65 共同
◯ 65 共同
気が付くと三月に入っていた。妹は合格発表が近くなったせいでそわそわしている。マリーさんに貰ったピンクの服を来て家の中をうろうろしていた。卒業式も近いし、色々と準備をしているみたいだ。
「お兄ちゃん、また可愛い服来てるし……ずるい」
頑張って可視化出来るようにはなっているが、まだ半透明だし五分が精々だ。
[ずるくないよ、これはフリーマーケットでの見本だったんだ。折角作って貰ったから着ないと……]
「んー? 何かお兄ちゃん、スカートはいても良いみたいな感じだよね?」
[綺麗からたまには着ないと……]
「何か洗脳されてそうな気がするよ? 前はそんな事いってなかったし」
[そうかな……?]
そうだったっけ? そういえばあまり着てなかったかもしれない。
「まあ良いけど。私にも可愛いブーツが欲しいな、お兄ちゃん」
どうやら、ブーツが欲しかったみたいだ。うん、女の子だな……。
[その内ね……]
「サイズは23センチだよ? 覚えた?」
上目遣いに首を傾げつつ聞いてくる。同じサイズか……。
[わ、分かったよ。覚えたよ]
なんだかせがまれてる気がする……。僕が作って渡すのもありかな? でも靴の作り方が分からない、今度調べてみよう。妹の靴を履いてみら、ちょっときつい。レディースの靴だからだろうか、少し小さめに作れば大丈夫だろう。
自分の部屋からアストリューに戻って靴の作り方を聞いてみたら、靴は修行に何年間か掛かると言われた。そっか、すぐは出来ないのか。今回はマリーさんに妹のブーツを頼んだ。
「これから履くなら、ブーツじゃなくて普通に靴の方が役に立つわよ〜。暖かくなるんだしぃ、まあ良いわ、お洒落なブーツを作ってあげるわ〜」
「ありがとう」
「靴作りは楽しいわよ〜、アキちゃんも覚えてみる?」
「うん、そうだね、覚えてみるよ」
趣味があった方が楽しそうだ。マリーさんに話を聞いた。
「そうね〜、どうせなら疲れを回復させる物とか、飛ぶ効果の付いた物とか作れるわよ〜。アキちゃんの力を込めたらね」
「そうなんだ?」
「そうよ〜、あたしのは強い生地を作るのよ、防護にとても良いのよ〜」
マリーさんも飛ぶ靴を作れると思う。
「じゃあ、僕が頑張ったら、蒸れない靴とか作れるんだ?」
「あらぁ、それは良いわね。大事だわ〜、頑張って作りましょ〜」
パッとマリーさんの顔が笑顔になった。
「うん、頑張るよ」
マリーさんが蒸れない靴を一緒に開発しましょ〜、と言って一緒に作る事になった。どうやらマリーさんが欲しいらしかった。試行錯誤し、良い物が出来そうだった。革をマリーさんが丈夫にし、僕が蒸れないように中から蒸気を通してしまうように力を込めた。外からは水が入らないようにするのも忘れない。
第一号はマリーさんが試しで履いて出かけた。中敷きの水分が一番溜まるので、一番気を使って力を込めておいた。多分履き心地は良いと思う。ブーツがこんなに蒸れるのは履かないと分からないと思う。
「出来れば、スニーカーぐらい履き心地が良いと良いんだけどな。衝撃を吸収するとか、そういうクッションが入ってると足も痛くなりにくいのに」
僕が履き心地を考えていたら、マリーさんが汗だくで帰ってきた。何してきたんだろう。
「汗だくですね……」
「ちょっと走って来たのよ〜」
「そこまで汗が流れてたら、蒸れるのはどうしようもなさそうですよ?」
蒸れるというよりもびしょ濡れだ。
「ん〜、でもかなり良いわよ〜? 汗が靴の中に溜まるのを防いでくれてるわ〜」
「本当ですか? 履き心地は悪そうですよ?」
「それはこれだけやったら仕方ないわ。でも、気持ち悪さがかなり少なくなったわぁ、良い感じよ〜」
「そうですか?」
