52 洗礼
◯ 52 洗礼
「目が覚めましたか?」
メレディーナが話しかけた。
「……はい、お姉さん」
アキが答えたが、なんだか困惑した感じだ。
「あら、まだおかしいですわね……」
「おかしいの?」
小首をかしげて聞いてくる。まだ子供の仕草だ。治療はもう少々掛かるようだ。
「おかしいね……」
レイもクスクス後ろで笑っている。思った通りにいかない中々楽しい治療だ。
「もう少し、治療が必要ですわね」
「そうみたいだね」
「ま、今日はこのままにしましょう」
「そうだね、新しいアキ、おはよう」
「おはよう、お兄さん」
お兄さん……いい響きだ。今日はずっとお兄さんと呼ばせよう。メレディーナもお姉さん呼びが気に入ったみたいだ。
「じゃあ、アキ、今日は霊泉に入って綺麗にして貰おうか。マッサージだよ」
「まっさーじ、何するの?」
「楽しい事だよ」
「うん、楽しいのする」
「じゃあ、行こうか?」
素のアキだと恥ずかしがって、こんな風に楽しくはマッサージに応じてくれないしな……ここでしっかりと抵抗をなくしておいてあげよう。ついでにマリーも呼んで綺麗な服にも慣れさせておこうかな。メレディーナにもその事を伝えたら、了解してくれた。さて、まずは楽しいお風呂からだね……。
「目が覚めましたか?」
「メレディーナさん、おはようございます……?」
なんだか変な感じだ。
「ようやく戻ったね。心配したよ、アキ?」
二人とも毎日、会ってた気がする。
「……どうなったの?」
「覚えてる?」
「え、と?」
思い出したいが、なんだか記憶が遠い所にある感じで中々出てこない。
「ゆっくりで良いよ、五日ほど治療してたからね」
そんなに寝てたのか……それだと分かるよ、こんなに思い出しにくいのはそのせいだ。えーと、最近は何してたっけ?
「あ、探偵団。張り紙を見てない気がする」
「探偵団なんて、面白そうな事してたんだ?」
「うん、えーと。僕が張った張り紙がいつの間にか剥がされてたんだ。聞いたら妨害されてるって言うから、誰がそんな事してるのか暇だから調べようって……で、その途中、あーっ? なんか連れて行かれたよ、銀枠の勉強会の人に。あっ、夢縁警察が間違えて違う人を捕まえたみたいなんだ。大変だよ!」
僕が慌てて起きようとしたら、レイがベッドに戻してくる。
「うん、落ち着いて、大丈夫だよ。全員捕まったから。ね?」
「そうなの?」
あ……五日も経てばそうなるか。
「スフォラがちゃんと、夢縁と神界の警察に映像を送ってたからね。夢縁の失態は、神界警察の管轄だからちゃんと訂正されてるよ。間違った人も実を言うと間違ってなかったんだよ。犯罪だって分かってて、報酬の為に手を貸したみたいだからね」
「……報酬? そんな事が?」
報酬の為にって……そんなので良いんだろうか。
「可愛い悪戯程度で何か良い物が貰えるなら、捕まってもやりたいって人がたまにいるんだよ。ボクもよくわからない心理だけどね」
「そうだね、僕も分からないよ。沖野さん達、大丈夫かな……」
「大丈夫だよ。派手に夢縁警察が建物を取り囲んで、彼らを捕まえたみたいだからね。今頃は探偵の事なんてやってられないと思うよ?」
そんな大捕り物を見逃したのか……出来れば外から見たかった。
「やっぱり犯罪だったんだ?」
「当然だよ。大体、無理矢理に連れて行ってる時点でダメだしね。アキは攫われ慣れてるから分かってないかもしれないけど、普通ダメだよ? ちゃんとあの時点で連絡くれないと困るよ。それに、早川だっけ? うん、そいつと同じ秘密の吐露を促すあの呪術を掛けようとしたし。スフォラが跳ね返したからそっちは掛からなかったけど、あの真木って言う人は、精神支配の呪術も掛けて来たよね?」
あの、金枠の黒のブレザーの人は、真木って言う名前だったのか。いや、それよりもあの呪術を掛けて来たんだ。
「うん、多分そうだと思うんだけど、初めてされたから良く分かんないよ」
「それで合ってるよ。あんな大雑把な術で引っ掻き回すから、アキは倒れたんだよ。うまい人なら気が付かないくらい上手にやるんだよ、あれって。それに、夢から逃げられないように、わざわざ拘束の術まで床に用意してたからね。あれはかなり酷い罰が与えられると思うよ……レイカちゃんがこの寒いのに夢縁の湖で泳いでこさせれば? とか言ってたからね」
レイが思い出したのか、ブルブルと震えている。確かにその罰は遠慮したい。確実に沈んで浮かんで来れない気がする。いや、たまに好き好んで泳ぐ人もいるみたいだけど、僕は遠慮するよ。
「そういえば、その真木って人は術を跳ね返したのに、掛からなかったね」
「そうだね。それだけタフな精神ってことだね、アキもあのくらいは出来るように……なりそうにないね、どっちかというと繊細さが売りだから無理だね。対極のどっちも欲張ってもどっち付かずになるだけだからね」
という事は、あの人はタフさが売りなんだね? それなら湖も泳いでしまえるかもしれない。




