47 発散
◯ 47 発散
地球の自分の家でテレビのニュースが流れるのを見ていた。ジェッダルのメンバーが捕まったというニュースだ。素顔の写真が流れたが、高峰という人とどことなく似ている。後で聞いたら、兄弟だと聞いた。後はタキ一人だが、この世界に今はいない事は確かだ。
全員、夢縁関係から脱線して、邪神やら悪神に傾倒していったのか、それとも最初からそうだったのかは分からない。そういう細かい所は教えては貰えないからだ。今は灰影の者も入って来れなくなってるから、これからは変わっていくはずだ。
今日は母さんと妹はお出かけだ。妹はマリーさんの作った服を来て出かけて行った。ケーキバイキングに行ったみたいだ。僕も行きたかった……。妹が着飾った姿を画像に納めてマリーさんに送っておいたので、今頃は喜んでいると思う。
妹はもう違うアイドルに目覚めたみたいで、何やらまたグッズを集めていた。今度はまともな事を祈ろう……。
地球も第一級の警戒態勢みたいで、神界の出入りも厳しくチェックされている。なので、家族のいない家にじっといるのも変だ。取り敢えずはお福さんのアストリュー入りが、僕と一緒になったので今日のご機嫌伺いをしてからアストリューに戻ろう。
お福さんと一緒に組合の日本支部に付いた。ここから部屋を変えて、アストリューだけどマリーさんに買物を頼まれている。地図を見ながら、日本の神界のお店に入って色々と買い物籠に入れていく。後は、調味料を買ったら終わりだ。
「あれ、紅芭さん。買物ですか?」
「あ、アキさん。アキさんこそ買物ですね? 私も香辛料を……」
僕の買物籠に入ってるお福さんを見てから微笑んで、唐辛子を見せてくれた。随分多いけど、キロ単位とかじゃなさそうだ……。
「マリーさんに頼まれてクミンを買いに来たんです」
「カレーも良いですね……」
「良かったら、食べに来ますか? 蒼史も一緒に……」
「いいんですか?」
「はい、是非」
「では後でお邪魔します」
「出来上がりには連絡しますね」
それで一旦、別れた。今度、蒼史もスイーツ巡りに誘ってみようかな。そんな事を考えていたら、メールが来た。見ようと思ったらどんどん来て、一気に200件来た。何これ? スフォラからウイルスの入っている物があると注意が来ている。
取り敢えず、マシュさんに見てもらおう。急いで買物を済ませてアストリューの家に戻って、マシュさんにウイルス入りが来たと報告した。
「ウイルス? 見せてみろ。……振り分けぐらいは出来るだろう」
白目で睨まれてしまった。スフォラにウイルス入りとそうでない物を分けて貰った。二百件のうち一件だけ普通のメールだった。開けて読んでみたら、子供の悪戯みたいな文章が書いてあった。
「ばーか、ばーか、ばーか……死ね、お前のせいだ、天誅。……まともじゃないな、何処の悪戯小僧だ? レベルの低い友人だな?」
そこに、またメールが届いた。また、200件だ。取り敢えず振り分けて貰ったら、また一件だけウイルスの入ってない物があった。
「内容は似た様なもんだな、倒れるなんて弱いのに夢縁来るな……か。心当たりは?」
「銀枠生だ。昨夜、強引に勧誘して来た人が話しかけて来て……なんでメールアドレス……あっ、スイーツ巡りだ」
「なんだ? スイーツ巡り?」
「うん、間食、スイーツ巡りの会の会員募集の張り紙を貼ってて、メールアドレスを書いたから」
「なるほどな……で、怨まれる原因はなんだ?」
「さあ……なんだろう」
そこにまたメールが届いた。200件だ。今度も一通だけウイルスに掛かっていない。また読んでみると、
「公に知られたのはお前のせいだ、か。これだな、逆恨みじゃないか? なんかやる気が失せた。夢縁の警察にでも相談しろ」
「うん、そうするよ」
次に同じタイプの物が来たら、スフォラに別で保存して貰う事にし、夢縁警察に連絡をした。少ししてから怜佳さんが、こんな子供の相手をしないといけないなんて、夢縁も落ちぶれた、と悲しみのメッセージを送って来た。そうですね……。
カレーの鍋をかき混ぜながら気分はこんな色だなんて思う……うう、今日は愛情たっぷりは無理だ。
「アキちゃん、気を落とさないで〜、ね?」
「マリーさん……」
「こんな風に人にぶつけるだけじゃ、ダメなのに……強い者に不満があるなら、そっちに向かって行けば良いのよ、前の時と同じよ。不満のはけ口をこっちに向けてるだけよ」
……そう言われれば、そうかも知れない。今回は少し関わりがあったから何となく、自分は気分を害する存在なのか、と落ち込んだけれど何か違う。僕も怒っていい気がしてきた。
前の強引な勧誘は銀枠生なら誰でも良いから、人を連れてくる事に重きを置いてた。けど、彼らの被害の内容を知らないから強く言えないし、こないだのは仕方ないと許してたのに、今回は明らかにおかしい。
折角、不問にしてたのに、前の事だってこれじゃあ怒りが湧き上がって来る。幾ら被害にあってたからって、他人も同じ被害に遭わせようなんて、酷いよ! その上に僕が被害にあったのが分かった途端にこんな変なメールを送って来て……弱い者いじめじゃないか?! 僕が倒れたのは悪くないっ、事故だからっ!!
何で僕に恨みをぶつけるんだ、相手を間違ってるよ。僕だって慈善事業じゃないんだから怒るよっ。
段々カレーのボコボコ具合と同じくらい煮えたぎって来た。
「むー、怒ってきた」
「そう、ちょっと発散させた方がスッキリするわ〜」
マリーさんの勧めに乗る事にした。カレーが不味くなったらダメだ。
「そうだね、ちょっと発散してくる……」
「いってらっしゃい〜。出来上がったら呼びに行くわね〜」
「うん。行ってきます」
僕は訓練場に向かった。いつもはスフォラが魔法を打ってる所に、石を投げて当てていた。全力で五回も投げればかなりスッキリしたので、帰ろうかと思って振り返ったら、マリーさんがいた。
「あれ、カレーは?」
「え〜、もう終わりなの〜?! もう良いの〜?」
マリーさんが発散しそびれた顔をしている。
「え、いいよ?」
「紅芭ちゃんが作ってくれてるから、もっとがつんとぶつけて良いのよ〜?」
そっか、二人が来てたのか。
「ぶつけたよ?」
「まあ、本人がいいなら良いんだけど……。意外にコントロールは良いのね」
「そうかな。偶々当たった気がするけど」
「もうちょっと投げてみて〜」
僕は投げてみた。外れた。
「もっと集中してから投げて〜?」
また投げた。明後日の方向に飛んだ。
「……適当に投げて〜」
真ん中に当たった。……ま、そんなもんだよね?
「アキちゃんは狙っちゃダメな人ね。気分のコントロールがとっても難しいわ〜。戦ってる時は投げちゃダメよ? 味方に当てる可能性が大きいから〜」
何かとってもあり得そうな構図だ。その忠告には従った方が良いかもしれない。
「分かったよ……」
その後、食べたカレーは涙が出るくらい辛かった。決して僕が、陰鬱な気分と怒りを込めて作ったせいじゃ無いと思う……。




