42 対面
◯ 42 対面
三日後、家が大きく揺れ、何かぶつかったかの妙な音が聞こえた。平日の昼間は僕しかいないから、急いで外を二階から覗いてみたら、四人ぐらい走って行くのが見えた。そのまま外に出るのは危ないので、神界警察に連絡してから闇のベールを被って一階の窓を通り抜けてみた。
う、出来るのは分かってるけど……実際やると気持ち悪い。たまに気が付かずに椅子とか体にめり込んでて地味にショックを受けてたりしてたんだけど、自らやることになるとは……。
一階の窓の横の壁が、めり込んでいた。うぁ〜! まだローンが残ってるのになんて事を〜!
「驚いたな、死神の家だったか」
僕がその声に振り向いた途端に、殴られた。庭の生け垣をすり抜けて道路に転がった。運悪く、車が一台走って来ていて、敷かれると思った時にはすり抜けていた。はあ、助かった。
いや、それより逃げなきゃ……僕はそのまま逃げようとしたが、腰が抜けていて立ち上がれなかった。振り向くと、生け垣を超えてかっこ良く着地を決めた男がいた。なんか、気障なくらいの仕草をしながら、近づいて来る。はっきりと僕を見ている? いや、ベール越しに目が合ってないから、ぼんやりとだ。……家の影から出て道路の昼の日差しの下では闇のベールでは隠れようが無い。
でも、家の影でも殴られたから、少しは見えてそうだ。
「どうした、逃げないのか? 遠慮無く首を取るぜ? こんな楽な仕事が出来ないなんて、一香の奴馬鹿じゃね?」
[!]
あの一香の仲間だ。僕は手に魔結晶を握って、ゆっくりとベールの外に出した。こっちでも有効か分からないけど……スフォラも体に防護を張ってくれている。目の前の人が何か叫んだ。振動を少し感じたが、どうなったんだろう?
よく見ると、ベールの端が切り裂かれている。目の前の人物は鼻から頬にかけて赤い筋が入っていた。じんわり血がにじんで赤い筋が広がってる。角を曲がる足音がして、横目で確認したら加藤さんだった。
「っ! 小野寺 滝だなっ!!」
「ちっ、早いな」
そう言ったと思ったら、また何か叫んだ。
「カハッ……」
加藤さんはいきなり倒れた。スフォラが音波の攻撃だと教えてくれる。確か、このベールが少し役に立つはず……倒れてる場合じゃないのに。加藤さんの後ろから追いついた神界警察が走って来た。小野寺と言われた人は、加藤さんが倒れたと同時に逃げ出した。警察も追いかけ始めたが、このままでは危ない。僕は闇のベールを警察の前まで広げて声を届ける。60メートル程先だ、間に合え!
[音波です、気をつけて下さい]
言い終わると同時に、調度振り返った小野寺が叫び、ベールが裂かれて直ぐに消えた。慌てたからうまく保てなかったみたいだ。
「何っ?!」
「面倒なっ」
「死神は?」
「連絡した。距離を置いて付けろ!!」
「アキちゃんっ!!」
家の転移装置から出て来たマリーさんが、二階の窓から飛び降りて来た。
[マリーさん、加藤さんが……]
マリーさんが加藤さんの傷を見てくれた。
「大丈夫よ〜。傷はそんなに深くないわ、防護してたみたいね」
良かった、さすがに防護はしてたみたいだ。
「すまん、肩を貸してくれ……」
今頃、殴られた場所が痛い。マリーさんは加藤さんに光のベールを掛けて、お姫様抱っこして家の中に運び、その後に僕を運んでくれた。
「よく頑張ったわ、あれは早々に何度も放てないから、追っかける方も少し楽なはずよ〜」
[そうなんだ?]
「逃げ足は一香ほど速くないと思うわ。……ジェッダルのタキよ〜」
[そうだったんだ]
言われてから思い出そうとしたが、顔が思い出せなかった。そもそもメイクが施された顔と、さっきの顔とじゃ僕には見分けがつかない、案外普通の顔だった気がする。池田先輩の方がイケメンだ。
「速攻でこっちに来て良かったわ〜」
[ありがとう、助かったよ]
「警察も壁を壊した四人組を追いかけるはずが、妙な力の波動を感じて、何人かこっちに慌てて引き返して来たのよ〜」
加藤さんも頷いている。どうやら、加藤さんは僕の家の様子を見に来てくれてたみたいで、その時に僕に向かって放たれた最初の音波の攻撃を感じたので、慌てて警察の数人をこっちに回したみたいだった。マリーさんは加藤さんの止血を終えたみたいだ。
僕は、魔結晶を見てみた。反応した後があるから、あの頬の傷は返したんだろうか? マリーさんは可視化したスフォラの映像を見始めた。
「音波の性質は広がるから、一点集中の攻撃とは少し変わってくるわね〜、でも返ってたからアキちゃんのベールは端が破けただけで済んでるわ、あいつ自身に音の攻撃が利きにくいみたいだわね〜」
確かに、服も上着が少し裂けてるけど、顔以外は全部防護されてるみたいに被害が無い。それとも返った分の距離が足されて音の効果も薄れたんだろうか? 顔の傷もそれほど深くなさそうだ。
その後、人質を盾にタキは逃げ、警察の攻撃をその人質の少女の体で受け止めようとして、中々近づけなかったみたいだ。マリーさんの予想に反して、タキはどんどんと音波を飛ばして来ていた。日本の死神達も迂闊に近寄れずじりじりとしたみたいだ。
どこかの倉庫に入った後、そのまま行方が分からなくなり、地球世界から逃げた形跡だけが残っていた。追跡はそこで途切れ、人質はその倉庫で助け出されたが、傷が酷いので神界で治療中みたいだった。加藤さんも担架で運ばれて病院に行った。かなり恥ずかしがったが仕方ない。折角の止血が動いたら台無しだからね。
その後は中学生の仲間達も、最初の子と同じで捕まり、同じ処置がされることになった。家の壁に傷を付けたのは彼らで、中から誰かが出てくるのを誘き出す為の罠だったみたいだ。タキは音波を利用して、ソナーみたいに僕が出てくるのを確認したんだろう、とマシュさんが推理していた。でも、異世界に逃げるだけの装置を持っている事が分かって、色々と厄介ごとが増えたみたいだ。
念のために僕の部屋のアストリューに直通の装置は外され、別の物に変わった。異世界間管理組合の地球神界日本支部に寄ってから、アストリューに向かう事になった。不便になった……。登録者以外が使うと牢屋に直通になるみたいだ。まあ、安全の為なら仕方ない。