「大丈夫よ〜。後は最適な湿度を保つように、積極的にしていきましょう〜」
積極的の意味はすぐに分かった。靴の中に汗が溜まる前に早く外に蒸気として出すところまでやったのだ。やりすぎない程度にだけど……。ついでに靴下にも同じ効果を付けて作った。ダブルの効果でかなり快適な足下が完成した。マリーさんは満足そうだった。
アストリュー時間で一週間、頑張ったと思う。出来上がった物をマリーさんは元部下達に試して貰って、感想を聞きに行ってしまった。どうやら伊奈兄妹のところにも向かったみたいだった。好評だった。
その後、管理組合の通販のところに売りに出したら、靴下が沢山売れた。靴は時々売れた。マシュさんが靴下をかなり気に入ったのか、沢山買っていた。
「蒸れないのは大事だ。足が臭くなりにくいのはもっと大事だ」
力説してくれた。なるほど確かにその通りだ。靴は今のがあるから壊れたら買うと言っていた。オーダーするからもっと機能をあげておけと言われた。回復効果を付けてみるよと言ったら。
「むくみが取れるのは大事だ」
と、言われた。なるほど、むくみ取りですね? 了解しました。
「あたしには分からないわ〜」
……そうだね、筋肉痛もむくみとも縁がなさそうだよね、マリーさんは。
「僕も良く分からないから、マシュさんに聞くよ」
「そう? 良い効果を付けましょうね〜」
「うん、頑張るよ」
むくみ取りの効果の靴下はマシュさんに試して貰った。嬉しそうだったが、注文がめちゃくちゃ多かった。僕の中の何かが鍛えられた気がする。
でも、良い物が出来たと思う。水と回復効果を総動員して、むくみ解消効果を付ける事が出来た。くるぶしから下は汗を飛ばす効果を大きくして、それより上のふくらはぎあたりは特にむくみが起きにくいようにする効果を高めておいた。二つの機能の付いた靴下は女性には良く売れたみたいだ。でももうしばらくは、靴下は見たく無い……。
「紫月……ありがとう僕の為に歌ってくれてるんだね?」
僕が落ち込んでいたら、紫月が優しく歌ってくれた。良い子だ。最近余り構ってなかったのに……うう、ごめんね? 猫紫月を抱きながら僕も一緒に歌ってみた。
「アキ、歌はもっと楽しくだよ?」
「うん、楽しくだね?」
「ポースが言ってたよ」
「そっか、ポースが。最近また神殿に行ってるみたいだね」
「うん、本を出すから出来上がったら見せてくれるって。アキ、読んでね?」
「うん、読んであげるよ」
絵本を読んであげたりしてたから、多分それでだと思う。今度はポースの物語か……どんなものが出来るんだろうか?
「アキ、火はダメだよ? メッするよ? メッ」
紫月が魔法の効果を物に込める話を聞いて、ダメ出しをしている。
「うん、分かってるよ。使わないよ。料理以外はしない約束だね」
「料理とちがうのはメッするからね?」
「うん、ありがとう。紫月のおかげで怖くないよ」
「ほんと? 火は危ないから使っちゃダメだよ?」
僕が火を付けようとする度に妨害してたみたいだ。……どうやら、カシガナでいた頃の火事を覚えてるせいみたいだ。道理で煙が出る訳だ……。
怖がってるのは紫月だと思うけどまあ、問題ないかな。実際料理以外は使いそうにない。家で火事が起こる事はなさそうだ。紫月が片っ端から消して行くから。
紫月本人は使えてるみたいだけど、僕には使わせようとしない。危なっかしいみたいだ。料理で使うのに許可を取るのが大変だった。アストリュー内の何処でも使ったらバレるし、紫月との繋がりはどうやらばっちりだと分かったが、僕にはその繋がりが感じられてないみたいで……まだまだみたいだ。妖精である紫月が、あちこちのカシガナからの情報を受け取ってる、紫月の力が明らかになっただけだった。




