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73 見合い

 ◯ 73 見合い


 ナリシニアデレート神殿で、ゆっくりと温泉に浸かってヴァリー達が帰ってくるのを待っていたら、ラークさんが温泉に浸かりに来た。


「やあ、少しはコントロール出来るようになったかい?」


「はい、なんとか間違ってする事は無くなりました」


「それは良かった。ヴァリーもセスカを連れて来るみたいだし、しっかり頼むよ?」


「はい。……ここのお湯は赤茶なんですね」


「そうだよ、あっちには乳白、黄色も少し離れた所にあるよ、楽しんでね? メレディーナと一緒に創ったんだよ、この温泉地は」


「そうだったんですか。良い所ですね」


 道理でアストリューの感じと似てると思った。時々この温泉にアストリューから癒しの力を込めに、神官か巫女が派遣されるらしい。神殿で働く皆の癒しの為に作ったみたいだ。何となく、ラークさん自身も楽しんでる気がする。

 空を竜が飛んで行った。随分大きい……白っぽいからかなり年老いてそうだ。


「そういえば、あの黒いグリフォン達はお手を覚えたんですか?」


「ぶっ、げほっ」


 ラークさんは急に喉を詰まらせたかのような反応をした。


「大丈夫ですか?」


「あれは、そ、そうだな覚えたみたいだな。……妹達はどうも荒事にしか興味がなくてな、どうにか婿を取ってやりたいんだが、さっぱり興味がないみたいで弱ってるんだ。強い人が好いみたいなんだが、あれより強いと言われるとなあ」


「そうですね、何かそんな話を最近聞いた気がする……。マリーさんもそんなことを言ってたかな?」


「そうか、それは会わせてもよいかもしれんな。男か女か?」


「一応は男なんですけど、スカートが好きなので……あ、家事は完璧ですよ?」


「女らしいな、うちと全く逆だな」


「そうなんですか?」


「趣味で自分で家を建ててしまうくらいだよ」


 かなり男前な趣味だ。その他狩りや竜の調教を好んでするみたいだった。なるほど、あの竜は妹さん達が調教をしてるんですね?


「本人達がどうかはまあねぇ……。セッティングだけはしようかな?」


「そうですね。戦ってみたら良いのかもしれませんし」


 そこは戦闘民族の事なんて謎だ。マリーさんにそんなメッセージを入れてみた。二人の顔写真と趣味と好物、そして強い事が条件と書いておいた。マリーさんが嫌なら誰か良い人がいたらご紹介をと……。取り敢えず元部下達を連れて行くと返事があった。


「良かったですね、選り取り見取ですよ?」


 マリーさんと元部下達の顔写真を並べて、ラークさんと笑って話をした。


「なるほどな。……少し進展があると良いのだが」


 何故かお見合い大作戦になってしまった。調度、話がまとまったところにヴァリーとホングが乗った竜が帰ってきた。なので早速、第二皇子のセスカさんの容態を見てみた。魔結晶のおかげかそう悪くはない。少し休めば大丈夫そうだ。毒の後遺症とかは少しは残るだろうけれど、普段の生活ではたいしては出ないと思う。

 翌日には毒出しの薬草を煎じたものを飲ませて療養に入った。ヴァリーとホングもかなり疲れているみたいなので、回復の効果を高める為に軽い薬を飲ませて自室でゆっくり休養を取らせた。植物の力を引き出して作った物だから良く効くはずだ。


「ヴァリーダメだよ、こっちは大丈夫だから寝てないと。明日からは動けるからね?」


「しかし、一日中部屋に籠るなんて……」


「我がまま皇子、ダメだからね?」


 渋々ヴァリーは戻って行った。まあ、心配なんだろうけど、こっちのセスカ皇子はすやすやお休み中だ。起こす方が良くない。ホングは日に焼けてすっかり砂漠の人に見える。厨房を借りて消化の良さそうなものを作り、皇子には食べさせている。あの二人はあまりそういう事には気が回らないから。……道中が大変だったと思う。三日も良く耐えたよ。

 次の日のお昼過ぎに、ヴァリーとホングは見舞いに来た。僕はデザートのすりリンゴ擬きを作っていた。リンゴに似てるけど違う果物らしい。本当はもう大丈夫なんだけど、皇子はこれが気に入ったみたいだった。今度、すりリンゴ擬きのゼリーを作ってあげようと思う。気に入ると思うんだ。ヨーグルト掛けも良いな……。


「顔色が良くなったな」


 ヴァリーはホッとした様子でセスカ皇子と話し始めた。


「本当だよ。アキにも取り柄があったな」


 ホングまでもがそんな事を言う。マーロトーンでもホングの怪我を治したじゃないか。


「むー、酷いぞ?」


「怪我ぐらいは良いが、毒物だからな。ちょっと勝手が違うだろ?」


「まあ、違うけど、もう少し信用をしてくれても……」


 外からものすごい轟音がした。どうやらお見合いが始まったみたいだ。何か雷が落ちたような音がした後は、地鳴りが響いた。振動で家具がかたかたと揺れて中身が倒れそうだ。背の高いものは倒しておいた方が良さそうだ。


「どうした?」


「何があった?」


「神の怒りだ」


「お見合いだよ」


 僕の言葉と同時にまた轟き音がした。何をやってるのかは分からないけど大変だよ。僕は外を見る為に部屋を出てみた。少し先の砂漠が砂嵐のようになっている。竜巻がいくつも出来てぶつかり合ってはバリバリと音を立てて雷が落ちた。ここまで風が届いて目が痛い。

