふむ、そうですね」


「頑張って欲しいですね」


「そ、そうなの?」


 充分だったと思うのに……。


「アキちゃんは良いのよ、ちゃんとマントの扱いは確認した?」


「え……と、あっという間で、その」


 そういえば見れてなかったかも。デモンストレーションなら、素人にもちゃんと見えるようにして欲しいかもしれない。


「もう、しょうがないわね〜。帰ったら、映像チェックよ〜」


 そうでした。それが本来の目的ですね。確かにあれと同じなんて僕には無理だ。せめて闇のベールを使うような事態にならないように祈っておこう。

 その後、街の中で食事をする事にした。中々豪快な肉料理が出て来た。でもやっぱり、塩辛かった。


「う〜、日本食に慣れてると、この味はきついわね〜」


「うん。こういうのを大味って言うのかな? おやつが無かったらきついよ」


 僕の台詞に、横から蒼史が何か言いたげだった。


「良いですね。私たちは持ってきませんでした」


 紅芭さんが涙目だ。後で渡すよ、と言ったら、嬉しそうにしっぽを振っていた。スパイシーなのは大丈夫でも、ただ塩辛いのはダメだったみたいだ。


「かたじけない。催促したみたいで……」


 蒼史が真面目にそんなことを言って来た。


「気にしないで、殆どマリーさんの手作りだし」


 大量に持ってきて良かった。持ち運び専用の収納スペースに入れて来ておいたのだ。皆で旅行ならおやつはあった方が良いと思って詰めて来たが、ちょっと持ってきすぎたかと反省をしてた。でも、この調子なら大丈夫そうだ。後で僕の部屋で食べる事になった。


 夜も白み始めて来た頃に、僕達は蒼刻の館に戻って来た。よく遊んだのではないだろうか。


「良かったわ〜、準備はしておくものね〜」


 マリーさんもお腹がすいてるみたいだ。


「うん、サンドイッチもあるよ」


「本当ですか? 助かりました、ね?」


 紅芭さんが嬉しそうに、蒼史に微笑みながら同意を求めた。どうやら、我慢していたみたいだ。


「ふむ、助かった。どうもこう、味が合わないのは珍しいんだが」


 蒼史もホッとした表情で、しっぽも上を向いて揺れていた。


「サンドイッチがあるなら、無理して食べるんじゃなかった」


 レイはちょっと不機嫌だ。まだ何日かあるから、どうしようとブツブツ言っている。


「いざとなったら、厨房を借りるしか無いわね〜」


 マリーさんが真剣に検討していた。部屋について早速おやつの時間に……あれ? 部屋で震えている女の従業員がいた。


「どうしました?」


 少し近寄って僕が声を掛けたら、僅かにこっちを見た、が口がきけないくらい怯えた表情をしている。


「アキちゃん、ベールを掛けてっ! すぐよっ!」


 よくわからなかったが、闇のベールを彼女に掛けた。すぐに朝日が差し込んで来た。


「あの、大丈夫ですか?」


「…………」


 何か口に仕掛けたけれど、緊張がほぐれたせいかそのまま気絶した。何だったんだろう? 


「カーテンを閉めて、他の従業員を呼んでくるわ〜。アキちゃんはそのまま待機よ」


 マリーさんが指示を飛ばしている。


「うん、分かったよ」


 紅芭さんがカーテンを閉め、マリーさんが他の人を呼びに行った。


「ここで何かあったみたいだね」


 レイが指をさしている先には、テーブルの上にあったはずの僕の食べかけのクッキーが、ジュースの中身と一緒に床にあちこち散らばっていた。おかしいな、こんなに散らかした覚えは無いんだけど。よく見るとベッドサイドテーブルの近くに空のグラスが転がっていた。


「そうですね、彼女は吸血鬼族のようですし」


「え、じゃあ朝日に当たったらまずいんじゃ……」


 あ、聞こえないんだった。この中からは声は届かない。便利なんだか不便なんだか。暫くして観光協会の半分首が千切れた役員がやって来た。これで三回も会ってる。忙しい人だな。いい加減名前を覚えようと思うが、どうしても覚えられない。何でだろう?


