63 変換
◯ 63 変換
ヴァリーが神殿に向かうので、僕達も帰る為に一緒に行く事になった。お昼休憩に気になってた事を聞いた。
「結局、話し合いって何してたの?」
「全く聞いてなかったのか? もう少し興味持った方が良いんじゃないか?」
ホングがこっちを呆れた目で見て来た。
「三十人分の料理をずっとしてた。……ホングが変わってくれないからだ」
「あー、そうだったかな?」
直ぐに目を逸らして誤摩化し出した。結局、余り手伝って貰えなかった。ヴァリーの従者もちっとも使えないし、料理人達が戻ってくるまで大変だった。一人一料理ずつ覚えさせるように嘆願したが、ヴァリーは苦笑いしているだけだった。
話し合いは、さっくり言うと死んでくれ、から始まって、幽閉になって、国外追放になって……結局は神の意向を聞いてから、になった。第二皇子も今、神殿に向かってるらしい。
「仲直り出来ると良いね」
「それは難しいな……」
「向こうは毒を盛って来たのだから、とか言ってたからな。……そんな事はした覚えはないが、こちらの誰かがしたのかもしれないし、分からないよ」
「複雑だね、兄弟でも立場とかあったら、シンプルに行かないね」
僕の場合は妹だったけど、それでも家族内の権力的な事も絡んでた気がする。更に国ごと絡んで複雑化してたら僕にはお手上げだ。
行きに乗せてくれた緑の竜と一緒に水を飲んでいたら、二人が空を飛ぶ練習を始めていた。
僕は砂漠を見回して、岩があるのに気が付いた。魔法で飛びながら近寄ったら、飛ぶ練習をしていたあの岩だった。あの時から比べたら、魔法での飛び方は中々の物になったと思う。ふわっと浮かんで、すーっとぐらつかずに飛べて、時間も五分は飛べる。料理中は間に合わない時には魔法で物を動かしてたし、鍋を動かしたりしていたから、動きが良くなってる。
思い出の岩に座って水を飲んでいたら水を零してしまった。岩の中にしみ込んでいく、この岩って水を通すんだ? 驚いた。
そういえば砂漠って地下水が通ってるんだっけ? この岩はそこまで届いているんだろうか? 砂の上に出ている姿しか考えてなかったな……。いつも植物に掛けて悪い箇所を調べる方法で岩をみてみた。形くらいは分かる。
目を閉じて感覚を広げてたら、岩が分かって来た。なんかすごく大きい……あ、下は水? 水に浸かってる。大量の水の感じだ、ここは湖の上なんだ。いや、それとも海かな? 砂漠の砂は波打ってる。風が描く波がうねってる。
不思議だな、なんだか境目が感じられなくなって来た。僕も水も砂も動いてる、ちゃんと存在してるし、そして同じだ。星として生きてる気がする。流れる気を感じる……なんだか誰かが微笑んでる気がする。いつかここにも水が湧き出るかもしれない。……オアシスが作られるんだ。こんなに水に溢れてるんだから。
「…水?」
冷たさを感じて足下を見たら、水に浸かってた。岩がない、どこに行ったんだろう?
「さて、君にはここの水の管理をして貰わないと困るね」
そう言ってにやりと笑う人が立っていた。水たまりを管理って言われても……。直径二メートル、深さ30センチの水たまりの管理? それよりこの人、何となく……。
「えと……どちら様でしょうか」
聞いてみた。
「冗談を躱されて悲しいよ……。ここの神をやってるガーラジークだ、よろしくなアキ」
「あ、はい。よろしくお願いします」
思った通りだった。うん、レイとかメレディーナさんみたいな感じがしたんだよね。でも、威厳全く無しの軽い人だった。うん、取っ付きやすくて良いかもしれない。
「そうかい? それは良かった。ところでここの岩を元には戻せるかい?」
「う、あ、何処に行ったんですか?」
この人もだ。心を読まれてる。
「うーん、無自覚か。危ないなぁ、良いかい? ちゃんと元に戻す事が出来るまで、君はここで修行だよ? 三日後にはまた見に来るから頑張ってねっ。あ、ちゃんとメレディーナには言っておいたから、じゃね」
そんな……また砂漠で過ごすんだ? どうやったかも分からないのに。ヴァリーとホングがこっちに来た。
「何か、ここでやる事が出来たって聞いたから、先に行くな?」
「飛ぶのは難しいな。まだ出来ないから後で教えてくれ、じゃあ気をつけてな」
二人とも十分飛べてるよ……。
「うん、そっちも気をつけて……」
「後で連絡する、じゃあな」
