66 報告
◯ 66 報告
夢縁の基礎授業も随分進んだ。早い人だと闘気を使って戦ったりしてるみたいだ。マリーさんが言うには霊気で包んで闘気を逸らせる人も中にはいるらしいが、僕の気の力じゃ逸らすまでの強さが足りないので無理だと言われた。どうみても霊気一種類の特化型ならしい。
マリーさんはバランス型で、どれも器用に扱えて新人を教えるのは得意だと言っていた。でも、どれか一つ飛び抜けてる物がないのよ〜、と恥ずかしそうに言っていた。でも全部使えるという事が、既にすごいんじゃないだろうか?
「加島さんは何が得意なんですか?」
明石焼なる食べ物を突つきながら、加島さんと話した。出しに付けて食べるみたいだ。上品なおやつだな……?
「さあ、なんだろうな」
「……僕も何か良く分かりません」
「鮎川はこれからだろ? 出来る事を伸ばして行けば良いんだけど、僕は得意という物がなかったなと思うよ。派閥争いに破れて放り出されたからね。……誰も拾わなかったという事は、何も取り柄がなかったんだろう」
俯き加減でタコの味を噛み締めながら、加島さんは寂しそうに言った。
「そうなんですか? 白のブレザーを着てるじゃないですか? それだけでもすごいって聞きましたよ?」
「ああ、これか。……これは金で買ったみたいなもんだよ。有料の授業に単位込みのお金を払うところがあるんだ。昔はなかったみたいだけど、最近はみんなそれを使ってこのブレザーを着るんだ」
「そんな授業が?」
「そうだね。英才教育以外の金枠生は100%それで単位を得てるよ」
そういえばそんな事を、沖野さん達が入った頃に言ってた気がするな。
「へえ〜、加島さんは普通枠ですよね?」
「ああ、金枠だったんだよ。家を出たから半年前から普通枠になったんだ。弟にやられたんだよ。……情けないけど仕方ない。僕はそれほど家督とか欲しいと思ってないから良いんだけど、まさかここでの繋がりも綺麗に持って行かれるとは思ってなかったよ。金枠というステータスしか皆、見てなかったんだな。誰一人僕を見てる奴がいないって知ったら、今までのものが急に虚しくて自分が価値ないものに思えて……ずっと図書館にいたんだ。まあ、やっと自分の中で整理が付いてきたところだよ。人に会うのも怖いくらいだったんだ、最初はね」
「家を出たんですか? ……大変だったんですね。でも、あんなに本を読んで、後輩の面倒を見てくれてるし、すごくいい人じゃないですか。……周りの人を入れ替えないとダメな時があるって友達も言ってました。環境の方が合わない時だってあるって」
ホングがそんな事を言ってた。それが家族だとかなり苦しい思いをしていそうだ……。
「……ありがとう。気を使ってくれてるんだな。確かに悪い事をした覚えはないが、合わない時は合わないんだたとえ兄弟でも。向こうの方が覚悟があったんだろう。金枠を外れて分かったのは、実力が全くない事に気が付けたぐらいだな」
少し照れたように笑ってから、直ぐに顔を背けてその照れを誤摩化していた。
「……それは気が付けて良かったんじゃないですか? 外に出てからだと困る事ですし」
「ああ今頃、基礎からやり直しだよ。単位を買うのが常識で、悪いと気が付いてなかった僕が悪いからな」
「頑張ってるんですね」
おすすめの講師を聞かれたので、眠りの術の講師を言ったら笑われた。
「基礎の基礎だぞ? 誰も聞きに行かないだろう?」
確かにいつも空いている。
「でも、眠りの耐性が付いて、眠りの術が出来るようになりました」
「……それは意外と価値があるかもしれないな、そんな効果があったとは。あれを真面目に受ける奴がいるなんて思ってなかったよ。単位にならないし」
苦笑いで返されてしまった。でも、時々良い授業をやってるよ? 魔法陣を自分で書けるようになったりとかお守りも作れるし。……良いと思うんだけどな。まあ確かに、金枠の生徒には人気はなさそうな講義だと思う。地味で退屈な事が多いから。
……授業内容より、眠気との闘いこそがあの講義の真骨頂な気がする。次はスイーツの店に行く事を約束してから加島さんと別れた。
怜佳さんから連絡があったので、アストリューに戻ってから画面越しに会った。最近は警戒態勢中のため忙しいみたいで、お茶会が出来ていないみたいだ。気を抜く時間も惜しいみたいな感じで大変そうだ。
それで、夢縁の組織を使って妨害をしていた人物が分かったそうだった。それで呼び出して聞いたら、下っ端が群れるのは面倒だから、という答えが返って来たらしい。数を揃えて群れて行動されると厄介だから、という良く分からない答えだった。普通枠の人でも人望がある人が現れて、組織をひっくり返す様な力を持たないように、制限を掛けてたつもりのようだった。
「そんな事の為にこんな手間をかけてたんだ」
僕にはその価値が分からなかった。
「ええ、そのようね。……成り上がる人はそれを妨害しても成り上がるから、見逃して欲しいと言われたわ。でも、私の意向は推奨なのよ。学園の組織、職員を使っての妨害は認められないわ。だから断っておいたの。これからは夢縁の組織では、あの依頼は受けない事になったわ。あんな怪しい依頼書も作れないようにして、協力者は辞めて貰ったの。ああいう小さなところから綻びが来るのね。油断ならないわ、全く」
「そうだったんですね、でも分かって良かった。……今回から食べ歩きには、一人参加してくれてるし。今日は明石焼を食べに連れて行って貰いました」
「あら、たこ焼きの一種だったかしら?」
「良く知ってますね、出しに付けて食べるたこ焼きみたいな形の食べ物で、美味しかったですよ」
「いつの間にそんな物が夢縁に入ったのかしら……食べてみたいわ。また連れて行ってね?」
「はい。そういえば、今日はお金で単位が買える講義の存在を聞きました。英才教育コース以外の金枠の生徒は、100%それを受けてるって……いう、のを……」
怜佳さんの表情が、段々怒りに溢れて来ていた。
「何の為の学園だと思ってるのかしら……今直ぐ廃止よ。追い出してあげるわ」
さすがに双子の姉妹だ、怒った表情が似ているかもしれない……。
「でも、今はその人は実力がない事に気が付いて、基礎からやり直してますよ?」
慌てて僕は言った。
「そう、心を入れ替えたの? いいわ、実力テストをしましょう。……学園内の生徒を一斉に、いいえ講師も全員よ!!」
どうやら、基礎以外の生徒に実力テストを、義務で受けさせる事になったみたいだ。テストに不合格になった者は問答無用で降格処分にする、と息を巻いて怜佳さんは説明してくれた。これは大事になったな……。実施は一ヶ月後だ。それまでに足掻く人は足掻くでしょ、と怜佳さんはにっこりと笑った。きっとその姿をこっそり覗くんだと思う。