 呼ばれた気がして振り返ったら、一つ上の窓からラークさんが冷や汗を流しながら見ていた。僕と目が合って苦笑いしている。上に魔法で登ってラークさんと並んだ。


「なんだか命がけのお見合いですね。いつもこんな感じなんですか?」


「いやぁ、ここまで、酷いのはなかったと思うんだ」


 口を開くと砂粒が入ってくる。


「そうですか。……グリフォン達が見えるんですけど、大丈夫ですかね」


 あの嵐の中では飛ぶ事はままならないと思うんだ。


「足にするつもりだったみたいだが、あれでは使えまい……」


「時間制限とかはしたんですか?」


「一時間だと短いと言われてな。……三時間程にしてくれと言っておいた。夢中になったら一日と言わず何日でもあの調子だからな」


「うわぁ」


 この状態がそんなに続くのか。……夕食の準備はしておいてあげよう。六時間後、ラークさんの許可を得て砂漠に眠りの魔法を展開した。竜巻が収まってる間に空に闇のベールを広げてから、ベール越しに魔法を飛ばしたので、かなりの広範囲に効いたはずだ。ラークさんと二人で寝てる皆を回収して夕食のテーブルに運んだ。うん、人数は合ってるね? ヴァリー達は寝てしまっていたので放っておく事にした。夕食も終っていたから明日の朝には自然と目が覚めるだろう。


「マリーさん起きて。ご飯だよ?」


「セーラ、ネリート。起きるんだ」


 ラークさんも声を掛けている。


「アキちゃん良い匂いね?」


「良かった起きた?」


 ギダ隊長達も順番に起こして行く。どうやら全員無事に目が覚めたみたいだった。ラークさんが夕食だよ、と言ってみんなに勧めて晩餐が始まった。

 正しくお見合いはこんな感じだと思う……。マリーさんとギダ隊は、顔に痣やらこぶやらを付けている。セーラさん達は余り付いていない。女性の顔を殴るのは、ためらわれたみたいだ。あの状態なのに……。何故か静かな晩餐は、デザートを食べ始めるまで誰も声を出そうとしなかった。


「あの、突然の眠気はなんであったんだ? これからであったのに……。兄上の力なら分かるが違ったぞ?」


 少し名残惜しそうな、悔しげな表情でセーラさんが話し出した。


「もう六時間もやっていただろう……。僕が許可してアキに目一杯眠らせて貰ったんだよ」


 ラークさんが説明した。砂漠だから遠慮無く眠りの魔法を使ってみろ、と言われたのだ。


「邪魔立てされたのか。しかし、倒れる直前まで気が付かなんだ。やりおるな?」


 セーラさんに睨まれて仕舞った。


「夕ご飯が出来てもちっとも帰ってこないし、ラークさんが強制終了だって言うから……」


 迫力の視線に負けて言い訳をした。


「気が付かなかったわ、そんなに経ってたのね〜」


 マリーさんも闘いに夢中だったみたいだ。


「実に有意義な時間であったのに……そうであろう?」


「そうですね。ここからが勝負、という時に眠気が来ましたからね……」


 ギダ隊長のちょっと恨めしげな視線が来た。まだやる気だったんだ? 意味が分からない。でも、二人対ギダ隊長以下の隊員とマリーさんだったんだよね?


「地竜も従えていたのね〜、面白かったわぁ」


「当然だぞ? グリフォン達はまだ修行不足だ。この前捕まえたところでな、これからだったんだ。調度良いから連携を覚えさそうと思ったんだが、そんな事はさせて貰えんかったな」


 からからとネリートさんが笑っている。なるほど、竜族を従えてたのか……。


「最初はその程度かと思って油断したが、そういう理由だったか」


 ギダ隊長も楽しそうだ……。話の内容がちょっと違うだけで、これはなかなか良い感じではないだろうか?


「しかし、そちらの装備は頑丈だの?」


「勿論、あたしの手作りよ〜」


「そうであったか、良い作り手であるな」


「この靴下と靴は中々良いですよ、汗が溜まらないのは助かりますよ」


「アキちゃんとの合作よ〜」


「ほお、お主は眠りの術だけでなく、作り手でもあったか?」


「そ、そうなのかな? マリーさんが殆どやってるんだ。僕じゃないよ……」


「もう、謙遜しないの〜。ちゃんとこの蒸れない効果はアキちゃんの力でしょ〜」


「う、うん。そこは頑張ったよ」


「良いの、是非試してみよう。何処で手に入るか?」


「あら〜、今回の記念に差し上げるわ〜」


「それは有り難いぞ。また近々決着を付けようではないか」


「受けよう」


 ギダ隊長が答えた。


「勿論よ〜、こんな中途半端じゃ気持ち悪いもの〜」


「良い友が出来た」


 ネリートさんが笑っている。


「良い出会いであったぞ、兄上」


 セーラさんも楽しそうだ。


「そ、そうかい、良かったよ」


 どうもこれはまた戦う気みたいだね、もしかして会わせてはいけなかった? 僕とラークさんは目を合わせた後に小さく溜息を付いた。それでもセーラさんとギダ隊長は良い感じに見えるし、ネリートさんとマリーさんは楽しそうにも見える。……まあ、趣味が同じだし、話が合うのは良い事だ。進展がある事を願おう。


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