竜に乗って行ってしまった。緑の竜も一緒に行ってしまった。……まずは水に浸かってみようかな? 気持ち良さそうだ。そういえば二人にはこの水の事は全く突っ込まれなかったな、なんでだろう。まあ良いか。二日後、ガーラジークさんは迎えに来てくれた。水たまりは……倍に大きくなっていた。岩は池の真ん中にある。水はそのまま残ってしまい、戻せなかったが笑って許してくれた。いい人だ。
「レイ、来てたんだ」
ガーラジークさんに連れてこられて神殿に着くと、レイがお茶を飲んで待っていた。
「勿論、ずっと見てたよ?」
「そんな、酷いよ」
「酷くないよ、そのままじゃ危ないんだよ? ちゃんと扱えないとダメだし、ちゃんと見守ってたのに」
レイがふくれた頬をこっちに向けて来た。
「そうだったの? ごめん、誤解してたよ」
でもちょっと寂しかった。折角、帰れると思ってたのに足止めされて……。自分のせいだけど。
「砂漠なんてお肌が乾燥しちゃうよ。一日で戻すくらいじゃなきゃ。もう、待ってられなかったよ」
レイが顔の感触を確かめている。
「そうだね。水がどんどん増えて困ったよ、なんとか縮めたけど、無くならなかった……」
大きくなった時は、二十メートルぐらいのプールみたいになってたから随分泳いだし。
「それはあんなに気持ちよく泳いでたら、増える一方だよ?」
「う……」
やっぱりそれが原因か。なんとなく分かってはいたけど、止められなかったんだ。だって冷たくて気持ちいいんだ。
「でもまあ、そろそろとは思ってたからね。物質の変換が出来ればかなり良いところまで来てるよ。魔法でも出来ると良かったんだけどね」
「うん、あれも魔法で出来るの?」
「出来るよ。魔法の方が規模は小さくなるけど。あんな岩が消えちゃったら不味いでしょ? アストリューでカシガナが消えちゃったらどうするの?」
「う、そ、それは困るよ。……危険だね、何か分かったよ」
それは気が付いてなかったよ、確かに大変だ。ちゃんとコントロールしないと危険過ぎる。
「そうだよ。アキがこっちの方が良いなんて思ったら、変わってしまうんだからね? それにそこで管理してる神からしても元に戻して貰わないと困るしね。勝手に変えちゃダメだよ? 自分の創った世界なら良いけど、人の世界なんだからね?」
「うん、分かったよ。気をつけるよ」
そっか、怒られてもおかしくないんだ。ガーラジークさんにもう一度謝った。
「ガーラジークさんすいませんでした。もっとコントロール出来るようになります……」
「怒ってはないよ。まあ、あれが出来るにはここと相性も良くないとダメだからね。その内力を借りる事もあると思うよ? それまでに君のいうように、もう少しコントロールを付けといてくれると良いね。僕の事はラークかジークと呼んで? また遊びにおいで」
「はい、ありがとうございます。また来ます」
いい人で良かった。ここではラークさんは、人々の政治とかには口出しは余りしてなかった。銀の焔は単なる目印だと言う。ヴァリーは出て行っても良いし、残ってここを治めても良いし、好きにして良いみたいだ。ナリシニアデレート神殿を後にして、アストリューに戻る事にした。
「ただの目印でも、気に入ってるという目印だよね」
レイが笑いながらヴァリーの事を言った。
「そうなの?」
「そうだよ。人間で直接話をしても良いのは、銀の焔だけと決まってるからね……。他だと面倒くさいからそうしたみたいだよ?」
「面倒くさい……良いんだ?」
「良いんだよ、自分の世界だし。時々人間に紛れたり、動物になったりして遊んでるんだよあの人」
「そうなんだ」
あの乗りの良さげな感じはそのせいなのかな。
「そうだよ。何でもありだよね、自由な人だよ。メレディーナも見習えばいいのに」
「メレディーナさんも変装してても、なんだかバレそうな気がするね」
「そう?」
「うん、何となく雰囲気から綺麗だから」
「ふうん」
「うん、ラークさんとレイとメレディーナさんは何となく似てる気がしたんだ。外で会っても浮いてそうな気がするよ?」
「それはちゃんと抑えるに決まってるよ」
それなら良いけど。レイがさっきからなんだか機嫌が良さげだ。
帰ったら魔法であれをやるのか。なんだかやる事が多すぎて付いて行けるか分からない。予定よりも大幅に滞在期間が延びたから、仕事が溜まってそうだ。ささっと片付くと良いけど……。




