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4 仲間

 ◯ 4 仲間


 とうとう、避けていたあの日が来た。ホラーハウスでのお泊だ。その日までに僕はレイとマリーさんに死神に付いての説明を受けた。


「冥界からの使者という感じかしらねぇ」


「死んでも彷徨ってる霊魂を連れにくるって仕事もあるみたいだね、その世界によってちょっと違うのかな?」


「そうねぇ、そこの神が冥界との関係をどう結んでるかで、変わってくるわね〜。自身の所で専用に冥界を作っている所もあるし、完全委託制もあるし。そんな死神の組合もあるのよね〜」


「冥界の仕事は魂の浄化や記憶の排除、傷ついた魂の修復、治療。転生システムの監理、それから……地獄の監理」


「それが一番大変よね〜。あの邪神達を押さえ込んでるんですもの。戦いのエキスパートよ〜」


「……まあ、要するに天界の裏口の一つでもあるかな? 地獄からの出身者も多いからね」


「まあね〜、守りたいものがあるかどうかの差かしらね……人それぞれだけど」


「取り敢えず、アキには荷が重い仕事だと思うよ。幽霊のくせに、パンフレットの絵でもうすでに怖がってるんじゃ……」


 横目でじろりとこっちを見て責められて仕舞った。すいません……。


「大丈夫よ。この死神の組合がやってるテーマパークで、ちょっとは慣れるわ〜」


「うん。それに死神に興味がある方はこちらまで、の下にオプションが書いてあるよ。死神の学校一日体験! 申し込んだからね」


 レイが嬉しそうにこっちを見た。


「ひい〜、そんなぁ」


「だって他は吸血鬼族の良い棺選びの講習とか、オオカミ族の満月のデート講座、レイスの効果的なポルターガイストの習得方法とかだよ?」


 どれも聞くだけで恐ろしい。本物に教わるなんて……あり得ないよ。

 しかし、もうそこに向かう列車に乗っている。暗闇の中を走る列車はかなりの骨董品で、すでにお化けが出そうだった。薄ぼんやり灯った壁掛けランプが、時折光を弱めたりして不気味さを更に演出していた。


 駅に着いたので降りる為に、それぞれ荷物を持って床をギシギシならしながら降りた。幽霊だと着替えが要らないのが一番良いよね。おやつとタオルと歯ブラシだけは持ってきた。

 後は紫月の荷物で主に寝床のバスケットだ。今は気分を盛り上げる為かコウモリの姿になっている。スフォラも一緒になってコウモリをやっていた。スフォラは分体の方で本体はアストリューでマシュさんが何か弄ってるみたいだ。

 降りるとそこはやっぱり薄暗い駅で、お化けの街の中だった。頭に斧が刺さった人が横を通り過ぎ、僕は早速気を失った。


「しっかりするんだ……アキ、目が覚めたか?」


 頬を叩かれる感覚で目が覚めた。あれ? 蒼史がいる、隣には紅芭さんだ。久しぶりに狐耳バージョンを見てる気がする。二人の仕業か駅のベンチに寝かされていた。


「あ、れ? えーと……」


 そこにマリーさんとレイが誰かを連れて戻って来た。


「目が覚めた〜? もう、いきなり倒れたらビックリするじゃないの〜」


「そうだよ。まだ着いたばっかりだよ。楽しまなくっちゃ」


「お客様、大丈夫でしたか?」


「あ、この人が今回の案内人だよ」


 眼帯をつけ、シルクハットをかぶったアンティークな服装をした人が話しかけて来た。19世紀頃のヨーロッパ風だろうか? 良く知らないけど。


「ご紹介に与りましたこちらのホラー街の観光協会の御者をしております、カミルと申すものです。滞在中は移動のお世話を致しますので、よろしくお願い致します」


 ご丁寧に帽子を取って挨拶してくれた。胸に銃創らしき痕が無ければもっと良かったのだけど。僕は見なかった振りをした。


「こ、ちらこそ、お願いします。アキです」


 ちょっと涙目になったが、なんとか挨拶した。伊奈兄妹も挨拶していた。どうやらこの駅で待ち合わせだったみたいだ。


「あなたもゴーストですな、お仲間同士よろしくお願い致しますぞ」


「う……はい」


 そうでした。お、お仲間でした。カミルさんににっこりと笑って言われるまで、自覚が出来てませんでした。駅から外の街へと案内されて、馬車の後ろに荷物を置いた。観光用なので、窓が大きく取られた馬車はゆっくりと進んだ。まだ昼間なので活動時間外なのだそうだ。


「今のうちに御滞在される屋敷にて、少し休まれた方が楽しめますよ。本格的な活動は夜ですからね、我々は」


「そうね〜、じゃあそうしましょうか。アキちゃんも今のうちにちょっとは慣れるのよ〜」


「ここのテーマパークは人数は多いの?」


「ええ、多いですね、死神様のご威光でスタッフもやる気が違いますから。元々、人を楽しませるのが大好きですからね、ここの連中は。驚かせた際の、お客様の発する気を少し頂いて生活している側面もありますから、気合いも充分です」


「へえ〜、それは楽しみだね」


 レイは本当に楽しそうだった。紫月はレイの肩の上でうつらうつらしていた。移動で疲れたんだろうか。スフォラは僕の肩の上だ。


「お客様、着きました。こちらが今回御泊まり頂く場所です」


 如何にも怪しげな洋館が見える。門扉が勝手に不吉なぐらい軋んだ音を立てながら開いた。庭は枯れ木が多く目立ち、屋敷の裏には鬱蒼とした木々が生い茂って、ザワザワと風もないのに揺らめいていた。


「ようこそいらっしゃいました、蒼刻の館へ。お荷物はこちらで御運びしますので、どうぞ御入り下さい」


 ちょっとホテリエっぽい感じだ。後ろ姿が真っ黒焦げじゃなかったらだけど……。蒼史の方へと飛び退きながら、彼の後ろ姿から目を逸らした。


「大丈夫か?」


 蒼史にちょっと笑われながら聞かれた。


「な、なんとか?」


 ちょっと強がってみたが、最後が尻上がりに裏返って疑問系になった。


「本当にダメなんですね……」


 紅芭さんが呆れを含んだ目で見ている。分かっています、お仲間なんです、お仲間だってことは。もう、既に胃の辺りが痛い気がして来た。

 館の一室に案内されて、しばらく御寛ぎ下さいと言われた。マリーさんとレイが同じ部屋で、その隣が僕と紫月、更に隣が伊奈兄妹の部屋になった。

 部屋も重厚そうなインテリアで纏められていてやっぱり薄暗い。仕方ないのでライトの魔法で少し明るくして見た。お風呂やトイレなどをチェックしながら、恐る恐る部屋の中を一通り確かめた。良かった、普通だ。紫月と夜まで一眠りする事にした。


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