70 活動
◯ 70 活動
アストリューでポースと紫月の歌デビューが、今から行われる事になった。心無しかポースも緊張気味だ。だけど、宴会場に入って酔っぱらいの歌を聴いてからは大丈夫だったみたいだ。
「アキ、今日は着物か? 桜の花か綺麗だな……もう時季だな」
「そうだね、宙翔。今日の人数はかなり多いね?」
「そうなんだ。最近は暖かくなって来たし、ここの庭は広いしお茶室も障子を外せば、庭が綺麗に見えるからな」
「そうだね。ナザレさんも奥さんも来てるね」
「知り合いか? 最近、良く来てるぞあの二人は」
「うん、ナザレさんは神殿で働いてるんだ」
「そうだったのか。アキの知り合いだったのか」
「うん、日本庭園風な庭を造るのに、宙翔のお父さんのところに案内してあげたら、すっかり仲良くなったみたいなんだ」
「ああ、良い酒を紹介したら、かなり気に入ったみたいで良く来るよ」
「そうだったんだ。今日はポースが歌を歌うから僕は応援で踊るんだ。良かったらみんな踊ってくれて良いからね?」
「それは楽しみだな……。ポースってあの本だろ?」
「うん、魔導書だよ」
「へえ、歌う本か。なんかいいな」
そんな感じで宴会は続いて、ポースと紫月は歌を歌い始めた。僕とスフォラとマリーさんは思い思いに踊って会場を盛り上げた。途中から皆も踊り出してくれたので、ポースは機嫌良く何曲も歌った。
酒が廻りすぎるとか、汗をかいて酒が抜けたとか色々言いながらも、楽しめたみたいだ。ポースはすっかり人気者になった。皆に酒を勧められてたが、本に水気は御法度だと言いつつ、酒の臭いを嗅いでいた。ポースの五感はどうやって分かるんだろう? 謎だ。
「大成功だったね」
「そうね〜、良かったわ。衣装も好評だったし〜」
「うん、宙翔も綺麗だって言ってたよ」
「本当〜? 嬉しいわぁ」
マリーさんもちょっとほろ酔いみたいだ。
「ポースもすごく褒められてたね、また歌ってくれって言われてたし」
「俺様の歌が分かるんだ。良い連中だ。しかし、良くあれだけ飲めるもんだな……何処に入ってるんだ?」
皆が帰った後、僕達は今夜の歌と踊りの感想を言い合った。取り敢えず、酒の肴にはぴったりだったんだろう……。光は抑えめにしてスモークと闇を引き立てる感じで演出してみたから、夜の雰囲気は壊れなかったはずだ。砂漠で何となく、夜には夜の美しさがあると思ったからだ。
ポースはこれ以降、時々宴会に呼ばれるようになった。まんざらでもなく、ポースはいそいそと出かけるようになった。着実にファンを獲得しているみたいだ。時折ステージの演出を手伝いに行っている僕も、少しずつ経験をしている。
「二人でこそこそと何をしてるのかと思ったら、ステージって何?」
ある日、レイが腕を組んでイライラとした感じで聞いて来た。
「あー、サプライズにする予定だったから……」
「そうよ〜、聞いちゃったらサプライズじゃないわ〜」
マリーさんも焦っている。
「気になるじゃないか〜。僕も混ぜてよ〜。そんなに楽しそうにして、酷いよっ、黙ってるなんてっ!」
地団駄を踏んで抗議された。
「う、わ、分かったよ内緒だよ?」
「仕方ないわね〜」
僕達の計画を打ち明けた。
「そんな楽しい事に僕をのけ者にするなんて、酷いよ〜っ! 紫月に歌を教えたのは僕だからねっ!?」
涙目で睨まれてしまった。確かにレイはお祭り好きだし派手好きだから、こんな話には噛んでないと怒るかもしれない。
「うん、分かってるよ。あう、わ、かったよ。レイにも参加して欲しいな? ポースも歌が上手だからね、一緒にステージに上がるんだ」
僕は色々と説明をした。
「ふうん。じゃあアキがプロデューサーで、ステージ演出ってこと?」
「マリーさんが衣装だよ」
「じゃあ、マネージャーとかはボクだね?」
「そ、そうだね」
「じゃあ、早速練習を見せてよ?」
「うん」
「ステージはもう済ませたとか言う?」
「それはデビューってこと?」
「一応は済んでるわ〜」
「酷いよっ自分達だけ楽しんでっ! のけ者にするなんて……泣いちゃうから」
既に泣いてるし……。ものすごく怒られたし拗ねられた。情報統制されてたとか、こんなにボクに内緒にするなんて、と色々と愚痴を言われた。
「ごめんね? でも、本格的なのはまだだし……今のところは宙翔の家の宴会ぐらいだから」
「ライブで廻ってるんだね?」
「そ、そうとも言えるね」
「アキは情報の発信源なのかもしれないね……」
涙をマリーさんに拭いて貰いながら、レイは良く分からないことを言った。
「それはそうかもしれないわね〜。情報を追いかけるんじゃなくて常に中心地?」
「そんなことないよ。話題はポースと紫月だよ」
「気が付いてないところがダメなんだけどね……」
「そうね〜。まあ良いんじゃないの? マネージャーとして頑張ってね〜」
「そうだね、アキの癒しの力を使って何か出来そうだけどな……」
「まだコントロールが出来てないわ〜」
「コントロールしなくていいところだよ……戦地後とかね、強制的にでも立ち直ってもらわないと困るところに送り込むのもありだからね」
「そういうのだったら分かるわ〜」
何やらレイとマリーさんが話し込み出した。取り敢えずはレイの機嫌が直ってくれたみたいだから、良しとしよう。