「えーと?」


「あ、アキちゃんこっち側半分だけ捲ってみせて〜」


 僕は言われた通りに窓とは反対側を捲ってみせた。


「おお、死神様でございましたか。大変お手数をお掛け致しまして申し訳ございません」


「いえ、僕は死神ではないです。彼女は大丈夫ですか?」


「ええ、拝見をさせて頂きます。おお、これが死神様のマント……」


 何やら感動している。


「ふむ、手に聖なるものの火傷の後がある意外は、これと言った外傷は無いようですな。しかし、この床に散らばったものは一体……このように聖なる力を持った物がこんな所にバラまかれるなど……こんな悪戯は許されませんぞ」


 眉間の皺がこれでもかと寄った顔をベールの外に向けたが、誰も反応しなかった。そりゃ、僕の部屋だし。


「僕が出るときはこんな事にはなってなかったよ?」


 僕が反論すると、にこやかにこっちを向いた。なんだか変な気分だ、明らかに態度が違いすぎる。


「と言いますと?」


「ここを出るときはちゃんとテーブルに置いてあったから、こんなに散らかしてなんて無かったし。帰ってきたら食べるつもりだったから。こんな事されたら困るんだけど……」


「彼女の手の火傷具合からしたら、謝って触ってしまったのかもしれないね」


 レイが役員の横から覗きつつ言った。


「ふむ、確かにあり得る。とにかく、彼女を地下室に運び、気が付き次第詳細を聞かないと」


 どうやら、役員もその事に気が付いたみたいで、急いで移動する事になった。

 困った事に、僕じゃ運べないので、マリーさんが運んでくれた。意外にも、僕の手を離れても消さない限り、ベールはしばらくそのまま使えたりする。役員が貴方が死神様でいらっしゃいましたかと聞いていたが、マリーさんは違うわよ〜、とだけ答えていた。

 レイはサンドイッチが……と、ちょっぴり名残り惜しそうだった。伊奈兄妹も、それにちょっぴり頷いていた。うん、分かるよ。ごめんね……こんな事ばっかりで。

 暫くして、気絶していた女性の従業員が目を覚ました。

 どうやら出かけている間に掃除と、ついでに悪戯の仕掛けをちょっとするつもりだったのだが、片付けの際に謝って躓き、テーブルにぶつかって上に置いてあったグラスが中身をぶちまけながら転がり、クッキーの袋が落ちたらしい。

 慌ててクッキーの袋を掴んで拾い上げたら、調度ジュースの中身が掛かっていたみたいで、火傷をしてしまったようだ。

 火傷の痛みで放り投げたクッキーの袋は宙を舞い、中身が周りに散らばり、悪い事に聖なる物に触れたショックでしばらく気を失ってしまったらしい。僕達のドアを開ける音で気が付き、周りを聖なる物に囲まれ、見れば朝日が昇り始めていて恐怖で動けない状態に陥っていたら、マントを掛けてくれたとの説明だった。


「間に合ってよかった」


 蒼史が真剣な表情を見せた。確かにもうちょっと遅かったら酷かったよ。それにマリーさんの声が遅かったらと思うと……良く気が付いたと思うよ。本当にギリギリだった。


「本当ね〜、危なかったわ」


「ごめんね、危ない物だって思ってなくて……」


「ここのアンデッドにも効くんだね。火傷までするんだ」


 レイが不思議そうに言った。確かに、ただのクッキーだし、ただのジュースだ。そんな効果があると思ってなかったよ。霊泉の効果が入っているからかもしれない、僕達には普通でもこっちでは違うんだきっと。


「どうやら、悪戯ではなかったと分かりましたので、どうかお部屋の方を片付けて頂いてもよろしいでしょうか? あれを触るのは我々では少々……」


 半分首なしの役員の手がゴマをするときの手合わせの形になっていた。


「そうね〜、仕方ないわね」


「良いけど、今度厨房を借りてもいいかな?」


 レイがすかさず交渉を始めた。


「はあ、どうなさるのでしょう?」


「うん、まあちょっとね」


 さすがにレイでも食事が合わないのを直接に言うのは憚られたみたいだった。誤摩化し笑いをしつつ、僕達は部屋へと戻った。

 マリーさんと僕で片付けをし、その間に紅芭さんが僕達の持ってきたおやつの中身を出して、蒼史とレイが確かめていた。余程お腹がすいてたのかな? 取り敢えず皆で食べてから、今後の食べ物の確保は必須だと改めて確認していた。


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