51 破壊
◯ 51 破壊
家族とリビングで寛いでいる間、高校の教科書を見ていた。
「……千皓、高校に行きたいのか?」
父さんが聞いて来たので、夢縁で通信で通ってる事を言った。
「そうか、ちゃんと勉強してるんだな、友達はちゃんと出来てるのか?」
心配性な父さんだ。
[出来てるよ。こないだ買って来た最中を売ってる店で、一緒にぜんざいを食べたよ]
「ならいいんだ。ちゃんと楽しんでるんなら良いんだ」
[うん、心配ないよ。そこは大学もあるからね?]
「そうか、ちゃんと勉強してるんだな。良かった」
父さんはそれで安心したみたいだった。
[うん、ちゃんとして貰ってるから心配ないよ]
横で母さんも微笑んで聞いていた。
「お兄ちゃんはお父さんに似てるから、心配だよ」
「玖美、大丈夫よ。父さん程鈍くないから」
母さん、そのフォローはあんまりじゃ……父さんが落ち込んでいる。お福さんに慰めてもらっている父さんが可哀想だ。
[父さんは鈍くないよ、母さん達がしっかりしてるんだよ。優しい父さんは好きだよ]
「千皓……」
父さんとの親子ごっこを冷やかされつつ、家族の夜は更けて行った。
「鮎川、顔を貸してもらおうか」
突然、声を掛けられて振り返ったら、メールを大量に送りつけて来て警察に一ヶ月の謹慎を言い渡されてるはずの二人と、知らない誰かだった。確か、夢縁の警察にそういわれたと思ったけど……違ったんだろうか?
「警察にチクるとは何様のつもりだよ? ま、見当違いの奴を処分したみたいだけど」
小馬鹿にした様な笑いを浮かべて、松田という名前の人が言った。名前はスフォラが教えてくれたが聞いたっけ?
「ざまあねえよな。警察くらい簡単にかわせんだよ、バーカ」
「そうだ。自分だけ警察とのパイプがあるからって良い気になって、思い知ったら良いんだ」
という事は、メールを送った人物とこの人達は別ってことで、更に悪い事に見ず知らずの人が捕まったみたいだ。それともこの人達が故意に罪をなすり付けたんだろうか? 両腕を二人に掴まれながら、どこかに移動して行く。その間も何やら話し掛けられているが、なんだか嫌な感じだ。
「お前じゃ分からない方法があるんだよ、バーカ」
「メールを送ったのは貴方達? っていうか離して下さい」
二人に両脇を取られて、ほぼ引きずられながらどこかに連れて行かれる。身長差でつま先しか付かないじゃないか!
「用があるって言っただろ、質問してんじゃねえよ」
「良し、着いたぞ」
連れてこられたのは、どこかの使われてない講堂だった。そこにも三人がいた。黒のブレザーを着ている。金枠の人と銀枠の人だ。
「そいつか? 警察と繋がってるのは」
「そうです、約束通り連れてきました。これで仲間に入れて貰えるんですね?」
「急かすな、そいつが持ってる情報次第だ」
そう言ったと思ったら、何かされたみたいで頭が痛くなったが、直ぐに収まった。見ると金枠の人がふらふらしている。
「何しやがる。こいつ……あぶねえな」
こっちを睨んで完全に怒っている。どうやらスフォラがやってくれたみたいだ。
「大丈夫ですか?」
隣にいた銀枠の人が、ちょっと残念そうな表情をちらりと見せてから金枠の人に声をかけた。
「術を返しやがって、お前が早川を捕まえた奴だろ?」
「本当ですか?」
「黙ってろ、答えろ! 夢縁警察の関係者だなっ?」
腕を掴まれた。また、何かされたのか気持ち悪い……僕は気分が悪くなって膝をついた。目眩がして俯いてたら、髪を掴まれて目を合わせてきた……口が勝手に動いた。
「違う」
神界警察とはそういえば関係、あったかもしれない。そんな事を考えてたら、次の質問が来た。
「違うならなんで警察がお前の為に動く? 理由を答えろ」
質問の度に気持ち悪いのが来る感じだ……吐き気がしてきた。
「倒れたから」
うん、危ないところだったと聞いたよ? また、気持ちの悪いのが来た。吐きそう、耐えられないよ……掴まれている腕を振り解こうとしたけれど、力が足りない。あ、これって影の精神支配だ? もうダメ、吐いて良い? 吐いて良い? 吐いて良い?
「夢縁警察の誰を知ってる?」
「吐いて良い?」
「質問に答えろ」
「質問に答えろ」
「馬鹿にしてんのか?」
「馬鹿にしてんのか?」
「ち、壊れたか」
「ち、壊れたか」
「吐いて良い?」
「良いよ。これかな?」
レイは甲斐甲斐しくアキの世話をしている。クッキーを渡してやると嬉しそうに食べ始めた。直接意識を探られたせいで、変に閉じた意識を改善中だ。全く、余計な事をしてくれる…。
アキは全部の台詞が、吐いて良い? しか言わなくなってるし、三歳児程度に退化している。中々面白い症状だ……メレディーナはあんまり面白いから、研究までして殆ど治療してない。まあ、そろそろ資料も揃ったみたいだから治療に入るかな?
メレディーナが部屋に入って来た。
「あら、アキさん美味しそうですね? まあ、お口が汚れてますよ」
後ろのイーサが、直ぐにアキの口元を拭いている。
「もうそろそろ、治療に入るのかな?」
「ええ、そうですね。このままでも可愛いのですが、仕方ありません。戻しましょうか……守りの方もやり直しですね」
なんだか名残惜しそうだ。
「分かったよ」
アキがイーサに吐いて良い? を言っている。クッキーを渡しているのであげてるみたいだ。




