56 習得
◯ 56 習得
「アッキ……あの眠りの魔法は見事だったぞ。あれじゃ、あの後に何かされても気が付けねぇ。恐ろしい効き目だ」
「きっと講師の人が良いからだよ」
毎回、眠りの攻撃をしてくる講師の人を思い出し、あれと似てる気がしていた。いつの間にか眠気が襲って来て、瞼が落ちてくるのと戦う……マリーさんの反応はあの感じと似てた。
いやまあ講師の人はそんな事は思ってないかもしれないけど、あそこまで毎回、眠りに誘われるのは何かあるに違いない。次はあんな感じに緩やかにしてみよう……。問題は術を掛けようとしている人と、周りにいる人の全員が眠ってしまう事だ。
「じゃあ、アキちゃんやってみて〜」
「分かったよ」
今日はマリーさんの元部下達の、ギダ隊長以下の隊員達が集まっている。ベールを被っての訓練と、ついでに僕の眠りの魔法の範囲を調べるみたいだった。今日は周りは気にせずに、精神治療を行ってみる事になっている。
広範囲に闇の魔法をそっと広げる。それぞれの位置に付いてる隊員達は気にせず、そっと掛けていく。癒しの波動を送り続ける事十五分後、静かな夜が一層静かになった。
スフォラに連絡をつけて貰おうと思ったら、起きたみたいだった。あれ、寝てた?
「誰か起きてますか?」
「終ったの〜?」
「はい、マリーさん」
訓練場の外にいたマリーさんからは返事が聞こえた。他は返事がない、寝てるみたいだ。
「全滅〜?」
マリーさんは全員の場所まで行って、しっかりと確かめていた。皆、すやすやお休み中だ。ポースも寝てるみたいで反応がない。隊員達のスフォラー達もお休みみたいだ。
今日は本気で遠慮なく、と言われたのでしっかりと癒しを行った。好い夢を見てそうだ。でもそろそろ起こしてあげないと、幾らアストリューでも冬場はちょっと外で寝てたら危ない。
「待って、このまま続けましょう〜。ポースの歌を撮ってあるから、これを見て頂戴〜」
「どうするんですか?」
「アキちゃん、もう一度ゆっくり癒しをしてくれる?」
言われた通りに闇の魔法を広げた。マリーさんはゆっくりとボリュームを上げて、ポースと紫月の歌を聴かせてくれた。この時の踊りを思い出しながら、癒しの波動を送り続ける事五分後、よく見ると皆が動き出したみたいだ。もしかして踊ってる? ポースは自分の歌に声を重ねて歌っていた。
マリーさんも苦笑いしながら踊っている。うん、僕も踊っておこう。好い感じで暖まったところで、終りにした。皆、まだ寝てる? 起きてる?
「みんな起きて〜」
「んお?」
「移動してるぞ、どうした」
「どうなってる?」
マリーさんが声を掛けて、まだ寝てる人には頬を叩いていた。立ったまま寝てて危ないから、次々に起こしていく。踊りながら皆に集合かけたから近くいる。
「えらくいい気分だ。目覚めが爽やかだな」
ポースも目が覚めたみたいだ。良かった、癒しは効いてるみたいだ。
「効果はばっちりね〜、でも誰も抵抗出来なかったのね〜?」
皆は顔を見合わせて首を傾げている。でも、癒しに抗うのって難しそうだよ?
「ほら〜、映像送ったから確かめてみて〜」
僕もポースに映像を見せてあげた。
「これは俺様の歌じゃねえか、こりゃ全員踊ってるのは操られてんだな? 中々面白いじゃねえか、俺様の歌はこれで世界を征服出来るぞ?」
「本当ね〜、アキちゃんと二人で歌と踊りの世界を変えちゃいそうね〜」
「なんてこった。これに誰も気が付かずに、操られてたのか?」
ギダ隊長が頭を抱えている。
「アッキの支配は完璧だな? 俺様の助力が必要だが、これなら何でも出来るぞ、パレードが出来る!」
「俺様、オンステージって訳ね〜?」
ポースは俺様の時代が来たー、と興奮している。隊員達は複雑そうで、大体は苦笑いしている。うーん、悪い事には使わないようにしよう。勝手に掛けたりしないように、これからは練習だね。マリーさんに言ったらそうね〜、と微笑んでくれた。
「今日ので危険性は分かって貰えたから良いけど〜、アキちゃんの場合は組合からストップが掛かりそうね〜」
「どうして?」
「練習以外は当分使えないと思うのよ〜、ちゃんとコントロール出来るまでは、強力な暗示を間違って掛けたら困るでしょ? それに解き方も分かってないし、色々お勉強しないとダメよ〜?」
「それもそうだね。まだ解除は習ってないよ」
「でも、良かったわ〜、癒しの力は成長してるみたいで」
良かった、マリーさんにお墨付きを貰った。その後はなるべく範囲を狭めて魔法を掛けてみた……朝、目が覚めたら自分のベッドの上だった。昨日の練習はどうなったんだろう? まあ良いか、とても気分が好い。




