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6 序盤

 ◯ 6 序盤


 夕食が終って、部屋に戻った後は着替えて街に出る事になった。僕は夕食が口に合わなかったので、持ってきていたおやつをカバンから出して口直しに少し食べた。マリーさんの手作りカップケーキだ。家の庭で採れたハーブを入れたクッキーもあった。ジュースも持ってきていたのでグラスに移して少し飲んだ。そこに、皆からスフォラに準備が出来たと連絡が入った。


「皆様、ご出発の準備が出来たようですので、参りましょうか。本日は中央広場でイベントがありますので、そのお時間は良ければそちらの方に向かうと楽しめますよ」


 カミルさんが馬車の前で待ち構えていた。


「そういえば、そんな事が書いてあったね、オオカミ族の変身を披露するとか人魂のダンスとか」


 そんな、人魂になってまで踊らなくて良いよ。充分そのままで怖いから。全員が馬車に乗り込んで出発した。


「ええ、今宵はまた別の催し物でして、死神の学校の生徒さんのデモンストレーションです」


「ふうん、そんな事やってるんだ?」


 馬車は館を出てゆっくりと街の中を進んでいる。


「調度良かったわね〜、アキちゃんじっくり見るのよ〜」


 マリーさんに頷き返して、カミルさんの説明をまた聞いた。


「なんでも、成績優秀者の方達のデモンストレーションですから、この街の人達も応援に熱が入ります。たまにやんちゃな生徒が混ざってたりしますが、学園長が厳しい方ですのでそういった生徒はすぐに降格処分にされます」


 カミルさんは楽しそうに話を続けている。ここの近くに死神の学校があるのが余程嬉しいらしい。


「良い学園長なのですね。住民の皆が慕っているのが伝わります」


 紅芭さんがカミルさんに話しかけていた。


「その通りだな」


 蒼史も同じ意見みたいだ。確かに、話しを聞く限りそんな印象を受ける。


「ええ、その通りです。明後日から死神学校の体験学習がありまして、その為のデモンストレーションも兼ねてます。もし興味がありましたら是非、そちらも申し込みをされてみて下さい」


 少し照れながらもカミルさんは嬉しそうだった。


「それはもう、申し込んだわ〜」


「おお、そうでしたか。これは余計なお節介でしたな」


 カミルさんは上機嫌で馬車を走らせていた。テーマパークは程々の灯りが灯っていて意外に綺麗だった。ただ、道行く人々がお化けなだけで……僕にはその事が問題だ。


「皆死んだときの姿のままで居るんですね」


 疑問だったので聞いてみた。


「ええ、その記憶が一番強烈に焼き付いているので。今では傷があって当たり前になってます」


「そ、そうなんですか」


「アキは死んだ事にも気が付かなかったからね。仕方ないよ」


 レイの目には悔しさが混じっていた。やっぱり気にしてるんだ。


「うん」


 苦しくなかったのは、レイ達のおかげだし感謝してるよ。隣のレイの手を握っておいた。照れから窓の外を見ていたら、首を片手で抱えた騎士の格好の人が、馬車の隣を骸骨な馬に乗ったまま駆け抜けた。すれ違い様に目が合ってしまった……。


「大丈夫? 顔色悪いよ」


 レイの声が聞こえた。多分、大丈夫。大分慣れたよ、気絶しないくらいには。取り敢えず頷いておいた。

 町外れに来ると廃墟な建物が目立ち出した。散策すると、ぼんやりと消えかけの幽霊達が物陰から覗いていたり、浮遊した霊に囲まれたり後ろから足音だけが聞こえたりと色々楽し(?)まされた。疲労困憊気味なのは恐怖との戦いによる精神修行のせいだ……。いや、驚いた時の気を取られているせいとも言う。


 目に溜まった汗を取り除き、辺りを見回すと一人だった。

 皆、僕を置いて何処かへ行くなんて酷いよ。スフォラに紫月までどこに行ったんだろう? すっかり迷子になって如何にも怪しげな沼の近くに来てしまった。

 その沼が人魂のゆらゆらした光で照らされた。見てはいけないのに視線がどうしてもそっちに向かってしまう……沼から手が出て来た。岸に上がる為にぐっと力を入れて、沼から何かが出てこようとしている。ドロドロの何かが見えた。腐敗した強烈な匂いと不気味さにあっさりと気絶した。


