43 精神
◯ 43 精神
部屋は神界警察とも繋がってたみたいで、ベッドの上に座ってぼんやりしていたら、加藤さんが出て来た。
[あれ? 加藤さん。これ、警察にも繋がってるんだ……]
「ああ、今繋げた。家族にも緊急用の連絡が出来る物と、お守りが配布される」
[分かりました。ありがとうございます]
「後で伊東が説明に来る。こないだはありがとな、じゃあな」
加藤さんは元気そうだったので、怪我はもう良いみたいだ。夜になって、伊東さんがこっちに説明に来た。家族はよく分かってなかったけど、レイの手作りのお守りはちゃんと守ってくれるのを伝えたので、安心したみたいだった。
家の壁の穴は現在修復中だ。通りに面した壁を丸ごと工事しているので、また強化されたみたいだ……。防犯カメラまで付けて映像が神界に届くようにしている。異世界に逃げたから、もう大丈夫じゃないんだろうか?
僕はアストリューの家に行って、ポースと話していた。
「自伝はもう良いの?」
最近また調査員達とお話しを始めた、と聞いていたんだけど、今回の書き手さんはポースと合ってるのかな?
「いや、俺様の怒濤の三週間を小さく纏めようとするから、書き直して貰っているのさ」
なんだか残念そうな気持ちが伝わってくる。書き手さんは年代記にしてるのかな?
「そうなんだ。それは残念だね」
「分かってくれるかこの気持ち……。それはそうと、魔法の方はどんな感じだ?」
「うん、ライトは色々な色に変化させれてるよ。結構楽しい。霧の魔法も覚えたし、凍らせてダイヤモンドダストっぽくしたらすごく綺麗で……」
「おいおい、闇の魔法は出来ねえのか?」
「えーと、今、覚え中だよ。影を操るんだよね? で、そこから精神攻撃とか……逆に癒す事も出来るって言ってたっけ?」
何か難しいけど、影と言っても目に見えてる影だけじゃなくて、精神とも繋がったオーラだかプラーナだか知らないけど、それの一部に影響を与える為の魔法だそうだ。蒼刻の館のファルーラさんが夢の中で僕に使ったのもその内の一つだと聞いた。
「そうさ、影を操るのは邪神や悪神に取っちゃ、出来て当たり前だからな。癒すとかは知らねぇが、影から相手の精神世界に影響を与えるんだ。暗黒の影の使い手ともなると、一瞬で相手を狂気に陥れる事だって出来るからな……どれだけ狂気を内に飼ってるかで勝負は決まる、そういう世界だぜ?」
「そんな狂気なんて……」
想像付かないよ、そんな世界……。
「確かにアッキには精神攻撃は諦めた方がいいな……。実は俺様も苦手だぜ。何故か呆れさせるか怒らせるしか出来ねぇからな。俺様に跪いて崇めさせたいんだがさっぱり効かねぇ」
確かに神殿で見る最近の調査員達は、怒っているし呆れて目が虚ろで諦めのような何か投げやりな感じが出て来ている……何かすごくストレスが掛かっているみたいだったけど、ポースが変な魔法を掛けてたんだろうか?
「調査員達に闇の魔法でも掛けたの? 最近怒ってる人が多いし、練習してたの?」
「いや、わざわざ聴衆の皆にそんな野暮な事はしねぇぜ? 俺様の為に自ら働いてくれる貴重なファンだからな、大事にしてるぜ?」
ファン? ……そういえばあんな状態でも、ああやってお仕事するなんて、すごく熱心だと思う。確かにファンでないと出来ない。
「そうだったんだ。あんまり働きすぎてあんなになってたんだね、ちょっと休憩をさせてあげた方が良いかもしれないね? 倒れられたら、良い本が出来ないし」
「それもそうだな、俺様のペースに付いて来れてねぇんだな。あいつらはちょっと根を詰めすぎたな。俺様は優しいからしばらく休みを与えてやるか」
「うん、それが良いと思うよ」
テープで仮止めした体を揺らして調査員達にポースが優しい気遣いをしたので同意した。
「この前、音波を使って攻撃してくる人がいたんだ。音も精神攻撃が出来るの?」
確かギダ隊長がそんな事を言ってた気がする。ポースは長い間存在しているし、物知りだから聞いてみた。
「あ? ああ、出来るぜ。そっちは生きてる人間なら直接脳波に影響を与える感じで、振動に寄って精神やら、気分にも影響があるからな、影と両方を持ってると最強の精神支配が可能だぜ? 確かへラザリーンって悪女神がいたはずだ。死の子守唄で自分の支配下をどんどん作ってるんだ。女の歌を聴いただけで心が死んで、女の都合のいい事しかしなくなる……生きた奴隷が出来るからな、ある意味その道のプロだ。だが、自分の魅力に自ら従おうって奴がいてこそ、自分の価値が上がるってのに俺様は最近、気が付いたぜ。あのファン達がいてこそ、俺様の偉業が活きるんだってな」
ポースがすごく良いことを言っている。確かに、支配なんてしなくても友達は出来るし、ポースにだってファンが付いてる。
「そっか、調査員達はそんなにポースの事、大事にしてくれてるんだ。ポースもファンを大事に思ってるんだね、きっとすごく良い自伝が出来るよ。感動ものだよきっと」
「そうさ、涙無しじゃ読めねぇぜ?」
「楽しみだよ」
「期待してくれっ!!」
「僕も魔法を頑張るよ」
「その調子だ、アッキ。で、歌は得意か? 俺様は歌は得意だぞ、デザージの奴も俺様の歌には言う事を聞いたからな」
自慢のようで声に自信が込められているのが伝わった。
「おおー、悪神まで操るなんてすごいね、才能あるんだ」
「勿論だっ! ここは披露してやるか、親友の為だっ!」
「本当? ステージは任せてよ。スモークと照明はばっちりだよっ!」
「やるじゃねえかアッキ、見直したぜ!」
家のリビングの一角がステージになった。紫月とスフォラが観客だ。スポットライトをポースに当てると、歌が始まった。
歌はボイスパーカッションまで付いていた……本だから息継ぎが要らないし、一人アカペラに自分で伴奏を付けて本格的だ。めちゃくちゃ乗りの良い歌だ。紫月が一緒に歌っている。気分は楽しく、盛り上がって僕はスフォラとダンスを始め、お福さんも何か間の手らしき鳴き声を披露していた。僕のダンスは盆踊りの変形ね〜、と騒ぎを聞いて部屋から出て来たマリーさんには後で言われた。