「お客さん困りますよ、こんな序盤で気絶したら。後がつかえてるんで起きて下さい」


 ゾンビに叩き起こされた。顔には目を合わせる為の目玉は入っていなかったが、代わりに変な虫が這い出ていた。また気が遠くなりそうだったが、言われた内容が気絶するのをなんとか防いでくれた。


「すみません。順路は何方でしょうか?」


「あっちだよ、気絶はもうするなよ?」


「はい…」


 何とも気まずい話をしながら、取り敢えず進む事にした。

 森の中に進むと透けた手が無数に追いかけて来て、夢中で逃げてる間に持っていたランプを落としてしまった。

 暗闇の中を転びながらも走り抜けたら、壊れかけの屋敷が見えたので取り敢えずその中に逃げ込んだ。灯りが無くて見えなかったのでライトの魔法を使おうとしたら、誰かに肩を掴まれた。



「アキ? ダメだよ、光をあんなに放ったら……ここの住人は強い光が苦手なんだから」


 レイが倒れてた僕を覗き込んでいた。後ろにマリーさんもいた。何の事か分からずに聞いたら、フラッシュを焚いたみたいに一瞬強烈に光ったから、何事かと思って見に来たらしかった。どうやら突然の光りに近所の住人達が怖がっているみたいだった。


「ごめん。森でランプを無くして。ライトを付けようと思ったら、後ろから肩を掴まれて……。驚いちゃって」


「タイミングが悪かったのね〜、あんなに強烈な光をアキちゃんが普通で出せるはず無いと思ったもの」


「そうだね、力を込めすぎて倒れてるみたいだね。起きれる?」


 どうやら、驚きと共に力を込めて光を放ってしまったみたいだった。そういえば体が痛いし、だるい……どうなってるんだろう。なんとか起きようとしたが、天井が回る。


「無理しないで。もう少し寝てた方が良いわ〜」


「住民に話をしてきてくれる?」


 後ろにいた住民代表らしき人にレイが話しかけた。


「そうね〜、もう大丈夫だし」


「何かごめんね」


 レイ達も楽しんでたはずなのに……。


「いいよ。アキがゾンビに叩き起こされてるのは傑作だったよ」


 思い出し笑いをしながらレイがこっちを見ていた。人の悪い笑顔が浮かんでいる。


「う……」


 もしかして全部うしろから見てたんだ? わざと一人にされて面白がられてたらしい。ここの楽しみ方が違ってるよ、皆。


「肩を掴んだ人は大丈夫なの?」


「大丈夫だよ。驚いて森に逃げ込んだけど、ここで屋敷の案内をするはずのオオカミ族の子だから」


「ええ、本当はコースではもう少し先の屋敷だったんですが、お客様の逃げる方向が少々外れてまして……。そこに案内する者が必要でしたので……たまにそういう方が出るので、案内役は配置しておりましたが、まあその、彼もまだ慣れてませんから、どうか穏便に……」


 観光協会の首の半分千切れた役員だった。どことなく、怖いのかびくびくした感じが見える。そんなつもりは全くなかったのだけど……。どうやら、コースを外れた事で役員さんの住居に近かったみたいだ。


「こちらこそすいません。知らずにとはいえ驚かせたみたいで……」


 なんだか僕が悪い事したみたいな気分だ。


「まあ、驚かせすぎた結果だから、仕方ないんじゃないかな?」


「そのようですね。久しぶりにちょろいのが来たと噂になってましたから、皆がおもしろがったのもあるかもしれません。反省してます。それにただの光でしたし、被害は出てませんから」


 ……おもしろがった、それも嫌だけどここはそういう場所だから仕方ない。浄化の光が怖いだけで普通の光はなんてこと無いらしい。僕にはまだ違いが分からないけど、何かあるらしい。


「ちょろい……」


 地味にそっちの方が傷ついた。あのゾンビの人だろうか。しばらくそこで休んでいたら目眩が収まった。歩くのはまだ無理そうだったので、マリーさんに背負って貰いコースに戻り進んだ。


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